<前略>
弊社では、20年以上前からCAEの積極的な活用を行って参りました。おかげさまで機械学会で表彰される事案など、恐らく他にひけをとらないCAE活用技術が弊社内には定着したと自負しております。そしてこれらの活用作業は、CAE解析を専門とする専任の研究者たちの手により行われて参りました。
一方、設計に迅速に活用できるCAEと言う観点では、限られた人数の解析専任者達だけでは、自ずとその処理量に限界があり、開発優先度の低い対策案件には、どうしても効果的にCAE活用を行うことができず、開発が泥沼に陥る原因を引き起こしておりました。
また解析専任者それぞれには、解析テーマの得意不得意があり、この面からのCAE活用が満遍なくという観点からは程遠い現実があることも事実で、本来なら製品を最もよく知っている設計者達自身にCAEを活用させることが望ましいと考えております。
そしてそのような問題意識から、10年以上前になりますが、設計者向けCAEが一般化しだすと同時に、一気に100ユーザーライセンスの導入を行い、2年近く掛け、設計者達へのCAE教育を行いました。
しかしその結果は、はかばかしい物ではなく、本当に駆使してもらいたい主力設計者たちは、自分で使おうともせず若手や外注設計者達にCAEを操作させ、また得られた結果に納得せず「CAEなど使い物にならない!」と決めつける有様でした。
さらに問題だったのは、余り設計力の無い中心となるべき設計者が、若手が誤りだらけで出してきた解析結果をそのまま鵜呑みにして、試作段階で大トラブルを引き起こしたり、とんでもないオーバースペックな製品を送り出す結果になったことです。それも気づいたら数十件という始末でした。
このような経緯があり、いつの間にかCAEライセンスの稼働頻度も減り続ける有様で、昨年度のメンテナンス契約時は、業績の先行き不安と言うこともありまして、ライセンス数を大幅に減らした10ライセンスだけを残すと言う、寂しい状況が現実です。
このような有様ですから、つい一昨年までは、とにかく力づくで製品開発を行えと言う意識で、CAE活用も顧みられることもなく、ただ自分の経験と感だけに頼る前近代的な開発アプローチを続けてきたという次第です。
一方、昨年度より百年に一度の大不況の影響で、弊社でも売上高が大幅に減少し、様々なリストラ策が交わされる中、「開発技術力を今の内に強化しておけ」と言うトップからの強い指示があり、一度は失敗した「CAEを活用した設計力強化」に改めてチャレンジすることになった次第です。
そこで質問ですが、有泉技術士は、各所でCAEを活用した設計力強化を成し遂げてこられていらっしゃるようですが、弊社の様なケースでは、どのような点に注意すべきだとお考えですか。2度と失敗はしたくありませんので。
<後略>
まずこれだけの情報では、的確なお答えをしようがありません。
お問い合わせで開示頂いた情報が、**さんが10年前の失敗を受けて、問題だと捉えておられている全ての情報だと思います。**さんは、恐らく結果の事実としては失敗したことが理解できていても、なぜ失敗したのかが理解できていないのではないですか?
仮に現時点での**さんの意識のままで、**さんが中心になって表記の取組にチャレンジなされるなら、恐らく九分九厘失敗に終わると思います。悪いことは申しません、今の内にギブアップ宣言をなされた方が賢明と考えます。また上記致しました内容が、ご質問頂いた「注意すべき点」になると思います。
さて、ではなぜこのような指摘をさせて頂いたかを簡単に説明致します。
設計と言う行為は、原理原則に叶った機械構造を、設定目的に合致するよう論理的に詰め、初めて成立する行為です。根拠の薄い思い付きや猿まねでとにかく形を作り、問題を起こしてから考えるような設計もどきを行っていたのでは、埒のあくはずはありません。
設計に活用するCAEは、対象機械を“設定目的に合致するよう論理的に詰める”作業に用いて始めてその効果を発揮できる代物です。要するに試作品としての物になる前の設計段階で、対象機械に起こるであろう様々な物理現象や挙動を予測して、的確に目的に叶う機械に落とし込む作業にこそCAEは活用されるべきです。これが私が提唱しておりますCAEを駆使した“フロントローディング設計” です。
ところが頂いた情報によると貴社では、これまでCAEを、起こってしまった問題に対するトラブルシューティングの道具として専ら用いてきました。しかしこれでは製品を開発する上での一番大事なところでCAEが活用できているとは思えません。このような用い方だけでは、設計にCAEを生かして使うことが叶わないだろうし、設計者達自身がCAEを自分の道具として使おうとしないでしょう。
さらに貴社で、このような用い方だけがCAEの用い方と捉えておられるのでしたら、設計者達自身でCAEを活用できなかったのは当然のことといえるでしょう。貴社の皆さんは巧く活用できていると思われているのでしょうが、CAEが持つ本当の力を活用できていないと思います。
詳しくは私の書籍「CAEによる設計の改革術」「設計者の頭の中を整理する「設計思考展開」入門」などをお読み下さい。
ところで本気で“CAEを活用した設計力強化にチャレンジ”するおつもりでしたら、一度弊社においでになりませんか。私が貴社に出向くとなるとサービスというわけには参りませんが、ご来社頂けるのでしたら、営業サービス的な意味合いで1〜2時間程度のお相手をさせて頂きます。その席で私から投げかけます質問にお答え頂ければ、ご希望の注意事項のみならず、お勧めする方向性などもアドバイスできると思いますので。
尚ご依頼いただければ、貴社の現状の問題点や強み弱みを洗いざらい引き出して、今後如何に改めて行くべきかをご提案する“現状診断”をお受けすることが可能です。費用は決しておやすくありませんが、貴社が最短且つ的確に目的を遂げる為に最も効果的な選択肢と考えます。