CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

製品開発に貢献できない受け身の解析専門部隊は不要の存在(その2)


■質問■

<前略>

早速のご回答ありがとうございました。ご指示頂きました情報を過去20年に遡って可能な限りかき集めてみましたので添付させて頂きます。

しかし残念なことに設計現場の協力が十分に得られなかったことと、開発進捗や開発品質に関わる計数的な管理が、弊社ではこれまで十分になされて居らず、ご指示頂いた内容での資料(データとして意味を持つ)の提出ができて居らないと思います。

そこでご指示頂きました各指標に対するこの二十年来の変遷について、私の把握できる範囲で、なるべく私見を入れないようにしながら、各の状況を以下に纏めさせて頂きます。

  1. 主力製品のフルモデルチェンジにおける開発期間の変遷は、市場要求による開発仕様の難易度に起因する増減はありますが、概ね漸増の傾向がありましたが、ここに来て大幅増加の傾向があります。

  2. 開発工数の推移ですが、様々な要因によるサービス残業の実態と、この十年名目管理職が直接手を下す傾向が多くなったことも併わせ、正確な工数データは把握不可能でした。しかし私の感覚では、バブル崩壊直後は、非効率な設計者の退職などもあり、工数減少の傾向が見えたのですが、明らかに増加傾向をたどっております。またこの十年来外注設計業者への支払経費が鰻登りで増加しておりました。

  3. 担当製品の売上金額と設計者の人数ですが、この数字だけは正確にご呈示できます。正社員の人数が微減に対して、外注設計者の数が鰻登りで増えております。一方売り上げ規模は、バブル崩壊で国内売り上げの大幅ダウン時を基準にすると、昨年度売り上げは5倍の規模にまで増えております。本年度の見込みは30%ダウンです。正社員設計者一人あたりの売り上げ(生産性)で見ると、基準時点に対して4倍層の生産性向上になっております。外注設計者依存の現状がありますので、あくまでの見かけの生産性向上ですが。

  4. 開発途上で手こずった設計対策件数の推移ですが、ここに来て増加の傾向があります。

  5. 開発途上における設計ミス(設計変更通知書)の変遷ですが、弊社では開発途上では、設計変更通知書は作成して居らず提供不可能です。設計変更の管理は、重要項目だけを専用のシートで管理しており、全開発案件のシートを提示させて頂きますが、この十年明らかに増加傾向にあります。

  6. 寸法誤記や計算ミスなどのケアレスミスを除いた開発途上における設計変更の件数ですが、バブル崩壊直後の開発案件に比べ、直近の開発では倍増〜三倍増の状況です。

  7. 社員設計者が図面を引いている時間の推移ですが、作業日報を付けている一般社員の分しか把握できませんが、大幅減少の傾向があります。私の目で見ても、かつては設計者達が自分で引いていた重要な設計図を、現在では殆ど外注設計者に引かせています。

  8. 試作工場などで設計対策を設計者達が行っている時間の推移ですが、やはり一般設計者分しか把握できませんが大幅増加の傾向にあります。中堅設計者達は、定時前は専ら打合せや調整をしているか、手配書や作業依頼書などの書類を作っており、定時後は目一杯試作工場にこもるパターンです。若手は終日試作工場にこもり、たまに顔を見かけるときには部品探しに徘徊している状況です。

  9. 解析依頼の件数の推移ですが、当方スタッフの人数が大きく変動しなかったため、極端な増減はありませんでした。最近では減少の傾向が見られます。

  10. 解析を依頼されるタイミングの推移ですが、構想設計段階では以前から殆どありませんでした。しかし一部設計者達からは、機構構造や基本機構の追込みの相談があり、協力して解析を進めたこともあったのですが、最近は殆どありません。設計図段階でも構想設計段階と同じですが、部品図に入れる程度に形状や構造が定まってくると、様々な解析依頼がございます。件数的には、以前も今も大きく変わりません。試作検証段階での解析依頼は、昔も半数以上でしたが、現在では3/4を超えていると思います。

  11. 依頼される解析の難易度ですが、以前に比べ難しい案件が増えていると思います。特に試作検証段階で発生したトラブルの原因究明などで、製品構造やメカが苦手な当スタッフは手こずっております。

  12. 製品開発に対する弊部の貢献度ですが、かつてに比べ低下していると思います。かつては構想設計段階での追込み作業などでだいぶ評価されたのですが、最近は試作検証段階でのトラブル対策に巧く貢献できず、穀潰し呼ばわりされております。

  13. その他、最近は設計の中心に外注設計者が就くケースが増え、試作検証段階でのトラブル多発の原因になっていると思われます。

  14. 以上(他未だ記しきれないほど問題点などを感じますがとりあえず)。

尚、懸案でした機密保持に関しましては、弊社顧問弁護士より技術士法の拘束により、特に機密保持契約を締結しなくても先生への情報ご呈示可能との見解がございましたので、契約締結は省かせて頂きます。

<後略>

■回答■

私が予測したとおりの受け身の解析業務を延々と続けられて来たようですね。

今のままでは貴部の存在価値はないと思います。それ以上に心配なのは、貴社そのものの製品開発力が大幅に低下しており、これからの厳しい経済状況では、その生き残りも難しくなるのではないかと危惧致します。

なぜ貴部が受け身と私が決めつけたかをとりあえずご説明致します。

詳しくは、私の提唱するフロントローディング設計に関する弊社HPページの記事をお読み頂きたいのですが、製造業が効率よく高品質・高付加価値の製品を生み出す事ができるポイントは、「問題を先送りしない設計」、「しっかりした構想設計を行い設計初期段階であらゆる問題を潰し込む設計」です。そしてこの考え方を纏めた物が私の提唱する「フロントローディング設計」なわけです。

未だに多くの製造業では、とにかく物を作って考えようの悪い意味での現物主義、「“作って”“問題を出して”“考えよう”」の設計アプローチを行っております。お聞かせ頂いた貴社の状況もまさに典型的な「“作って”“問題を出して”“考えよう”」の設計アプローチと診ました。

そしてこのような設計アプローチを続けている限り、設計効率や設計品質が画期的に上がると言うことはあり得ません。だだし唯一素養を持った設計者達が、様々な失敗の経験を積み重ねることで、各がスキルアップを遂げ、結果として設計効率が上がったり、設計品質が上がることがございます。

団塊の世代と言う豊富な人材供給を受け、急激な成長を遂げた1970〜80年代の我が国製造業がこの姿だったと思います。まさに奇跡の成長の姿だったと思います。

しかし現在の製造業が、この奇跡を期待することは不可能です。なぜなら豊富な人材供給が叶いませんし、固定費を増やしたくない経営者としては、たとえ人材が得られるチャンスがあったとしても、かつてのような大量採用には踏み切れない現状があります。

素養のある優秀な設計者達は、その経験と能力の中で、設計(開発)途上で発生するであろう問題点を先手を打って予測し、手当をすることで、効率よく高品質な製品を生み出してきました。また彼らは設計者としてCAEなどのシミュレーションツールを駆使する能力も自然と備わっておりました。

設計目的に対してモデルを構想し、そのモデルに起こるであろう様々な現象を予測し、漏れることなく確認検証し、問題の起きない狙い通りの設計に落とし込む能力です。

奇しくも提供頂いた情報の中に、かつてバブル崩壊当時は、「一部設計者達からは、機構構造や基本機構の追込みの相談があり、協力して解析を進めたこともあったのですが・・」と言うくだりがありましたが、まさにこれらの設計者は、私が言う“素養のある優秀な設計者達”だったと思います。そしてこの様なCAEの用い方が、攻めのCAE活用になるわけです。

余談ですが、バブル崩壊時、貴部がリストラを免れることができたのは、恐らくこれらの設計者達のおかげで、CAEシミュレーションの価値を評価されていたのだと思います。

一方現在、貴部が請け負っている仕事は、能力の低い設計者達が、闇雲に設計を行った結果、発生してしまった訳の分らないトラブルに対して、「何とかしろ」と言うトラブル対策がもっぱらと診ました。

頂いた情報からは、正社員の設計者はまともな設計行為を行っていないと診えます。設計の目的を図面へと落とし込む、技術者としての設計者ではない、技能者としての設計工が役割の筈の外注設計者達に、その領分を超えた設計を丸投げしている状況と診ました。

にもかかわらず、問題を起こしている根元である設計部署からの「特に設計部署の当部に対する見方は冷ややかで、部長会などでは、穀潰し扱いまでされる始末です。」「DRなどの場面でも「いつになっても解析結果が出てこない」「解析結果があてにならない」などと、開発の遅れや製品品質が良くならない原因を当部に転嫁されてしまっておる現状があります」などの責任転嫁を、反論もできず甘んじて受けている事実が、私に言わせると“貴部が受け身”と言う判断になるわけです。

上記以外にも「試作検証段階で発生したトラブルの原因究明などで、製品構造やメカが苦手な当スタッフは手こずっております。」など、**さんの纏めやお送り頂いた資料から、多くの“貴部が受け身”と取れる根拠が各所に見受けられますますので、あくまでも上記指摘は代表的な一例とご理解下さい。

ところで最初に指摘させて頂きましたように、お送り頂きました様々な情報から判断して、貴部だけの問題だけではなく、貴社の屋台骨であるはずの商品(製品)開発力そのものが大幅に弱体化しているのではないかという恐れを感じます。**さん自身、同様な恐れを感じているのではないかと思います。

**さんとしては、貴部存続の手だてを最優先で打ちたいとお考えでしょうが、商品(製品)開発力そのものへの、早急なる強化の手だてを打たなければ拙いのではないでしょうか。恐らく早急に対策を講じないと、貴部の存続どころか貴社存亡の問題と考えます。失礼な言い方になりますが、貴部存続など結果としての話で、皆さんが全力を挙げ最優先で取組むべきは、貴社存亡を掛けた根幹部分の改革・改善・体質強化への注力ではないでしょうか。

ご依頼頂ければ、私どものノウハウを駆使して、早急なる改革へのご支援を申し上げます。貴社の余裕度合いによりますが、この百年に一度の大不況は、企業の様々な体質改善を図る絶好のチャンスです。生産量の削減、開発案件の削減や延期などにより、膨大な余剰工数が発生しているはずです。この余剰工数を体質改善に有効に活用すべきと考えます。