CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

設計思考展開を活用しようとするが、これを利用したレビューへの肝心な参加者が不調です。どうすれば積極的な参加者を増やせるか?(後編)



■質問■

先週掲載の”設計思考展開を活用しようとするが、これを利用したレビューへの肝心な参加者が不調です。どうすれば積極的な参加者を増やせるか?(前編)”を参照下さい

■回答■

-----前編掲載分-------

まず設計思考展開の使い方に問題があると思います。本来なら、的確に設計思考展開を進めておれば、暇つぶしの方々から発せられる的はずれな指摘や指導は、たちどころに排除できるはずです。また筋が通らない声の大きな役職上位者の押しつけも、論理的に排除できます。

これらが貴社の現状でできていないと言うことは、恐らく設計思考展開が形式的に行われているのではないかと思います。私の著書を改めて読み直して欲しいのですが、参加者全体が、特に展開を引っ張る司会者が、論理的に可能な限り、洗いざらいの、目的に対する展開を行えたなら、少なくとも“的はずれな指摘や指導”“声の大きな上位者の押しつけ”は、一気に解消できるはずです。

少し費用は発生致しますが、司会者要員の教育を早急に行うべきだと考えます。費用的には、人数は20名以下程度、期間2週間(10日)、費用500万円(旅費・税・諸経費など別)でお受け致します。

通常では、私のご指導の中で、その実務を通じてOJT的に司会者要員に育って頂くのですが、貴社の場合は、現状診断以降のご支援が叶わない状況で現在に至っております。ですから実際の設計思考展開作業場面で司会を行っている方々は、私の著書をお読み頂いた上で、それぞれ自己流でその司会方法を模索されているのだと思います。

確かに貴社経営状況が芳しくないことは承知しておりますが、上で推察したような無駄を、短期間で解消するためには、私が直接、貴社の司会者要員に対して、設計思考展開を、効果的且つ的確に遂行するための、司会方法・ツボ・コツなどを伝授した方がよいと思います。

次に若干は改善しつつあるとの、レビュー場面における後工程からの参加者不調の問題を、解消する方法の考え方を述べます。

-----前編掲載分-------

-----続き-------

本来なら後工程のメンバー全てが、DRを的確に行うことの価値を理解し、積極自発的に主要メンバーがレビューに参加することが望ましいのですが、この意識改革や道義付けには時間が掛かります。ですから直近では、後工程に対する罰則的なルール作りで、強制的に改善を行うしかないと思います。

ルールとは、可能なら“量産出図以降、或る一定期間(貴社製品なら1年間)物づくり都合による設計変更要求を一切受け付けない”という物です。私がこれまでお手伝いを申し上げた先では、経過措置としてこのルールを設けて頂いた所は少なくありません。

このルールを設けると、生産技術を始め、物づくり部門は、設計の初期段階からその設計内容を絶えずウォッチし、自分たちに取って都合が悪い設計部分を、こまめに指摘して、設計変更求めるように必然的に変わって行くからです。どちらかと言えばセレモニー的なDRの場面より、頻繁に行われるミニDRの場面が活性化します。さらにこれが進むと、設計部署の各所で、自発的なミニDRが行われるようになります。

しかし一部には、このようなルールを設けても、動きが悪い、硬直化した企業があります。その結果量産が、いつになっても立ち上がらないなどという問題を引き起こします。しかも「設計変更をしないからだ」と居直りを堂々と行った所もありました。この様な場合には、総合的な利益を考えた場合に、上記ルールをごり押しすることも賢明な選択ではなく、設計変更を行わざるを得ない場合があります。

しかしこのような選択をした場合には、設計変更に費やす費用一切合切を、設計部門負担とせず、製造仕損として、しかもペナルティー(3〜5倍)を付け、製造部門の仕損として振り替えさせるルールを設ければ、結果としては上記ルールを設けたと近い成果を得ることができます。なぜなら、この仕損部分が異常に大きいと言うことは、製造部門の責任者達にとっては、厳しいマイナス評価につながる事になるからです。

最後に、DRに参加して欲しいメンバーに積極参加をして貰うためには、次のような評価方法を採用することをお奨め致します。

その評価内容は、彼らが行った指摘・指導・ノウハウ開示などに対して定量的なポイントを付け、人事考課及び賞与に具体的に反映させる仕組みです。どの程度の反映を行うかは、それぞれの企業文化により熟慮して決めなければなりませんが、これまで私が関与したケースでは、半期賞与で100万円を超える評価がなされたケースがあります。

又この仕組みを一定期間続けた結果、それまでラインの長に付かないと、なかなか浮かばれなかった実力を持った設計者や技術者達が、私の目から見ても適正な評価を受けるようになってきたところが少なくありません。それぞれが持つ固有技術や継承技術の伝授、問題発生を前もって察知するフロントローディング眼力が、定量化されたポイントとして評価される様になったためです。

具体的な定量化の方法は、前もってあり得るであろう貢献内容を具体的に洗い出しておき、それぞれの貢献度合いにつきどれだけのポイントを付加するかを決めておきます。またそれぞれが取得したポイントを賞与や人事考課に反映するルールも定めておきます。また技術関係の部長クラスを中心に、冷静公平に貢献度合いを判断できるメンバーを、評価委員に選任して評価委員会を設けます。当然評価ルールなどは、全社員への公開が前提です。

そしてその上で、DR、ミニDR、自発的なミニDR、フィジビリティースタディーなどの全ての場面において、その議事内容を詳細に記した議事禄を作成しておきます(デジタル録音し、自動書き落としをさせればよい)。一方開発プロジェクトなどを遂行する責任者達には、それぞれのJOB着手時点からのあらゆる顛末を、記録させておきます(PDMで自動蓄積させればよい)。また過去の類似開発などで発生した問題点などを体系化して、それに費やしたロス金額なども明記した上で、網羅的に検索可能な状態にしておきます(これもPDMで自動蓄積できる)。さらにそれぞれの貢献内容に重み付けを行っておくことも肝要です。

そして各JOBが完結した時点で、評価委員会を開催して、部外参加者達の貢献度を評価するわけです。過去の類似開発で発生していた問題の発生を、防ぐ貢献発言を誰かしていないか。自己が持つ継承技術や固有技術を伝授する発言を誰かしていないか。工学的見地に立ち、問題発生を事前に防ぐ発言を誰かしていないか。当然、新技術創造に結びつくヒントになる発言を誰かしていないか。などを、遍く拾い出し、それぞれの貢献度合いを、評価委員達が協議して裁定して行くわけです。これらの検出には、PC上の検索機能を、フルに活用すると効率よく作業が進みます。

私が専ら指導する採点方法は、項目毎、評価委員に10段階で評価させ、最高点・最低点で同点評価が2名以上無い場合は、その評価者を除いた評価平均点を評価点とする方法です。当然誰の発言かは、評価委員には分らないようにして評価させるのですが、その発言内容から誰か分る評価委員はいるはずです。

なるべく冷静公平に評価できるであろうと選んだ評価委員と言えども、これまでの様々な人間関係での経緯はあるはずで、エコヒイキ、キライ感情は、無意識にその評価点に現れる物です。これらを排除する目的が、上記採点方法にはあります。

例えば10人の評価者がいたとして、9人までは7点以上の評価を付けているのに一人だけ3点を付けているような場合です。この場合最高点10点が一人だけならそれも外し、残りの8人の点数平均を評価点とするわけです。最高点の10点が2名以上いる場合には、エコヒイキも無いだろうと言うことで、9人の平均点を採る事になりますが。

なおこのエコヒイキ、キライ感情の排除を、統計学的に行っているケースもあります。分布などの演算に数字を入力する手間は掛かりますが、最近はエクセルなどで簡単に統計計算ができますので、より正確を狙うならこの選択肢もあります。

そしてこのようにして裁定した点数に対して、前もって決めておいた重み付け点数を乗じた数を貢献ポイントとして、各自に付与する訳です。

しかしこの仕組みを設けても、これだけではラインの長になっている方々や、彼方此方に引っ張りだこで時間の取れない方々は、自分の担当外のDRなどには、なかなか参加できないはずです。

この問題を解消するには、DRにテーマを掛ける責任者から、これはと期待する方を、指名して参加して貰うルールを設ける必要があります。またこの指名が全てに最優先するルールとする必要があります(緊急且つ重要な商談若しくは重大なクレーム対応以外は)。

指名対象になる本人達は、当初は迷惑がり嫌がりますが、回数を重ねる毎、本人達が乗り気になり、レビューの場面で、昔取った杵柄とばかり大活躍をするようになります。さらに恐らく皆さんが危惧するでしょう、彼らの本来業務への影響も、元々能力の高い方々ですので、殆ど影響が出ません(少なくとも私が関わったケースでは)。

一方、主に世渡りでラインの長に就いている方々の中には、この仕組みを快く思わない方々が出てきます。設計者や物づくり技術者としての能力が特に優れているわけでもない彼らには、当然のこととして“お座敷”がかからないからです。さらにお座敷が掛かる方々と、人事考課や賞与で明らかな差が付いてしまうことも面白くない話です。

若いときから、冷静に技術者としての能力の限界を悟り、そのマネージメント能力や処世術を磨いてきた方々は、この仕組みになっても特に動ずることはないのですが、世渡りだけで現在の地位を築いた方々にとっては、迷惑千万な仕組みであり、自分の将来に取ってあってはならない仕組みと考えます。

ですから、このような方々からの目に見えない妨害行為が、繰り返される場合があります。このような場合には、このような輩には、少なくとも製造業にとっては、獅子身中の虫として冷徹な判断を下す必要があります。

なぜなら、かつてバブルが弾けた時、多くの製造業において、本来なら景気回復後の一気立上げに、必須で必要となる貴重な人材を、様々な手を使ってリストラに追い込んだのは、主にこのような輩達です。1995年以降、様々な製造業における“現状診断”を行って参った私が、具体的な証拠を持って把握している事実です。

そしてこのようにして冷酷に切捨てられた貴重な人材達は、食いつなぐと言う、背に腹は代えられない事情もあり、古くはサムソンなどの韓国企業、2000年以降は中国の新興企業へと一斉に赴き、彼らが急成長する原動力となりました。

方や貴重な人材を流出させてしまったこれらの製造業では、重大な人材不足に陥り、思い切った一気立上げが儘成らない結果に陥ってしまった事実があります。

このような過去の例を鑑みた場合に、悪い芽は早く摘むに越したことはないと言うことで、冷徹な判断を下せと言う論拠であります。