CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

FS(フィジビリティースタディ)についてもう少し詳しく説明ください(短期間で未経験者にCAE技術を取得させたいの続き・・その5)


■質問■

<前略>

早速のお答え誠にありがとうございました。不躾ですが甘えついでにもう少しご教授頂けますでしょうか。

弊社では、FS(フィジビリティースタディ)と言う言葉を、これまでに聞いたことがありません。恐らく弊社で行っている新製品開発検討会に相当するものだと思いますが、その進め方も含め、もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか

<後略>

■回答■

(2012年3月16日掲載からの続き)
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商品開発仕様と保有技術の整合性検討段階におけるFS(フィジビリティースタディ)の進め方

例えば、ターゲットとするマーケット情報の把握などが済み、その商品の開発仕様を如何に置くかを、構想・検証する段階を想定してみます。

私が指導するFS(フィジビリティースタディ)では、スタディがこの段階に入ると、まず真っ先に、自社において仕込みがされていない技術を用いなければ、実現できないような要求仕様が無かのチェックを行わせます。

何故なら、自社で全く経験が無い技術を、織り込むことを前提に、その技術開発を行いながらの新商品開発を行った場合には、如何に優れた技術力を持っている製造業でも、商品開発のQCD(商品としての出来上がり品質、利益を生み出せる工場出荷原価の確保、開発期間)を、バランス良く満足させることが至難の技となるからです。

具体的には、ターゲットとしたマーケットの顧客ニーズから、参加者全員で読み取った顧客が要求するであろう商品仕様と、競合製品が既に商品化している仕様、競合製品が近く織り込んでくるであろう仕様を、まず列記する作業から取り掛かります。

そして、列記した要求仕様から、該当商品の開発仕様を仮置きし、特にこれまで技術的に経験の無い開発仕様に対しては、その提案者の思いや狙いを明記します(顧客ニーズへの応え具合や売れ行きへの目論見など)。

次に、仮置きした開発仕様を、設計的に具体化する為の具現化策を、DPD(設計思考展開)を用いて、次々と追い込みます。当然全体審議に参加した全員が、当事者として積極的にその具現化策を考え、積極発言をすることで、3人寄れば文殊の知恵、30人寄れば“10人の文殊の知恵?”の効果を狙っていることは、元よりです。

展開が一通り一段落したら、それぞれの具現化策及び案に対して、DPD(設計思考展開)展開表に、表3に示すような分類で色分けを行います。


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表3 具現化策の技術状況の分類


このようにして分類が行われると、既に過去の経験を十分に持っている技術を基にした具現化策から、過去に全く経験したことの無い技術を基にした、恐らく出来るであろうという具現化策案までが、DPD(設計思考展開)展開表の各所で色分けされることになります。

@〜Cの技術に分類された具現化策については、一つの手戻りをも生じさせない覚悟で、DPD(設計思考展開)を、さらに詰めて行けばよいのですが、問題は、DとEに分類された具現化策案です。そのままでは、単なる絵に描いた餅にしか過ぎないアイデアだからです。

たとえその具現化策案が、アイデアを出した本人に取っては、惚れ惚れする様なアイデアであろうとも、何らかの形で実現の可能性が裏付けられていない限り、私が指導するFS(フィジビリティースタディ)では、“絵に描いた餅”とまずは位置づけされ、そのままで採用する事を許しません。

「その様なことをしていたのでは、新しい技術を生み出すことは出来ない」などと言う異論が、出ることは十分承知しています。しかしここで、しっかりした追込みと確認を行わない限り、結果としてその商品開発に影を落とすことは必定で、それを承知での安易な開発突入を戒めているわけです。

しかし私は、このようなアイデアを、かたくなに取り上げるなとは、決して申している訳ではありません。なぜなら、このようなアイデアの枯渇は、厳しい商品開発競争を勝ち抜いてゆく製造業にとっては、致命的なダメージになるからです。逆に、このようなアイデアを、なるべく出しやすくする環境を作ってやることも肝要です。だから「そのままで採用する事を許さない」と言っている訳です。

ではこれらのアイデアが、どの様な要件にあれば取り上げても良いかですが、その答えは簡単です。主に以下に挙げる5つのケースが、その取り上げて良いケースになります。


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表4 採用しても良い経験のない具現化策案


一方上記5項目にあてはまらなかった具現化策案は、その時点では採用保留とします。そしてFS(フィジビリティースタディ)参加者全員で、再度頭を絞ることになります。あらゆる側面から、代わりの具現化策案を出し合い、場合によっては、粗々の設計作業やシミュレーション作業をも行いながら、参加者全員の知恵を寄せ集めた具体策案を模索することになります。

そしてその結果、どうしても現時点での自分たちの実力では無理だと、多くのFS(フィジビリティースタディ)参加者が判断したときには、開発仕様を決め込む段階に戻り、その開発仕様を弄る流れとなります。

とは言っても稼げる商品とするためには、真の顧客ニーズには応えなければならないわけで、別な方法(構造を根本から変えたり、場合によってはオプションやアフターサービスでの対応など、あらゆる手段を)その検討の俎上に挙げながらFS(フィジビリティースタディ)参加者全員で、その知恵を絞ることになります。

このような場合に私は、必要に応じて、原理試作モデルでの実験アプローチや、CAEのシミュレーション技術を駆使した、あたりを付ける検討も積極実施してもらっています。ただし時間を掛けない事を大前提としてですが。(続く)

(2012年3月30日に続く)
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