CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

福島第一原発事故と計画停電に伴う大混乱は、天災ではなく、東電・原子力行政・業界・学会による人災だ!(その2)
何故この様な事態に陥ったのか





   その3以降は、原子炉の冷却対策が好転するか、悪化するか否かが、不確実なところで、
  推測だけで持論を展開しても、混乱を招くだけなので、事態がある程度収束してから、改め
  て連載を行います。



根本的な原因は、FS(フィジビリティースタディ)の不備だ。“何が何でも原発を作る”ために、安全率を蔑にするどころか、基準値そのものを意図的に低く抑えたのではないか。


関係者は、「想定外・・・」「想定が甘かった・・・」とうそぶくが、極めて疑問である。なぜなら原子力発電所建設に際しては、極めて綿密なFS(フィジビリティースタディ)が行われているはずだからだ。

このFS(フィジビリティースタディ)の考え方は、私が日々行う、各支援先に対するコンサル業務の中で、新商品の開発初期段階などで、使って貰っている考え方である。しかしFS本来の広義での定義は、公共事業を行う際、その事業の実現可能性や妥当性を評価することであった。転じて民間企業などが行う、新規事業の市場性や採算性をも含めて行う検討評価も、FSと呼ばれ、私がコンサルビジネスで用いるFSはこの延長上にある。

一方、このスタディーを最初に体系的に行ったのは、1933年当時の米政府が、その不況対策として行ったTVA(テネシー川流域開発)だと言われ、その後米国で行われる原子力発電所やダム、空港などの、大がかりな公共事業では、必ずこのスタディーが行われるようになった。

このため1950〜60年代に盛んに行われた原発建設では、設置候補地の地盤調査から始まり、耐地震評価、耐津波評価、耐環境評価など様々な側面から、「本当に原発を設置しても大丈夫か、安全か、問題を生じないか、などの視点での評価を行っていた。そしてこれらに用いられたテンプレートが、我が国で行われた原発FSの下敷きになっている。

そしてFSが持つ、この基本原則で、今回の福島原発の建設計画初期段階を想定してみたとき、地震の巣窟である三陸沖を目の前にして、心ある技術者なら、当然巨大地震や巨大津波を、そのスタディーテーマとしなかったはずはない。しかも現時点で言われているマグニチュード8.3や最大津波高さ5m?などという過去実績値を、何の安全率も掛けず、そのまま取り込んだような値に設定したはずがない。

さらに、やっと見つけた東電資料Tepco Report v109 12ページでは、福島第一原子力発電所、設置許可基準時の評価値をO.P.+3.1mと位置づけてあり、過去のチリ津波時、近隣の小名浜港で計測した3.1mを用いている節がある。このような事情で、ますます私の疑念は深まる。しかもなぜか、今回の報道関係では、想定津波高さは、5m(朝日新聞5.4m、NHK5.7m)と言う数字が、一人歩きしている。この数字にも何か作為を感じ、ますます疑念が募る。

一方、私が支援先の大手製造業に「フィジビリティースタディ」実施を推奨している目的は、“旬で、よく売れ、高収益を上げる事が出来る商品開発”を、各々で実現して貰うためだ。

そして私の提唱するFS(フィジビリティースタディ)では、具体的には商品(製品)開発の最も初期段階で、粗々な設計作業も含めて、本当に「マーケットニーズに応えて売れるのか」「自分たちの手持ちの技術で期限までに開発できるのか」「自分たちの手持ちの技術で期限までに量産を立ち上げ必要量生産が叶うのか」「その結果適正な利益を得ることができるのか(十分利益を得る原価が叶うのか)」「市場投入後品質問題などお客様に迷惑をかける問題を起こさないのか」「等々」を徹底検証する。

この中では、商品発売後企業にとって最も大きなロスとなる、出荷後の市場クレームの撲滅もそのスタディーテーマの主要な部分だ。対象商品が使われる環境を具に調べ上げ、想定して、可能な限り安全で問題のない商品を開発するための、開発仕様を定める。

例えば、危険物を保存するタンクなどの地上構造物の場合は、その耐震強度や耐津波強度&浸水性、耐強風、耐落下物など想定されるダメージ原因を徹底的に調べ上げ、過去に地球上で生じた事故内容、設置該当地域で生じたことのある地震などの計測データを洗いざらい調べ上げた上、暫定的な設計目標基準値をまず想定する。例えば耐震はスマトラで発生したマグニチュード9.3、津波高さは、我が国の津波警報で使われる10m以上、最大風速は室戸岬で計測した約70mなどだ。

さらに製造物には、製造上に必ず誤差やミスが生ずる。これらのNG部分を、全て検査で検出できれば問題ないのだが、現実的には不可能だ。特に溶接強度などは、実際の物を切断して、本当に所定の強度が作り込まれているかを評価しなければならず、対象物を壊してしまったのでは、話にならない。このため非破壊検査などで計測した、溶接ビードの寸法やとけ込み状況などの代用値を用いて、その強度を評価する。あくまでも代用値であり、必ず誤差がある。

このため一般的には、“安全率または安全係数”を用いた設計を行う。例えば1000ガルと言う地震加速度エネルギー値に対して、評価部位の応力値は、その許容応力の半分に収まるような設計だ。これで安全率2倍の設計が、できたことになる。

安全率は、高く取っていれば、取っているほど安全な製品だと言える。しかしこの安全率を闇雲に高く取った場合、経済性の問題が生じてくる。一般的には、考えられるリスクと、費やすコストの睨み合わせで、その敷居値を変える。

例えば、上記のタンクが水を保存するタンクであるなら、破損した際こぼれだした水が人命に影響を与えない程度の容量であるなら、安全率を1.0以下にとっても差し障りあるまい。滅多に生じない耐震設定値や津波高さも下げても良いはずだ。

ところが、収納される液体が、周囲一万人の致死量をもつ劇薬であったら、そうは行かない。上記した2倍の安全率でも足りないかも知れない。仮に事故が生じたとき、生じた損害で保証すべき金額と、安全率、発生の可能性をにらみ合わせ、適切な安全率を設定することになる。このような際、これまでの私の経験では、2倍以下になったことは無かった。

このような視点で見たとき、福島第一原発を始め、我が国の原子力発電所の設置基準は、甚だ疑問である。安全率どころか、想定される地震強さや、津波高さの設定がデタラメだ。“何が何でも原発を作る”と言う命題(誰が号令を下したのか判らないが)と、経済性の追求が、このデタラメな設置基準だったのではないだろうか。

また、恐らく当時の技術者達が、真摯に行ったFS結果を、原発建設を推進した、政治屋・東電・原子力行政・学会などが、寄って集ってねじ曲げたのではないだろうか。

現原子力安全委員長、班目春樹の次の発言が、これを証明している。「そのような事態は想定しない。そのような想定をしたのでは原発はつくれない。だから割り切らなければ設計なんてできませんね」と言っている。平成19年2月16日、浜岡原子力発電所裁判で、非常用ディーゼル発電機が、2台とも起動しない場合に、大変なことになるのではないか、と質問を受けての証言だ。

3月24日の国会答弁で社民党の福島委員長の質問を受け、「ある意味では原子力をやっている者全体の専門家の意見を、まあ代表して申し上げたというつもりでございます」と悪びれること無く言い放っている。この“割り切った結果”が、今回の事故を生む元凶では、なかったのではないだろうか。こいつらは、確信犯だ。

またこんな輩達が、官邸にデタラメな具申をしているのだから、官邸が右往左往するのも理解できる。

また余談だが、原子力損害賠償法の存在も不審だ。原子力損害の賠償に関する法律 第二章 原子力損害賠償責任同法第三条(無過失責任、責任の集中等)第三条では、「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。」とあり、巨大な天災地変での事故の場合、損害賠償責任は、全て国の責任となる。うがった見方をすると、設置基準を超える天災には、原子力事業者は責任を負わないとも読める。

いずれ東電は、「今回の津波被害は、福島第一原発の設置許可基準を超えた津波による被害なので、“異常に巨大な天災地変”に該当する。だから国が全て面倒見てくれ」と居直るに違いない。事故発生直後の14日、その状況悪化を受け「東電職員は全員退去させるので、後は自衛隊と米軍で片付けてくれ!」と言う、東電経営層が発した発言からも、その意図が見え隠れする。





なお、私が商品開発改革や設計改革の中で述べる FS(フィジビリティースタディー)とは、その開発初期段階で、開発すべき商品の実現性を徹底確認・検証する作業を指す。

本当に売れるのか、本当に作れるのか、本当に儲けることが出来るのかなどを、開発に関わるあらゆる部署のメンバーが集い、粗々の構想設計を複数案詰めながら、その検証精度を徐々に上げて行く取組みだ。さらに、開発途上で仕様変更を迫られることがないように、その開発仕様や量産原価などを、徹底して完璧に近い物に詰める作業を総称して指す。

詳しくは日刊工業新聞社の「機械設計」誌の以下の号を参照して欲しい。            
2005年9月 P95〜98 連載!!「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」
...........第三回「フィジビリティースタディーの目的」
2005年10月 P112〜118 連載!!「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」
............第四回「フィジビリティースタディー(FS)の徹底で設計改革効果」
2006年2月 P16〜20 総論 製造業の製品開発におけるデザインレビューのありかた
2006年12月 P61〜64 連載!!「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」
............第十八回「フィジビリティースタディーの進め方(1)」
2007年1月 P110〜112 連載!!「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」
............第十九回「フィジビリティースタディーの進め方(2)」
2007年2月 P106〜109 連載!!「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」
............第二十回「フィジビリティースタディーの進め方(3)」
2007年3月 P105〜108 連載!!「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」
............最終回「フィジビリティースタディーの進め方(4)」