CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所


コンカレント開発という観点からの勝ち抜ける製造業の要件




■質問■

私の講演に際して行ったアンケートで、用紙に記載された質問事項の転載を致します。

<質問事項>

コンカレント開発のくだりで「先手を打って自工程の最適化を設計途上から織り込ませる事が、後工程の責務であり勝ち抜ける製造業の絶対的な要件だ!」というお話がありましたが、この辺りを詳しく補足頂けますでしょうか。

■回答■

私は仕事柄、多くの製造業における商品開発の実態を、“現状診断”を通して、隈無く見てまいりました。そして多くの製造業で、過去十年以上に渡る改革改善の取組みの中に“コンカレントエンジニアリングの導入”“コンカレント開発の実現”等の文言が、その中期計画や実行計画の中に踊っている事を承知しております。

ところがその実態は惨憺たる物で、形骸化した形だけのコンカレントエンジニアリングがはびこっている事実があります。例えば、「うちはコンカレントエンジニアリングに昔から取組み、その成果を出している」という商品開発現場を、私は数多く検証してきました。

そしてその中から見えてくる平均的な姿は、開発設計の前工程である商品企画の段階は、営業部署や事業部などが主導で、一方通行の商品企画が商品開発部署に流れてくる実態です。

開発設計の後工程である“物作り”や“品質保証”“アフターサービス”は、量産設計が終了するまで、「商品開発は設計の仕事」と嘯いて、「量産図面が出るまでは俺たちの出番ではない」と待ちの状態でいる実態があります。

本来なら開発着手以前にその精度を上げておくべきである“試算”作業は、開発を担当する設計者達が、過去の部品単価を元にペンを舐め々弾き出している場面に頻繁に遭遇しました。

そしていざ量産段階に入り、「設計が弾き出す量産原価予測は、当たった例しがない」と非難の矢面に、開発設計部隊がたたされている場面を頻繁に見かけました。「図面が無ければ量産原価の見積もりなど出来るわけがない」「だから図面が出来るまでは俺たちの出番ではない」よく耳にする後工程からの自己を正当化しようとする言い訳です。

さらに、コンカレント開発など無頓着な後工程の輩達は、量産直前の量産試作の段階になると、一般に膨大な設計変更要求を出してきます。「これでは作れない」「これでは組みづらくてやっていられない」「調達先の設備では、このような加工は出来ない」等々と言う具合であります。

ところが、量産直前に至までには、DR1〜DR3の各段階で、審査すべき必要事項は漏れなく報告がなされており、各段階のDRに参加すべき部署のメンバは、対象製品の設計内容は具に把握できているはずです。しかも試作評価の段階では、試作品(又は試作機・試作車)という、実際に形になった製品の姿を見るチャンスを、彼等は十分に与えられております。

このように全てのお膳立てがなされているにも関わらず、「試作は試作で、量産段階でどうせ変わるのだから、この段階で設計変更要求をしても意味がない。時間の無駄だ!」「設計とは、本来物作りのことを考えて最適な設計を行うべきであり、それが出来ない設計に時間を割いてつき合う筋合いはない。」などと嘯いている現実を各所で見受けます。

まさにこのような体質の製造業は、先手を打って自工程での最適化を、設計途上から織り込ませようとする意識が欠如していると言えます。そして、先手を打って自工程の最適化を設計途上から織り込ませる事が、後工程の責務であり、これからの製造業が勝ち抜いてゆくためには必須の要件である事を理解する必要があります。