CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

福島第一原発事故と計画停電に伴う大混乱は、天災ではなく、東電・原子力行政・業界・学会による人災だ!(その1)
まずは直近での緊急対策案を提言する!



はじめに


2011年3月11日に発生した、未曾有の大震災及び津波に被災された皆様に、心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。

あと10才若ければ、皆様の元に駆けつけて、後かたづけなどのお手伝いをさせて頂きたいのですが、かえって私が、皆様や支援の方々に、迷惑をおかけするようなことになってしまったのでは拙いと、義援金をお送りすることだけしか叶いませんが、お許し下さい。なお大学生の末の息子には、お手伝いにお邪魔する準備をするように、申しつけてあります。

さて、今日時点(3月15日)でもその成り行きの予測がつかず、日々放射線の放出量が増えている。福島第一原発からは、東電社員が一部を残して逃げ出した(さすがに政府の反発を受け全員撤退は出来なかったようだが)。さらに原子力安全・保安員の職員は、住民を置き去りにして、郡山までへの敵前逃亡を行い、自分たちだけ身を安全なところに置いた。さらに悪い状況へと陥って行く可能性がある、福島第一原発における事故対策の体たらくには、怒りを通り越して呆れの感さえある。

さらに首都圏を大混乱に陥らせている“計画停電”に対しては、私は、今怒り心頭の境地にある。

もしこれが、東電が白々しく言う「想定外の津波で・・・」が納得の行くの話なら、世界史上最大級の大震災の結果故、現状を容認して、前向きに、静かに事の成り行きを見守ろうか、という気持ちにもなれるのだが、そうは行かない。

なぜなら、福島第一原発の建設準備段階から、東電や当時の自民党政府は、「原発は絶対安全です」「どのような地震が来ても事故に至ることはありません」「当然チリ地震級の津波が来ても大丈夫です!」と大嘘を吐いて、地域住民を、さらには国民全体を欺いて、今回のような危険性を指摘する識者や、安全性を危惧する国民の、少なくない声を無視して、原発建設を強引に推進した。

さらに始末の悪いのは、原発設置後の安全対策の見直しだ。米国スリーマイル島の事故で今現実に起きている、炉心溶融(核燃料溶融)対処用減圧弁の、格納容器への設置は、欧米諸国など世界の潮流を受け、「我が国ではその様な事故は起こりえない」という声を抑えて、渋々取り付けられたが、それ以外の見直しが本気で行われた痕跡がない。

例えば想定される地震の大きさだ、1970年代に当該原発が設置され始めた後、2004年にスマトラでマグニチュード9.3の地震が生じている。しかし、これを受け、更なる安全性を見込んだ耐震補強を、行ったという話は聞かない。テレビでコメントしている原子力を専門としている学者達は「その後補強している筈だ・・・」と言訳をしているが、具体的な数値を誰も語らない。

ちなみに東電の公表している、考えられる最大の耐震強度は、マグニチュード8.4、原子炉設置地点で600ガルである。これは1961年建設当時の設計値であったはずだ。そして平成21年当時の原子力安全・保安院の当該原発の“安全性に関する報告書”では、水平方向600ガルという数字を出し、現状追認を行っている。隠蔽された何らかの情報は、あるのかも知れないが、少なくとも一般人が触れることができる情報には、これ以外のものは見つからない。しかもIAEAから地震対策の甘さを、指摘されていたにも関わらずだ。

一方浜岡原発では、東海地震が取りざたされた際、想定される東海地震のマグニチュードを越える8.5を越える地震でも(浜岡地点395ガル)、浜岡原発は安全であると中部電力は公表したが、その後、理由を言わず1000ガルまで耐えられる耐震補強工事が行われた。

確かに運転中の原子炉は、福島では止まった。しかし肝心の冷却が巧く行かず、完全にパニック状態に陥いっている。そしてこれらの原因となっている、“原因の分らない圧力漏れ”や“原因の分からない冷却水漏れ”などは、恐らくこの誤って想定し、その後真摯に見直されることがなかった、地震から受けるエネルギー値の現実との違いが、様々な不都合を生じさせている原因となっているのではないだろうか。

さらにそれよりもお粗末なのは、津波に対する無防備さだ。東電の社長は記者会見で、「津波によって非常用の電源が機能しなくなった、想定外の津波・・・」などと被害面らをした言訳を、いけしゃあしゃあと述べた。

たしかに東電が設定した最高津波高さは5m?(東電資料に正確な数字は見あたらず、1960年チリ地震での計測値0.7mだと言う情報もある。さらに当該原発における安全性再評価では想定津波0.7mが用いられていたと言う情報もある)で、今回襲来した津波高さ7.3mは想定外であったに違いない。

しかしこの想定高さは、前記したチリ地震当時に、現地で計測された値を元にした数字の筈で、その後に生じた奥尻島や、スマトラの大津波に関しての配慮が全くない。上記原子力安全・保安院の報告書でも全く触れていない。さらに奥尻島の大津波を経験した、北電泊原発の津波想定は9.8mだ。

福島沖は、太平洋プレートが北米プレートに沈み込んでいる地震の巣窟で、いつ奥尻タイプの大津波が発生しても不思議ではなかった。少なくとも奥尻の津波を経験した後、早急に対策を講ずるべきであったのではないだろうか。たしか何年か前、国会で共産党が、この辺りの危険性を指摘していたはずだ。

隠蔽体質の東電が、なかなか正確の所を発表しないので、若干の読み違いはあるかもしれないが、少なくともグーグルの衛星写真で見る限り、地震前には存在した非常発電用の燃料タンクが無くなっている。また無防備に置かれた発電装置関係が流されはしなくても、水没・損傷を受けたことはあきらかだ。これでは絶対安全などころか、最初から極めて危険な悪魔の発電所だったのではないだろうか。

さて、いつこの悪魔の発電所が、膨大な放射線と死の灰を吐き出し、崩壊するか判らない今、これらを引き起こした輩どもの不手際を、ただ非難していても事は進まない。

まずは当面、何をなすべきか、機械設計者の端くれである私からの提言を、今回の掲載では、まず行いたい。ただ提言だけでは腹の虫が収まらないので、次回以降は何故この様な状況に陥ったのか、今後いかなる恒久的な対応を行うべきか、さらにこの様な未曾有の危機状態を引き起こした原因追求と、その落とし前の付け方などについて、順次述べて行くつもりである。


直近での緊急対策案を提言


まずは、今日明日の対応であるが、何故中部・中国電力など、同じ沸騰水型原子炉を扱っている、他の電力会社スタッフの支援を仰がない。また関西・北海道電力などの加圧水型を扱っているスタッフも同じ軽水炉、充分役に立つのではないか。

東海村原発の事故時には、放射線の重篤被爆をさけるため、スタッフが分単位交代でその対策にあたった。この際まずは、人海戦術が迅速に事を処理する第一歩ではないのか。

さらに我が国には、リモコンで操作出来るパワーショベルやホイルローダなど、崩壊した原子炉建屋の瓦礫を、人体に悪影響を与えずに処理し、冷却作業をしやすくする道具が沢山ある。例えば製鉄所では、この様な道具が使われている。そのほかにも遠隔操作ができる様々な機材があるはずだ。これらを我が国工業界を挙げて参集させ、巧く活用することにより、当座の冷却対策が、滞りなく行えるのではないか。必要とあれば、私が、これらの取り組みのとりまとめを行っても良い。

これらの取り組みと、今頃東電が始めた外部からの電力供給で、事が収まればよいが、それがダメなら、福島第一原発の原子炉には、全て海水を注入し、炉内溶融を押さえるとともに、使用済み核燃料プールには、引き込んだ電力を用いて、絶えずその液面を一定高さに保つ仕組みを付けてやればよい。少なくともこれで時間は稼げるだろう。

さらに次の手段は、一号機から6号機まで全ての周りを、巨大な隔壁で取り囲みこれを水槽として、全てをこの巨大な水槽に沈める方法だ。私の知識では、本当に核分裂が止まっているのなら、これでいずれは危機状態が収まるはずである。この際の放射線漏れは、順次その水槽を密閉し、発生する水蒸気を逐次冷却を行えば、後はこれまで行っていたと同じ、放射能汚染水の処理になるはずだ。

しかし巨大隔壁を、短期間で作れるかと言う疑問が生じよう。ダム建設などのイメージで、ゼネコンなどにこの作業を行わせた場合、彼らの力では、失礼だが、短期間での対処は恐らく無理だし、水漏れする物しかできまい。なぜなら彼らはこれまで、この様なもの作りを、経験したことがないはずだからだ。

一方、船舶を初め、大型機械や原子炉の圧力容器などを作っている重工メーカ、大型建設機械などのメーカ、重電機メーカなどでは、機械部品としての巨大な鉄鋼構造物の製作が、短期間で可能だ。輸送時の効率を考え10*10m四方程度の構造部品を、それぞれの工場で製造して、現地に船で持ち込み、それを組み立てる算段だ。

水漏れを起こさない基礎工事も必要だが、ここでは上記リモコン建機が使える。さらに機械構造を組み合わせる際のシールには、タイヤメーカなどに参加してもらい、巨大なゴムシールを造り、これらを用いればよい。

いずれにしろ、我が国産業界の英知と“ものづくり力”を結集して事に当たれば、もっと良いアイデアも生まれるだろうし、当座の危機脱出は叶うと確信している。

そして全てが収まった後は、この水槽にコンクリートを注ぎ込み、「愚かな先人達の負のモニュメント」として封印をすればよい。

それにしても東電は、何故速やかに外部電力の引き込みや、海水の注入を行わなかったのだろうか。

(3月25日に続く)