CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

構想設計段階から3次元CADに付随するCAEシミュレーションツールに依存ずるのは非効率



■質問■

<前略>

弊社でも、遅ればせながら設計初期段階の設計ツールは、3DCADに統一されつつあります。先生の著書にございます様に、3次元対応能力に劣った若手設計者も、短期間で設計戦力として期待できるようになりつつあります。

しかし、彼らの設計アプローチを見ていると、製品形状も未だ定まりもしないのに、3Dで作成したモデルで一生懸命CAE解析を繰り返し、馬鹿にならない時間を費やしております。

我々の時代は、対象部位を簡単な片持ち梁などに置き換え、電卓で材力公式から製品形状や構造を追い込んでいった物で、彼らのアプローチはどうしても納得が行きません。

彼らに、「製品形状も固まる前に3D形状を作れるのか?」「製品形状を試行錯誤する都度製品形状を変えていたのでは時間的ロスが多すぎるのではないか?」などと投げかけると、「形を作らないことにはCAE解析ができないので、やむを得ず旧品の形状などを定義してそれを取っかかりにしている。それ程時間の無駄があるとは考えていない」「寸法拘束機能を使うから時間的菜ロスは無いはずだ」・・・など簡単に論破されてしまいます。そして、3DやCAEには門外漢の私に取っては、それ以上突っ込みようがありません。

そこで有泉さんに質問ですが、弊社の担当者達が申す話を、そのまま真に受けてよろしいのでしょうか。

<後略>

■回答■

真に受けては行けません。

貴社の担当者達は極めて勉強不足だと思います。まず取るべきは**さんが昔行われていたと同様のアプローチを原則行うべきです。

たまたま先週のQ&Aで例に示した解析モデルなども、先週のケース(09/11/06 図1、図2)では、モデル検証の手段としてご紹介いたしましたが、まさに**さんが昔取られていたアプローチモデルと同類の考え方を持ったモデルです。

要するに、できあがりの状態では複雑な構造や形状を持った製品でも、例えば機械強度という側面で観たときには、その構想設計段階では簡単な材力モデルに置き換え、最適形状や最適構造への追込み作業が行われるべきです。

それでないと、いくらその性能は向上したとはゆえ、3次元ソリッド形状に自動メッシュ切りされたCAE解析モデルの解析時間は馬鹿になる物ではありません。

また例え寸法拘束を利用して指定部署寸法を一気に変えるにしても、よほどの単純形状を除き、線をちょっと消してのような、2次元CAD時代のような楽な操作で次々知製品形状を変えることなど不可能です。

さらに、自分自身が設計しようとする製品の目的が良く判らずして、各部位の寸法拘束を決めてしまった場合など、それまで用いていた図形を捨て改めてモデルを作り直す必要があり、ムダがないなど大嘘だと考えます。

さらに昔は、材力の教科書と電卓を脇机に置いて、桁間違いや打ち間違いを気にしながら、上記例のような目的のモデルに四苦八苦していたのですが、今は違うはずです。

少なくとも私がこれまで拘わってきた設計部署では、例えば片持ち梁なら、それぞれの断面形状と長さ方向の寸法、荷重形態とその値をエクセルシートの所定欄に入力してやれば、先端変位やけ根などの応力が即座に計算されるユーティリティーを持っております。無い場合は、ヒントを与えそれぞれ作らせました。

そしてこれらのツールを用いれば、等価な簡易形状(片持ち梁などの)さえ、その頭の中に描ける能力があれば、たちどころに設計途上の製品形状の妥当性が判断できることになります。一々3次元形状から自動メッシュしたFEMモデルで、その妥当性を検証する作業に比べたら格段に良い効率で設計を進めることができるはずです。

ですから、**さんの疑問は正当で、**さんが思われる方向に貴社の設計アプローチを変えてゆくべきだと考えます。

余談ですが、「では3次元CADに付随するCAEは、如何なる場面で用いるのか?」という疑問が生ずると思います。わたくしは、「部品設計が8割方進んだところ(細部を除き大まかに固まったところの意味)で、部品試作前の最後の確認用途に用いればよい」と考えております。

なぜなら、上記した簡易モデルでの妥当性検証が間違いなく行われているなら、この段階で主要構造部分に、手戻りしなければならない様な問題が発生する事態には、決して陥らないはずです。ですから“部品試作前の最後の確認用途”の利用であり、緊急度も高くありませんし、派遣などのオペレータにその操作を委ねることも可能でしょう。この場面で有効に活用下さい。

また、既に3次元モデルがある製品をマイナーチェンジするような場合には、よほど大がかりな変更でない限り、3次元CADに付随するCAEツールを活用する選択肢もあります。限られたケースの形状変更案の妥当性検証を行うだけですので、試行錯誤的に解析を繰り返す必要も無いと思いますので、このツールでもそれ程時間ロスは生じないと判断するからです。