CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

有泉徹の年頭所感2012(後編)



(前を読む)

具体的には、私などにもその触手が頻繁に働いたのだが、メディアや業界・学会などに頻繁に露出しているエンジニアへの、ヘッドハンターを通じた直接コンタクトだ。「日本に開発拠点を作るのでその中核的な役割を・・・」「技術顧問として現地で開発の指導を・・・」など、美味しい言葉と条件で罠を掛けてきた。

私は、丁度、以前の勤務先を辞め、技術士事務所を開業したばかりであったので、当初数年間は、このような話が良くあった。そして、その内数社と、興味半分で話をしてみた。少なくとも私が接触した全ては、我が国製造業が培ってきたノウハウを、労せずして、短期間で手に入れようとする魂胆が見え見えで、さらに始末が悪いのは、ノウハウを吸い取り終わったら、後はポイ捨てする魂胆も見え見えであった。

私は、技術士事務所を軌道に乗せ、私の理念に則った仕事を全うする目的があったので、彼らの話には乗らなかったし、彼らの魂胆を具に読み取ることができた。しかし、理不尽な首切り行為にあったり、日々片叩きにおびえていた、サラリーマン・ベテランエンジニア達は、振り込め詐欺に遭うように、簡単に彼らの餌食になっていった。その後私は、このような被害者達の、事後の世話を複数行ってきたので、少なくとも私がコンタクトを持った彼らのケースでは、実際にあった出来事である。

もう一つは、新聞や専門誌を通じた“技術指導”などと銘打った、人材募集の手口である。割増し退職金を貰ったにしろ、年金を貰うまでには、未だ10〜20年もあるようなベテランエンジニア達が、この罠にはまった。私の技術士仲間にも、この罠にはまった者もいる。

汚い処世術を持たず(だからリストラ対象にされたのだが・・)、これまで真面目にその職務を果たしてきた彼らは、韓国や中国企業にとって、まさに思うつぼの獲物だった。薄給で、決して良い待遇で無いのにも拘わらず、「自分の持つ全てを彼らに伝える!」などと意気込んでいた人たちを少なからず知っている。私の、技術士を始めとする付き合いの中で、酒の席などで、意気揚々とその思いを語っていた人たちだ。しかし数年経つと彼らの勢いは萎え、中には音信不通になってしまった人もいる。

何れにしろ、韓国企業の輸出市場での躍進に、彼らが大きく寄与していることは確かだ。また中国製品が、驚異的な進化を遂げている原動力には、彼らの力がある。

中国商品は、パクリ商品などといわれ、我が国のマーケットでは、先方ブランドのままでは、受け入れられる所までは行っていない。しかし通信販売で扱われる、様々な商品を見て欲しい。家電量販店で扱われる廉価な製品を見て欲しい。その殆どがMADE IN CHAINAである。確かに我が国のメーカや商社の、商品企画を受けてのEMS製品ではあるが、技術的には、彼らの保有技術で開発されている、OEMと言っても誤りではない物も少なくない。

中には、彼らの独自開発品の一部見かけを変え、ブランドだけを付け替えた製品もあるようだ。かつて我が国メーカが、米国メーカの黒子として、OEM製品供給を行っていたと同じ構図が、既に日常家電製品などでは、あたりまえの事となっている。

かねがね述べているが、そもそも今回露見したオリンパスの事件は、バブル時代の“勘違い経営”に、その端を発している。バブル崩壊と、さらにそれに追い打ちを掛けるように、唐突に(米国の圧力で)行われた会計基準の変更で、バブル崩壊の付けを、隠し切れ無くなってしまったための、不始末だ。


私は、バブル期には、未だサラリーマンだったのだが、今の仕事の延長上にある、コンサルタントをしていた。国内の様々な製造業にお邪魔をして、将来に向けての技術系システム(今で言うPLM)の提案などを行う仕事だ。

当然これらの提案を的確に行うためには、対象企業が持つ、様々な問題点や、その力量(商品開発力・物づくり力・販売力など)などを的確に判断し、それぞれに最適なシステムを提案する必要がある。このためには、ある程度経営的な内容にも踏み込んだ、現状把握が必須で求められた。

そしてこのような機会に、私に取っては、極めて違和感のある発言を、度々聴いた。「我が社ではここ数年、金融取引の利益が、本業の利益を大幅に上回っている。どうも上層部は、固定費が大きく手間の掛かる本業の、縮小・撤退を考えているようだ・・・だから提案頂くシステムの予算を通せるか不安だ」、「経営層が、ホテル事業やゴルフ場建設などへ積極投資を行っているため、本業の方にはなかなかお金が廻ってこない・・・」他にも同類の、泡銭を追う経営層の姿を、各所で知らされた。

まさにこれらがバブル崩壊で、一気に不良資産や、紙くずに化けてしまったわけだ。回りから笑われながらも、コツコツと脇目も振らず、物づくりの本業に専念していた製造業以外は、我が国の多くの製造業で、何らかの損失を出しているはずである。


オリンパスの場合には、幸いにも外国人を社長に据えたため、日本的なもたれ合いを拒否され、事が露見するに至った。しかし、上記したような多くの製造業では、相変わらず首を竦めて、自分たちや先輩達が犯した誤りを、隠蔽し続けているのではないか。そしてこれが、我が国製造業の力強い復活を妨げているのではないか。

心当たりのある製造業に所属する諸氏は、オリンパスの出来事を、他山の石として、自社の根本的な体質改善に取組んで欲しい。

以前から述べているように、次の選挙に通ることしか考えていない、体たらくな政治家や、自己権益追求のみを最大の価値観とする悪代官共(悪徳官僚共)共には、グローバルな視点での我が国再生は不可能だ。

上でも述べたが、素晴らしい我が国の国民や、底力を維持できている製造業が、お互いに手を携え頑張るしか、我が国再浮上の見込みはない。このためにも、より多くの製造業が、強い体質を備え、積極的に活動できる態勢に、早急に変革することを期待している。