CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

FS(フィジビリティースタディ)についてもう少し詳しく説明ください(短期間で未経験者にCAE技術を取得させたいの続き・・最終回)


■質問■

<前略>

早速のお答え誠にありがとうございました。不躾ですが甘えついでにもう少しご教授頂けますでしょうか。

弊社では、FS(フィジビリティースタディ)と言う言葉を、これまでに聞いたことがありません。恐らく弊社で行っている新製品開発検討会に相当するものだと思いますが、その進め方も含め、もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか

<後略>

■回答■

(2012年3月23日掲載からの続き)
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コスト・生産性検証段階でのFS(フィジビリティースタディ)の進め方

マーケットを勝ち抜くことが出来ると、多くの目で検証された開発仕様が、その仕様を実現するために、新規で開発しなければならない技術(製造・加工技術も含む)を必要とせず、既存の技術や何らかの手段で入手可能な技術で、開発を進めることが出来ると判断できた場合には、FS(フィジビリティースタディ)は、コストや生産性検証の場面へと進みます。


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表5 コスト・生産性検証段階における検証の流れ


これらの作業も、FS(フィジビリティースタディ)参加者全員で、DPD(設計思考展開)展開表上に、表5で示す順を追ってそれぞれを検証し、問題があれば対処方法を考えながら、展開を進めて行きます。

そしてこの場面で用いられ、作成されるDPD(設計思考展開)の内容は、最低表6で示す項目が網羅できており、絶えずそれぞれの要件から、その展開内容への考察が加えられる状態である必要があります。

また上記の様なDPD展開作業を進めていると、各所で粗々の構想設計作業を始めとする、各種検討作業が必要になります。この場合には、複雑な検討作業を要して、長い時間が掛かりそうな案件を除き(このような案件は次回参集までの宿題とし)、短時間(30分程度)で検討可能な案件は、極力その場で、参加者全員の目と知恵で、その検討作業を行うと良いでしょう。


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表6 コスト・生産性検証段階でDPD(設計思考展開)表に網羅されるべき要件


例えば図面上での検討が必要な場合には、その都度、3次元CADを用いて、粗々の設検討内容をプロジェクターで映しながら、参加者全員の知恵と情報を結集させるやり方です。

FEM等の解析が必要な場面では、そのモデル化過程から算出結果までを画面に映して、参加者全員の知恵を寄せ集めると、極めて効果的です。時には解析検討のモデル化方法やその条件の取り方などを、従来製品や競合製品などの実機を前にして、ディスカッションを進めると更に効果的です。

また、実機を前にしてのディスカッションは、従来製品や競合製品の実力値を的確に把握できることにもつながり、それらを新製品に反映させる場面でも、有効に働きます。そしてこのような場合に、高速度カメラやサーモビューアー、モーダル試験器などの、最新の計測機器を用いると、更にその検討効果があがります。

何故なら参加者全員の目の前で、実際の対象機械に起こっている物理現象が可視化されるためです。参加者全員が共通な視点で、物理現象を認識しあえるからです。

さてこの段階におけるFS(フィジビリティースタディ)の押さえ所ですが、量産段階に入ってからのコスト割れや、もの作りに対する不都合を生じさせないことにその重点が移ります。

特に量産に入ってからコスト割れが判明したのでは、話になりません。多くの製造業で、量産に入ってから、その原価割れや採算不良を解消し、何とか採算ベースに見合う粗利を捻出するための、VE・VAを行っている例を良く見かけます。しかも専任のチームを作り、開発部門のミッションとして、定常的に行っている例も少なくありません。

しかし私に言わせると、量産移行後のVE・VAなどは、極めてナンセンスな取り組です。量産に入ってから未だVE・VAが必要だと言うことは、開発部隊がいい加減な仕事をしていた、まともな開発が出来なかったと言うことに他なりませんので。

私がこれまで行った150件を超える現状診断でも、その半分以上の製造業で、この量産移行以後のVE・VAの効果を自慢げに語られました。しかし私に言わせれば、量産に入ってから未だVE・VAをやらなければならないと言うことは、開発部隊の能力が足りなくて、開発目標に到達できていないところを、見切り発車しただけの話として理解しています。

私が何故ここまで言うかというと、開発段階でのコスト設計と、量産移行以後のVE・VAでは、その実効効果に雲泥の差があるからです。何故なら品質・機能確認前のコスト設計では、思い切ったアイデアを、割合気楽にトライすることもできます。開発期間に制約があっても、幾つかのトライ案と安全策案の部品を並行手配しておけば済むからです。

ところが品質・機能確認が済んでしまった製品に対するVE・VAでは、思い切ったコスト低減策を、一発で織り込むような、無謀なことは出来ません。精々枝葉末節な、重箱の隅を突くような手しか打てません。これでは手間ばかり掛かって、その効果が薄いと言う訳です。

要するに、開発段階でコストを詰めきれないと言うことは、開発担当者達が問題を先送りしている行為と言えます。本来なら、設計完成度が上がる都度、しっかりした設計見積もりを行い、常に目標原価との差異を追い続け、最終目標に向けて頑張ることが、開発設計者達の最も重要な仕事の一つであるはずだからです。

私が言う「フロントローディング設計」では、この様なコストの未達は、一切許さない取組を行って貰っています。そしてFS(フィジビリティースタディ)は、このような問題を、後になって生じさせないために、必須な取組とも言えます。