私の講演に際して行ったアンケートで、用紙に記載された質問事項の転載を致します。
<質問事項>
成果主義の人事評価制度を巧く変えないと、設計改革・商品開発改革は無理と言うご発言がありましたがもう少し詳しくお教え下さい。
「成果主義の人事評価制度を巧く変えないと、設計改革・商品開発改革は無理」は、詰まるところは、経営者達の姿勢の問題です。確かに成果主義の人事考課は聞こえがよいと思います。しかしこの人事制度の大前提は、あくまでも各人の成果が的確に評価されて始めて、従業員のモチベーション向上などに効果をもたらす仕組みです。裏を返せば、評価基準や評価方法に問題があったら、その理念は台無しになるうえ、効果も出せなくなります。
ここでは、詳しく成果主義の人事制度の問題点について語るつもりはありません。しかし設計改革や商品開発改革への取組は、一朝一夕で出来る取組ではありません。講演で紹介したA社の例では、その取組に対して、成果が大きく評価されるような数字を出すまでに、10年近くに歳月を掛けました。仮にこの改革に心血を注いだメンバーが、10年もの間、その取組に対して、数字が出ていないという理由で、低い評価を下され続けたら、彼等のモチベーションは10年も続いでしょうか。
私が知る、多くの製造業の平均的な同制度の評価ルールに当てはめると、改革に心血を注いだ中心メンバーは、10年もの間全く評価されず、数字の出た一年間は、それなりの評価を受けるが、時既に遅しで、同期入社組は、とっくに課長・部長・役員になっているという構図が浮かび上がってきます。
仮に私が当事者であり、A社の例で紹介したような強い思いを持ち、且つ腹の据わった経営者がおらなかったら、改革などの手間のかかる仕事はサッサと放り投げ、もっと評価の付きやすい仕事にシフトしたに違いません。恐らく私なら、最初からこのような仕事に、手を染めなかっでしょう。これは私に限らず、ある程度要領が良いサラリーマンなら、誰でも同じ行動を取ってあたり前の話であるはずです。
そして、この成果主義の人事制度と、サラリーマンの習性が、時間がかかり、手間のかかる設計改革や、商品開発改革の大きな障害となっている現実があります。
口先で設計改革や商品開発改革を唱えることは簡単です。しかしその難しさを知ろうともせず、調べようともせず、現場にそれを要求することは、私の立場では容認できません。
余談ですが、私の行う現状診断で、このような経営者達の腹の中を把握した場合には、「貴社では設計改革は無理です」と言う文言が、そのレポートに並ぶことになります。
私の講演をお聞き頂けたり著書などに目を通して頂けるような経営者諸氏なら、決して上記のような悪しき例に、陥るはずはないと思いますが、くれぐれも安易な考えで、貴社の優秀なスタッフ達を、腐らせないでください。さらに皆さんの後継者達が、上記例に示したような愚策を行わないように、絶えず目を光らせて下さい。