<前略>
3年前に実施頂きました現状診断の際は大変お世話になりました。製造業における製品開発態勢は、斯く(かく)あるべきとの様々なご指摘と、今後進むべき姿に関する先生からのご提案は、我々関係者一同、強く感銘を受けると共に、強い決意を抱かされました。
その後具体的な取組に際し、本来なら先生のご助力を頂きながら取組を進めるべきなのですが、ご案内の通り、弊社も急激な収益低下に見舞われ、私などは年収半減まで給与カットされている有様で、先生にお支払いする費用の捻出もとても儘なりません。
このような事情で、先生がお示し頂いた指針や計画に従い、我々自身でこの3年間取組を行って参りました。そして、技術の棚卸し、人材の棚卸し、保有技術の整理体系化、継承技術の的確伝承、若手設計者の急速育成など、どちらかと言えば“力仕事”の部分では、大きくその取組を進めることができました。また先生から推奨頂きました“設計思考展開”手法も、我々なりに咀嚼し、未だ一部に根強い抵抗はありますが、ほぼ定着に近い状態までこぎ着けております。
ところが残念なことに、恐らく先生のご指摘やご提案の“肝“の部分だと思われる、設計初期段階における”予測設計“がなかなか巧く行きません。設計思考展開を用いた、全員参加による”構想設計レビュー“で、ベテラン設計者達が持つノウハウの拾い出しや、様々な経験や知見に基づいた危険予知などは、それなりに巧く行き始めているのですが、予測型のシミュレーションが」必須となるような技術アイテムでは、どうしてもフロントローディングが巧く行きません。
レビューにおける指摘としては、「全体の剛性バランスを巧く取ってやらなければダメだ、この計画で巧く取れているのか?」「先生が仰っていた素性の良い振動特性を、設計初期段階で押さえることができていないと、後でモグラ叩きを行うことになる。この計画案に対する振動特性の検証は、どのように行っているのか?」などという難しい指摘から、「この構造でこの機械が受ける衝撃荷重に耐えられるのか、耐久強度はどうなのか?」「この構造では詳細設計に入ったとき、応力集中をさける形状を追い込むことが難しそうだが大丈夫か?」などと言う割合簡単な指摘まで、レビューの場面で出てきますし、それ以前の設計者自身や設計チーム内のディスカッションでも懸念点として列記されるのですが、それを前もって抑える術が、設計者達自身では持ち得ておりません。
結果「とりあえず原理試作を作ってみましょう」「現行機を改造して試してみましょう」など、一応はフロントローディングの範疇に入るのかも知れませんが、机上予測とはほど遠いアプローチをせざるを得ず、開発期間の短縮という面では、ほとんど成果が上がっておりません。
先生のご報告書でも、この部分は一朝一夕で実現できる物ではなく、地道な積み上げが必要だと述べておられますが、3年間の取組を経験し、改めて先生のご指摘をかみしめております。
さて、本日お問い合わせさせて頂きましたのは、この設計初期段階でのCAEシミュレーションを本格化させようと考え、長年解析を担当してきた@@も加えた検討チームを立上げて、様々な視点から検討を行っておるのですが、この初期段階のシミュレーションを、誰が受け持つのかでなかなか話が纏まりません。
かつては頑なにCAE技術をブラックボックス化し、自分たちで抱え込んでおおりました@@は、先生のご影響が強かったと思いますが、大きくその宗旨を変え、「当然担当設計者達が、自分の担当する部分を、自らの手でANSYSやADAMSを駆使して予測すべきだ。自分たちが手取り足取りサポートするから」と強く主張しております。しかし設計のマネージャクラスや中核設計者達は、「自分達では無理だ、担当者達のセンスもないし、技を取得する時間がもったいない。これまで通り解析部隊が受け持ってくれ」と、高度なシミュレーション技術を自分たち自身で駆使する流れには、拒否反応を強く示し、話が折り合いません。
先生の推奨計画には、「最初は、従来通りの解析部隊主導でやむを得ないが、3年間程度で主導を設計者自身に移せ」と明記頂いており、@@の主張は、それを受けての発言でもあります。
結果、どうするかは、先生のご判断を仰ごうと言うことになり、お問い合わせさせて頂いた次第です。本来ならコンサル料をお支払いしてご来社頂き、我々のディスカッションに加わって頂いた上、ご指示を頂くのが筋だとは思いますが、未だに厳しい状況が続いております、弊社経営状況をご高配頂き、不躾なお問い合わせにご回答頂けますと幸いです。
<後略>
私の推奨計画に、ある程度具体的に3年間の移行計画を記していたと思いますが、その趣旨を守って頂くことを前提に、@@さんの主張に賛同致します。
理由は、貴社が近い将来“予測型フロントローディング設計”態勢確立を目指すのであれば、設計初期段階での設計を担う設計者達自身が、CAEツールだけではありませんが、様々な高度なシミュレーション技術を駆使できる力を身につける必要性があるからです。
なぜなら貴社に限らず、この段階の予測シミュレーションを、解析部隊がその開発計画に合わせ、タイムリーに担うためには、その頭数が少なすぎる事がその最大の理由です。貴社の場合、解析部隊の人数が私が診断した当時から減っていなかったとしても、当時の開発案件数から考えると、予測型フロントローディング設計を行うには、その頭数(当然所定技術を備えた)を10倍程度に増やさないと対応できないはずです。
一方設計者は(特に構想設計段階を担う設計者達は)、その設計作業を行うに当たり、自分が担当する機械のメカニズムを完全に熟知し、それが製品化される過程や、使われる段階で起こるであろう問題点を漏れることなく予測し、それを洗いざらい潰し込んだ上で、設計図面を作りあげるのがその役割のはずです。
と言うことは、“まともな設計者”なら、これまで高度なシミュレーション部分の一部を解析担当者達に依頼してきたとしても、懸念点の抽出や、その検証・予測モデル(解析のメッシュモデルなどではなく、工学モデル)は、自分自身で構築し、解析担当者に提示していたはずです。そして、この提示が的確であるなら、的確な予測が叶い、不的確なら無駄な解析依頼となってしまっていたはずです。
そして、的確な予測モデルが提示できていた設計者達は、仮に自分自身で高度な予測シミュレーションを行う場面になっても、ほとんど困る事はないはずです。確かにCAEツールのオペレーションや、シミュレーションツールが持つ数値解析上の制約やコツなどで戸惑う事があるはずですが、前者はCAEオペレータをその設計者に貼り付ければ済むはずですし、後者はまさに解析専門部隊の出番です。解析専門部隊が、設計者達の言葉で、設計者の意を汲んだフォローをタイムリーに行ってやれば、“まともな設計者”なら充分に自分自身で“高度な予測シミュレーション”を駆使できるはずです。
これまで私が手がけてきた様々な製造業で、このようなスタイルでのフロントローディング設計態勢確立を実現して参りました。貴社でも間違いなくこの様なスタイルでフロントローディング設計態勢確立が叶うと思います。
そしてポイントは、既に現状診断のご報告書でもご提案申し上げてあります、“まともな設計者”を的確に増やし(育て)続けることです。
本コラムをお読みの皆さんへの補足
上記のQ&Aで示した高度シミュレーション技術の活用方法ですが、対象製品の特性により、必ずしも上記のように設計者自身が駆使しなくても済む製品もあります。余り過酷な使い方をされない電子機器類などは、この範疇に入るケースが多くあります。この場合は、必要に応じて解析専門部隊が開発設計部隊に加わり、高度シミュレーションがどうしても必要な部分だけを、狙い撃ち的に潰し込んで行くスタイルで構いません。これでも、充分に予測型フロントローディング設計が叶っております。ですから、本例を杓子定規に捉えないでください。
ポイントの“まともな設計者”を的確に増やし(育て)続けることは、何処でも同じですが。
またフロントローディング設計におけるCAE活用の考え方は、本ホームページ掲載の「開発期間削減に役立てるCAE技術の使い方(フロントローディング設計実現には不可欠なCAE 技術を駆使した予測型設計)」を参照頂きたい。