CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

昔から品質機能展開やFMEA等を使って設計レビューを行ってきたが、最近設計品質の低下が著しい。貴殿の設計思考展開は、この問題を解消できるか?・・・・できますが詰まるところは人(設計者をはじめとした開発に関わるメンバー)の意識と質の問題では?



■質問■

<前略>

始めてお便りをさせて頂きます。インターネット上に掲載されている興味深い貴殿のコラムやQ&Aを拝読して問い合わせをさせて頂きました。

弊社は設計品質の確保を目的に、1980年代より品質機能展開やFMEA等の手法を取り入れて、その定常的な確保に努めて参りました。おかげさまで、品質の@@と言うご評価も頂き、世界的にその評価は定着していると思います。

しかしここ数年、昔では考えられないような品質問題が散発するようになり、その対策費が利益を食いつぶす傾向が出始めておりました。そしてこのリーマンショックに起因する不況で、その問題が一気に弊社の収益の足を引っ張る結果になり、この一年専門チームを作り、この問題を根絶すべく、一同寝食を忘れ一所懸命に取り組んで参りました。

しかし、現象的な問題点はそれぞれの事象毎把握でき、直接的な原因が何かは分るのですが、なぜそれが起こるかという所で立ち止まざるを得ない状況に陥っております。なぜなら、長年慣れ親しんできた仕組みやルールの中の何処に根本的な問題があるのかが、なかなか見いだすことができずにおります。

恐らく御貴殿が言われている、同じ文化に育った者同士で問題点を追求する限界なのだと思いますが、いらだちだけが先行し、ほとんど結果が出ない現状に戸惑いさえ覚えております。

そのような中で、御貴殿が提唱されている設計思考展開やフィジビリティースタディーが、弊社の現状打破に使えるのではないかという声がスタッフの中から上がって参りまして、御問い合わせを行わせて頂いた次第です。

また、幅広く活躍をなされている御貴殿の経験の中で、弊社に類似した状況の製造業がこれまでありましたでしょうか。もしあった場合にそれらの製造業にどのような対策支援をなされたのでしょうか。またその際、設計思考展開やフィジビリティースタディーが有効に機能しましたでしょうか。

<後略>

■回答■

まずご質問を3点に分けお答え致します。

 
ご質問1 弊社に類似した状況の製造業がこれまでありましたでしょうか

沢山ございました。それぞれの支援に入ったきっかけは様々ですが、支援に先立って行う“現状診断”で、貴社の現状と類似した問題点を把握した例は少なくありません。そしてこの様なケースの場合には、他にも設計技術力の低下や資材調達能力の低下の問題、さらには製造能力の低下などが相俟って問題を生じているケースがほとんどであったことを申し添えておきます。

 
ご質問2 それらの製造業にどのような対策支援をなされたのでしょうか

これらの内の、私どもに支援の依頼を頂いた製造業様には、そのスタート段階で行った“現状診断”結果に基づいた改革計画を、まず私どもから提示して、それを基に支援先スタッフとともに3ヶ月から半年の期間を費やし、「本当にできる、最も効果的な実行計画」策定を行っております。

問題点の列記、問題点に対する悪さ度合い・結果に対する寄与度の点数付け、問題点の解消案とその実現度合い・難易度・予測される経費・予測される期間、問題点解消に取り組む人材の有無・そのポテンシャルなどを列記し、一件ごとを愚直に評価して、最も効果的な実現可能性が高い計画に、関係者一同の合意の基、落とし込む取組です。

そして後は、その計画に従い淡々と取組を行って参ることになりますが、その際私どもは、実際に現場に入って、一緒になり取組を進めるとともに、計画に詰めの甘さや想定ミスがあった場合には、即座に軌道修正を行う取組を行っております。

 
ご質問3 その際設計思考展開やフィジビリティースタディーが有効に機能しましたでしょうか

2番目の質問でお答えした取組に、設計思考展開やフィジビリティースタディーは、必須のツールとして活用して参りました。





一連の私の情報発信をお読み頂きたいのですが、貴社の現状の根底には、貴社の製品開発を担う人材力の低下を感じます。恐らくただ設計思考展開やフィジビリティースタディーを、品質機能展開やFMEAに代わる手法として取り入れただけでは、全く御利益はないと思います。

要するに昔の人材力(商品企画力・設計力・試作力・試験力・生産技術力・製造力など)をしっかり継承できた人材が、皆さんが気づかないうちに、貴社の製品開発現場から消え失せているのではないのでしょうか。

その原因は、少子化、若者達の理工系離れ、製造業離れ、正規社員の減少、人材育成の失敗など様々な点が考えられますが、恐らくそれぞれが少しずつ徐々に、貴社の人材力を蝕んできたと考えるのが妥当と思います。

一方皆さんがこの一年の取組で、根本的な問題発生の原因に辿り付けないでいる理由は、ご自身で分析されているように、同じ文化に育った人間だけで問題探求を行う限界もあると思います。しかし、恐らく上記したような原因が、その根底にあるために、皆さんの想定外の状況に陥っているのだと診ます。

多分費用面では厳しい抵抗があるとは思いますが、まずは私どもの“現状診断”を受診頂くことが、貴社の問題を解消する最も近道だと考えます。