私の講演に際して行ったアンケートで、用紙に記載された質問事項の転載を致します。
<質問事項>
「予測設計以外でのフロントローディング設計とは何か」をもう少し詳しく教えて下さい。
フロントローディング設計とは何か。要は、一切の問題を先送りしない設計アプローチであり、商品開発アプローチです。先手、先手を打って、商>品開発の過程で、押さえるべき事は、全て愚直に押さえて行く取組であると言っても過言ではありません。
商品開発スタート時点でのFS(フィジビリティースタディ)で、その開発仕様をしっかり詰めるのも、コストをしっかり詰めるのも、自分達の手持ちの技術で本当に滞り無く開発が可能か否か詰めるのも、全て、後で問題を起こさないための、実際に詳細な設計作業が始まってから、設計のやり直しを犯さなくて済むための“先手”です。
開発途上でその開発仕様がコロコロ変わったのでは設計者は堪りません。本来なら、そこまで詰めてきた設計を全て捨て、振り出しに戻らなければならない可能性が高いからです。
実際の開発現場では、開発期限の制約もあり、振り出しに戻るなどと言う悠長な事は言っておれず、付け焼き刃的にそれまでの設計内容に、仕様変更分を無理矢理押し込み、お茶を濁すことが一般的です。そしてこの安易な対処が、試作段階での膨大なトラブル発生の元凶となり、量産以降の品質問題を引き起こす元凶となります。さらに、量産直前で仕様変更をすることになったらそれ以上に大変なことになります。
と言うことは、究極のフロントローディング設計の極意は、まずは商品開発途上で、開発仕様が変わらないことだと言えます。
ところが、既に前でも述べたが、開発仕様を途中で変えることなく開発を完結させることは、多くの製造業にとって極めて難しい要求だ。商品としてお客さんに受け入れられないような陳腐化したり、顧客ニーズを外した開発仕様を一生懸命守るような事をしたら、何のために商品開発を行うのか判らなくなる。恐らくこんな商品は全く売れないでしょう。
商品の開発をする限りは、その商品はよく売れる商品に仕上げなければなりません。マーケットニーズをしっかり把握して、マーケットに受け入れられる、旬な、マーケットを先読みした商品でなければなりません。その様な商品を開発できる開発仕様でなければなりません。だから先にも述べたが、開発着手段階でのFS(フィジビリティースタディ)は、極めて重要になります。
コストの問題でも同様です。量産に入ってからコスト割れが判明したのでは話になりません。多くの製造業で、量産に入ってから、その原価割れや採算不良を解消し、何とか採算ベースに見合う粗利を捻出するための、VE・VAを行っているのを見かける。しかも専任のチームを作り、開発部門のミッションとして定常的に行っている例さえ少なくありません。
私に言わせると、量産移行後のVE・VAはナンセンスです。量産に入ってから未だVE・VAが必要だと言うことは、開発部隊がいい加減な仕事をしていた、まともな開発が出来なかったと言うことに他なりません。
私がこれまで行った200件を超える現状診断でも、その半分以上の製造業で、この量産移行以後のVE・VAの効果を自慢げに語られました。しかし私に言わせれば、量産に入ってから未だVE・VAをやらなければならないと言うことは、開発部隊の能力が足りなくて、開発目標に到達できていないところを、見切り発車しただけの話として受け止めています。
私が何故ここまで言うかというと、開発段階でのコスト設計と、量産移行以後のVE・VAでは、その実行効果に雲泥の差があるからです。何故なら品質・機能確認前のコスト設計では、思い切ったアイデアをトライすることも出来ます。開発期間に制約があるなら、幾つかのトライ案と安全策案の部品を並行手配しておけばよいのです。
ところが品質・機能確認が済んでしまった製品に対するVE・VAでは思い切ったコスト低減策を、一発で織り込むなど無謀なことは出来ません。精々枝葉末節な重箱の隅を突くような手しか打てない。これでは手間ばかり掛かってその効果が薄いという訳です。
要するに、開発段階でコストが詰められない問題は、開発担当者達の問題先送り行為です。本来は、設計完成度が上がる都度、しっかりした設計見積もりを行い、常に目標原価との差異を追い続け、目標に向け頑張ることが、開発設計者の重要な仕事の一つのはずです。そして、私が言う「フロントローディング設計」では、この様なコストの未達も絶対に許しません。