CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

皆さん巧く3次元CADを活用できていますか?(その9)



(2012年6月22日掲載からの続き)
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5 量産出図段階

本来ならこの段階にはいると、設計者達の意識は、物作りを漏れなく十分に配慮した、質の高い図面作成に注力される必要がある。試作確認段階で確認が取れた性能や、機能(強度・熱・振動・・・)を崩すことなく、最小コスト且つ安定した品質で、量産が叶う図面を、可能な限り短期間で仕上げることだ。

このために設計者達は、自己の経験や学習で会得した、物作りの知識や知恵を、余すことなく対象図面に注入して、量産準備段階や量産投入時に、後工程の仕事を滞らせたり設計変更要求を頻発させるような図面を、間違っても出図しない心構えが必要になる。

効率よく物作りが出来ないような寸法公差や、経験の無い加工方法を用いないと作れないような図面を作成するなど、例を挙げたらきりがないが、以ての外の話だと言える。

私がこれまで支援してきた、各製造業に要求したこの段階での最終ゴールは、量産準備段階で一切の滞を生じさせず、手戻りも生じさせることもなく、一発で量産を立ち上げることが叶う、質の高い量産出図図面の実現だ。

当然、設計者達が把握できていない、物作りの知識や知恵は、それぞれの専門家に聞き回るなどして、足りない部分を補完する必要がある。未だコンカレントエンジニアリングなどという言葉がなかった、私の現役設計者時代には、設計中の図面コピーを持ち、様々な部署の専門家達に教えを請いに出向いたものだ。サプライヤーの工場見学なども、含めた取組みだ。

しかし、私が技術士事務所を開業し、設計改革などのコンサルティングを始めた以降は、コンカレント製品開発の視点で、違う形での取組みを、支援各社に要求してきた。「物作りの知識や知恵を持っているメンバは、能動的に設計部署を巡回して、可能な限り上流で、物作りの都合、知恵を織り込ませる取組みをしなさい!」

物作りなどの専門家達が、設計者が設計作業をしている画面を覗き込み、その場で設計の意図の説明を受けるとともに、物作り側の都合やアドバイスを行う取組だ。時には、設計担当チームのメンバや、チームリーダなども参加して、実質的なミニデザインレビューが自然発生的に行われることになる。

多くの製造業で行われているデザインレビューは、ともすればセレモニーと化し、限られた短い時間で、アリバイ作り的に行われているケースが多い。コンカレント製品開発という視点では、全く無駄な取組だ。そして私が各社に要求してきた上記の取組は、このような拙さを解消して、実質的なコンカレント設計が叶うように仕向ける取組なのである。自然発生的に行われる、ミニデザインレビューと私は呼んでいる。

さて、この連載で紹介している製造業では、この段階の状況も、はっきり言って惨憺たるものであった。

先にも述べたが、“設計の丸投げ”は、この段階でも当たり前のように行われていたようだ。担当設計者達に直接確認したわけではないが、CAD画面の前にオペレータしか座っていなかった事実からしても明白だ。

では担当設計者達は何をしているかだが、設計管理者への追求で明らかにされたのだが、担当設計者達は、専ら試作確認段階での不具合を潰しきれずに、量産出図段階に入っても、その対策に没頭している事実だ。

ところが量産出図期限は迫っているために、結果として“設計の丸投げ”状態で、素人に毛が生えた程度のオペレータ達に、量産図面設計を担わせていたのである。

中には、同目的の従来部品図をオペレータに示して、加工指示や寸法公差などは、とりあえず参考図面と同じに仕上げるよう指示を出し、検図段階で設計の目的に即して修正していた担当設計者も居たようだが、このような例は極めてレアーケースであった。

そして多くは、“設計の丸投げ” “ザル検図”で量産出図が行われ、その後続く膨大な設計変更要求と、量産立ち上げ滞りの元凶となっていた。

ここまでの、設計上流段階でのアプローチの拙さで、ボロボロの状態にある設計品質では、量産設計段階で、それまでの不都合を解消しろと言っても無理な話で、当然陥いるべき状態に、陥っている悪循環としか言いようがない。

(2012年7月6日に続く)
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