<前略>
先日は、漠然とした不躾な質問に早速ご回答頂きありがとうございました。
マーケットボリュームが大きく今後の成長が大きく期待できる、中国やタイ・ベトナムなどの機能限定低価格商品マーケットに弊社が参入する事は、今更遅いというご見解は、貴重なご意見として、早速弊社上層部に上げました。
しかし上層部から「とは言っても、暫く大幅好転が期待できない既存マーケットだけで、限られたパイを競合メーカと競いながら、収益を上げて行くことは至難の業であり、弊社の生き残りをかけた何らかの戦略的展開が急務だ。」「“フィジビリティースタディ”なる手法が先生の仰るように将来のビジネスを予測する手法として有効であるなら、早速取り入れ、感覚的にボリュームゾーンをターゲットにするだけでなく、あらゆる可能性を排除しない考え方で、近未来の生き残り戦略を策定すべきである。」との新しい指示が下されました。
そこで又不躾な質問ですが、なぜフィジビリティースタディを徹底させると的確な商品企画が叶うか、さらになぜビジネスの成否がわかるのでしょうか?
<後略>
私共の提唱するFS(フィジビリティースタディ)は、より稼げる商品を最大効率(徹底したムダの排除と工数・費用の最小化を目指した)、最短時間で開発するための手法です。
要するに、商品企画段階で、3年後5年後のマーケットニーズに外れのない商品性と品質を持ち、しっかり利益が出せる製造原価が実現でき、確実に所定の開発期間(なるべく短く)で開発が実現できる技術要件の範囲に、その開発仕様が追い込まれている様な商品企画を実現する目的です。
従来から、多くの製造業における商品開発のスタイルは、ともすれば営業主導となり、FS(フィジビリティースタディ)が、十分に行われていないケースがほとんどと言っても過言ではありません。
例えば、既存技術だけの手堅い商品仕様では、市場競争力がないと言う錦の御旗の下、仕込みがされていない技術を無理矢理要求して、結局はその技術開発が巧く行かず、開発期間が大幅に遅延して、市場投入時期を逸してしまった例は枚挙に暇がありません。
販路拡大と言う錦の御旗の下、製造原価を無視した低い販売価格と、高スペック仕様を要求し、販売にはこぎ着けたものの、製品一台あたりに数枚の一万円札を貼り付けて(要するに赤字で)製品出荷を続ける嵌めに陥ってしまっている例、など、私がこれまで各所で行ってきた現状診断では、このような悪しき例を驚くほど多くの製造業で見て参りました。
そして商品企画段階でのFS(フィジビリティースタディ)の強化は、このような問題を根絶して、“旬で、よく売れ、高収益を上げる事が出来る商品開発”を、実現するための切り札として、私が各所で提案している取組です。
“旬でよく売れて稼げる商品”を的確に開発仕様に落とし込むためには、先に述べたマーケット情報の的確な把握が必須です。そして精度良く漏れなく把握したマーケット情報を基に、確実にマーケットが受け入れてくれる、先行する競合製品を、販売力などの二次的要因を抜きにしても凌駕できる商品特性を、その商品企画には持たせる必要があります。
但しその商品特性をどのように持つかは、売値優先で行くか、性能優先で行くか、イメージ優先で行くか、若しくは政治的な根回・圧力なども含めた戦略的なアプローチを取るかなど、基軸になる戦略をどう取るかで、様々な選択肢がでてきます。
洗いざらいその選択肢全てに対してスタディーを繰り返すことは、様々な観点から考え得策ではありません。ですから現実的には、まずは基軸戦略をどのように絞り込むかが、FS(フィジビリティースタディ)の最初の関門と言えるでしょう。
特に貴社のような、これまで経験の無いマーケットに向け新しいチャレンジを模索している場合には、FS(フィジビリティースタディ)の最初の関門は、この基軸になる戦略を何処に置くかが皆目見当が付かないと言う話になるか、声の大きな方の独りよがりな思いに強引に集約されてしまう可能性があり、そのスタディーの最初から破綻の道を驀進してしまう危険性を大きく孕みます。
しかし私どもが提唱致しますFS(フィジビリティースタディ)の進め方をお取り頂ければ、貴社の規模やその歴史から鑑み、貴社が持つ知見や貴社が活用できる周辺の知見を効果的に活用することで、恐らく幾つかの合理的な基軸戦略に集約することができると思います。そしてその知見が判断を下す拠り所に、これまでくどく述べてきた、精度が高く漏れのないマーケット情報が、まずは必須となるわけです。
そしてこの段階が表2に示す、私どもが推奨するFS(フィジビリティースタディ)の“本当に売れるのか?”の入口になります。以後、これまで述べてきたメンバー全ての知恵を出し合い“マーケットニーズに応えた商品仕様になっているのか?”、“商品を売るマーケットが本当にあるのか?”、“競合製品に打ち勝ってどれだけ売れるのか?”を詰め、さらに表2に挙げた各項目をステップを踏んで愚直に進めてゆくことで、ビジネスの成否が明確になり、行けるとなった場合の商品開発仕様が固まってくる事になります。
一方“旬でよく売れて稼げる商品”を、最高品質かつ可能な限り低コストに、さらに最大効率で商品開発を行おうとしたときに、その取組を妨げる最大の要素に“開発設計途上における仕様変更”があります。設計途上で行われる仕様変更は、一般に設計品質を大幅に低下させます。
何故なら開発途上で行われる“仕様変更”は、期日までに仕上げねばならない設計作業を、振り出しまで戻してしまうことが少なくないからです。設計の初期段階での“仕様変更”なら、未だその被害は少ないかもしれませんが、設計の大詰め段階で行われたら最悪な事態を引き起こします。そして多くの製造業では、本来なら振り出しに戻さなければならない設計を、戻すことをせず、中途半端な小手先仕事で辻褄合わせをして、結果として開発した商品の品質低下を招いてしまうような、馬鹿な開発スタイルを、 これまで延々と繰り返していました。
見方を変えるとFS(フィジビリティースタディ)は、この開発途上での“仕様変更”を防ぐ為の決定的な切り札です。さらに切り口を変えてみると、FS(フィジビリティースタディ)は、開発する商品のQCD(品質・コスト・納期)が、バランス良く成り立ち、お客様に喜んで頂ける商品となるように、徹底的にその仕様を追い込む取組です。さらに補足すると、私共が提唱するFS(フィジビリティースタディ)では、対象商品に対する構想設計作業の、重要な部分の殆どは、この段階で行われるとご理解下さい。
以上ご質問に一対一で対応した回答ではございませんで、余計なことを長々申しましたが、私共が提唱するFS(フィジビリティースタディ)をご理解頂くためには、いずれも欠かせない内容ですので、長文をお許し下さい。
ここは会員以外閲覧できません、悪しからず
表2 FS(フィジビリティースタディー)とは