<前略>
弊社でも社の存亡をかけ、事業の取捨選択、徹底したムダの排除、社員一人一人の最大効率化などにこの一年取り組んで参りました。
その結果、事業の大幅ブラッシュアップ、生産拠点の統廃合などを強力に推進し、利益が出る物作り態勢をそれなりに実現できたと自負しております。
一方私が預かる製品開発部署では、事業の大幅ブラッシュアップに伴い、開発品目も大幅に削減を行ったため、まずは不要不急の人員整理を余儀なくされました。しかし前回のバブル不況を経験した経営層から、我が社にとって必要不可欠な人材を良く吟味して、景気復活時には競合他社に先駆けることができる態勢作りも同時に指示を受けたため、結局本来なら固定費ではない外注設計者の数を減らす(95%以上の削減)ことでお茶を濁して参りました。
残った外注設計者はいずれも20年選手のベテランで、弊社の中堅設計者たちでは太刀打ちできない実力を持っている強者達のため、管理部門からは強い横やりが入りましたが、何とか凌いで必要最低限の要員を残すことで落ち着きました。
併せて、設計開発業務そのものの徹底したムダ削減を目指し、先生の御著書を参考にフロントローディング設計態勢確立にも取り組んで参りました。
開発案件が大幅に削減されたため、ピーク時では半分以上の設計者達を投入して、フロントローディング設計に必要となる設計手順や設計ノウハウの体系化に取組み、昨年末には主力製品の設計標準が概ね出来上がりました。
そして年初以来それらを用いて新たな開発案件に取り組んだのですが、結論から申しますとうまく行きません。フロントローディング設計により試作段階での不具合が減るどころか、相変わらず「想定外の問題発生」が多発し、先生が御著書で言われている「作って・壊して・考えよう」の状態を繰り返しております。しかもこれまで詳細設計や部品図作成を担って貰っていた外注設計のメンバーがいなくなったため、詳細設計の詰めが甘かったり、部品図の質が低いなどかえって問題が増えてしまった状況です。
恐らく我々の取組が、先生の御著書で述べられている真意とは異なる方向に向いてしまっているために、うまくいっていないのだとは思いますが、何処でボタンの掛け違いを起こしたのかが、推進メンバを中心に様々な検討を行ったのですがよく分りません。
貴ホームページで弊社のような状況に陥っているらしい他社から、一連の資料を先生にお送りしてコメントをお願いしている例がございましたが、弊社へもご対応をお願い頂けますでしょうか。
赤字決算中の弊社にとっては厳しい金額ですが、先生の正規料金で構いませんので、添付致します一連の資料にお目通し頂きまして、ご教示頂けますと助かります。
<後略>
一連の資料を拝見致しました。
まず感想を述べますと、取組に至るまでの分析・検討・策定のプロセスがあまりにも表面的すぎ、上面だけの印象を否めません。さらに本年年初からの取組に際しても、場当たり的というか、十分なコンセンサスも得ずして、後は自分たちで考えろ、自分たちで工夫しろ的な試行突入に見えます。
これでは巧く行かなくて当たり前だという感想ですし、このような取組に私の名前やフロントローディング設計という言葉が用いられることそのものが不愉快です。
フロントローディング設計実現は、皆さんが考えているほど生やさしい取組ではありません。弛まない努力と不屈な思いを持ち、積み重ねるべきを一歩一歩積み重ねるような、地道な努力を通じて初めて実現できる取組です。フロントローディング設計を甘く見ないでほしい。
さて、恐らく**さんは問題点をお気づきになられておられるのではないかと思いますが、貴社のパターンも我が国製造業の多くが持つ悪弊をそのままにしての取組とお見受け致しました。
これまで私が関わって参りました多くの製造業で見られた悪弊の一つに、年度主義の改革アプローチがあります。20年ほど前から大きく変わってきた単年度で定量的な成果を求められる人事考課の影響が大きいと思います。単年度の間に所定の定量的な成果が出せないとマイナス査定になってしまうため、どうしても低めな目標設定、甘めな成果評価、やり散らかし等が蔓延することになります。
拝見致しました貴社の資料からは、取組への詰めの甘さ、私の経験では到底難しいと思われる設定期間の短さ、そしてその結果どう見ても表面的としか思えない取組計画とその目標設定。まさに魂の入っていない実行計画であり、併せてその総括資料と見えてなりません。
ですから、お問い合わせの「一向に改まらない設計アプローチを一気に改革する手だては?」の巧く行かない原因は、「取組が甘い」の一言でお答えできてしまう事になります。しかしさらに踏み込んで、たぶんお知りになりたい、「ではどのような取組を行えばよいのか」になると、お送り頂いた資料だけではあまりにも情報が欠落していると思われ、その方向性を簡単に導き出せるとは思いません。それでもよろしければ以下のような条件でご支援させて頂きます。
恐らく**さん自身は、「取組の甘さ」を承知されておられのだが、それを実務者達が理解しようとしない、そこで外部の私に対して指摘させようと居られるのだとお察し致します。しかし「取組の甘さ」は、**さんがお考えになられている以上に甘い物に私には見えてなりません。皆様のお立場もございますでしょうけれど、私共の現状診断を受診頂き、振り出しからの仕切直しを行うべきだと考えます。
また私の診断を受けるか否かはともかくとして、私からのレポートだけに頼るのではなく、私の一連の著書や「機械設計誌」連載のバックナンバーを、皆さん自身で熟読頂き何が拙かったのかを改めて総括すべきと考えます。
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