設計者向けCAEツールは本当に使えるのか?


 SolidWorksなど、Windowsベースの本格的3次元CADが一般化すると呼応するように、3次元CADとの緊密な連携性を謳った"設計者向けCAEツール"なるものが、多く登場している。
 モデリング(設計?)の終わった3次元形状に、荷重や拘束(結合の方法・・ボルト締め、乗せてある、圧入している等の結合設置の状況を、節点と節点が完全に結合している、ある方向は滑るなどの条件をモデルに定義する事)の条件を与えてやれば、ユーザーはFEM(有限要素法)の詳しい知識が無くても、たちどころに結果を得られると言う代物だ。
 私がFEMの利用を始めた20年以上前は、簡単な強度計算をするのでも、対象になる部品図のコピーを製図版に貼り付け、その上に鉛筆でメッシュを書き込み、メッシュの交点の座標値を一つずつ拾い、メモをしていったものである。その後も気の遠くなるようなデータ準備の作業をコーディングシート上に行ない、やっと解析コンピュータで流す事の出来る状態にたどりつくと言う状況であった。これを思うと昨今の"設計者向けCAEツール"なるものの手軽さには驚きと喜びを禁じ得ない。
 実際の設計プロセスに、この道具を当てはめてみる。部品レベルまでの製品形状が決まってくるのは、設計プロセスの中での、かなり下流工程の試作出図直前である場合が多い。この段階に入ると多くの部品に対して、その製造や加工方法、コスト、組立性などを検討しながらの部品設計がなされる。部品単体の強度や、固有値などもこのこのタイミングで、確認されるのが一般的である。この段階まで一貫して、3次元CADを用いた設計をしていると、設計者向けと謳われるこれらのツールにとっては、最も都合の良い3次元データが出そろうことになる。これらのツールは、まさにこのタイミングで用いるに、極めて都合の良い道具である。
 しかしシュミレーションツールは、設計の初期段階で旨く用いると、対象製品に求められる設計の品質を充分に追い込んだり、コストや生産性等の観点から最適な設計を実現する事に大きな役割を果たす。さらに、開発期間短縮や設計品質の向上に大きな効果を生む。
 なぜならシミュレーションは、コンピュータによる、仮想試作に基づく製品品質の追い込みや、設計の最適化であるからに他ならない。わが国の多くの製造業では、試作、確認試験及び設計変更を、幾度となく繰り返す製品開発手法での製品開発を行なってきた。シミュレーションは、これらに比べて、圧倒的に効率が良く、またあくまでも仮想試作であるため、その試作コストを全く気にしなくて済む事に大きなメリットがある。
 では、もしこの段階で、"設計者向けCAEツール"なる物を、設計に適用した場合の、使い勝手を検討してみる。
一般に、設計の初期段階は、未だ部品の形状どころか、機械の構造までもが定まらない場合がほとんどである。この状態から、シミュレーションによるチャレンジを行なう場合、単なる骨組み状の構想しかないところから、追い込み作業が必要となる場合も少なくはない。こうした場面で"設計者向けCAEツール"を適用しようとすると、これらのツールは、3次元形状が無いとまずは話が始まらないわけで、ともかくシミュレーション目的のラフな3次元データを作成する事になる。この部分は他のCAEツールを使っても何らかの形でシミュレーション対象の形状定義作業は必要なので、同じ事と割り切っても良いだろう。しかし設計初期段階でシミュレーションを用いる最大のメリットは、そのモデル形状などを時々刻々微妙に変えながら、最適な形状や構造に追い込んで行けるところだ。当然微妙な形状や構造の変更に手間がかかったのでは話にならない。例えば、そのラフなシミュレーションモデルが梁要素やシェル要素を用いて作られている場合、その断面形状の追い込みや、板厚の追い込み、微妙な構造の追い込みは、その形状テーブルや設計座標を数値的に微妙に弄るだけで、容易に対処する事が出来る。
ところが、3次元CADの操作から全てが始まる"設計者向けCAEツール"の場合はどうだろう。その都度3次元形状の作り直しを余儀なくされる。その都度3次元形状を作り直し、解析の準備処理、解析実行等の一連の操作を繰り返す事になる。現在コンピュータは画期的に高性能化したと言われる。しかし、ソリッド形状の内部を、自動メッシュで細かく分割したFEMモデル等で、迅速に(秒単位で)解析処理するには、未だ荷が重い。将来コンピュータパワーが、現在に比べ数万倍の性能を持つようになった暁には、全てソリッドから行なう微妙な追い込み作業でも問題はなくなるのであろうが、少なくとも今現在では余り現実的とは言えない。
 さらに、設計の初期段階でのモデルは、極めてシンプルなモデルなのだが、解析内容はある程度高度な解析が必要とされる場合が多い。例えば使用部品や結合条件を時々刻々微妙に変えながらの固有値解析、加振応答解析、大変形の解析、接触の解析等、数えたら暇が無い。しかし"設計者向けCAEツール"の殆どは、これらの解析項目は、その機能には含まれていない場合が多く、別な道具を使うか、今までどおりのKKD(感と経験と度胸)で行くしかない事になってしまう。
 これらのツールを活用しようと検討しているWeb会員の皆様は、これらの制約を十分理解した上で、最も合理的な活用方法を編み出してもらいたい。