多くの製造業で、3次元CADが導入され、その利用が始まっている。
また、各種情報誌や講演会で華々しくその成果が発表されるようになってきた。しかし、日常実際の設計現場で、その生産性の向上や、設計品質の向上に携わっている私の目から見たとき、"?・・"と首をかしげたくなる紹介事例が決して少なく無いことをお知らせしておく。
私自身が8年以上製品開発の設計業務に携わり、長年設計部署の皆様の業務支援に関わり、自分なりに確立してきた、"設計とは"との思いと、昨今垣間見る設計現場で行われている設計行為の、余りにも大きいかい離に、戸惑いを感じている。
その昔、TQCの華やかりし頃、私はQCの大家の大先生たちに、"設計の品質"と言う言葉を常に浴びせられていた。
「設計とは、物が作れて(妥当なコストで)、その目的通りに機能(使えて)して、利用者が安全にかつ快適に満足して使えることである」と。
しかし、昨今の設計現場で、本当にこのような設計が行なわれているかと言うとはなはだ疑問である。物作りを考えていない、自社の持つ工程能力を考慮していない設計。たとえば、射出成形で製造する樹脂部品。出図された商品図(一部には3次元データだけ)を見ると、パーティングラインをどこにとれば良いのか?そもそも、その抜き方向をどの向きに取ると、金型構造やコストに有利になるか、一日中図面を睨でいないと判断できないような最悪な設計に出くわしたことが有る。
そこで、その設計者に、射出成形機の基本構造をや金型構造、射出成形の方法などを尋ねたところ、何と驚くことに、これらの基本的な質問にまともに答えられなばかりか、「後は金型メーカがやるのだから、とにかく図面通りの物を納めてくれば良いのだ。今までもそうしてきたし、問題も無かった。何が悪いのだ?」と逆襲を受ける有り様であった。
これでは、当然、あのあきれるような最悪な図面が出来る訳だと妙な納得をしたものである。2次元CADが普及してしばらく経つと、ベテラン設計者の中から、「最近の若い設計者は設計をしていないのでは?」、「他の人が描く図面を流用し、尤もらしく線を描き並べているだけではないのか?」、「流用元になった図面を設計した設計者の、設計意図を本当に理解した上での流用か?」、「CADを使うと尤もらしくきれいな図面が出来てしまうから、つい設計意図まで踏み込まず、検図をおろそかにしてしまった」、「テレビの画面の中で設計作業を進めているので昔の製図板時代のように後ろから覗いて指導を出来ない」等の多くの声を私は聞いている。
いつのまにか一部の製造業では、設計と言う行為が、単に図面を整える、形状を造形する行為に成り代わってしまい、「設計とは、物が作れて(妥当なコストで)、その目的通りに機能(使えて)して、利用者が安全にかつ快適に満足して使えることである」と言う、設計の基本要件が忘れ去ら
れる状況に陥いてしまったのだと言えよう。
(つづく)