私の講演に際して行ったアンケートで、用紙に記載された質問事項の転載を致します。
<質問事項>
お話の中に「ミニDRを効果的に行えるか否かは、それぞれの企業体質により全く異なる」と言うお話がありましたが、もう少し具体的に補足頂きますでしょうか。またそれぞれにおいて、どのような対策を打てばミニDRを効果的に行えるようになりますか。
私がこれまで手がけて来た製造業には、概ね次の3パターンがあり、それぞれの状況に応じた文化作りに取り組んで参りました。
まず最初のグループは、TQCの時代から培われてきた、良い文化が残っている製造業です。30年以上に渡り設計の早い段階で、設計内容をある程度吟味して、自工程の都合やノウハウを設計内容に織り込んで貰うことで、より効率の良い生産準備が叶い、量産の垂直立ち上げが叶うことを、幾たびも経験してきた製造業です。
これらの成功体験が功を奏して、いつの間にか、先手を打った設計チェックができる生産技術者が、高く評価されようになってきたケースです。当然彼らの評価は、高い人事考課や昇進に直結し、物作り部隊幹部の殆どが、このような体験をしてきたメンバーで固められるようになっております。
こうなると、ミニDRへの物作りメンバーの積極参画どころか、設計執務室を巡回して、当たり前のように、先手を打った物作り都合の折り込みを、行なえております。
しかし、このような文化は、若手設計者達にとっては、極めて不愉快で煩わしい文化であり、私が行ったヒアリングなどでは、何処でも若手設計者達から“問題だ”との指摘がされます。しかし多くの場合ベテラン設計者達は、この文化を良き文化と理解しており、「若手設計者の早期育成にも役立っている」と、概ね満足していました。
そしてこのような製造業には、特に本件を目的とした仕組み作りや、お膳立てを行なわずに済んでおります。
ただし注意しないと、我田引水的な、組織の都合だけを最優先した要求を、設計サイドに投げかけ続ける、悪循環を起こす例があります。他のケースでも同じですが、全体最適化思考が巧くできない者が、物作り側メンバーに、入り込んだ場合に生ずる悪現象ですので、この点は留意する必要があります。
次のパターンは、コンカレントエンジニアリングなどという言葉がはやりだしてから、それとなく組織体制の組み替えを模索してきた製造業です。しかしかけ声とは裏腹に、なかなかコンカレント開発体制に至れず、模索しているパターンです。
そしてこれらの多くでは、設計、生産技術、製造、資材、生産管理などの各部門間に厚い壁が存在して、「人の仕事に余計な口出しするな!」的な雰囲気が漂っており、DRなどの場面での問題指摘や物作り側都合要求も、腰引きぎみか、我田引水且つ高圧的な要求のいずれかに終始しているようなケースをよく見かけました。
このようなパターンでも、組織の壁が割合低く、スタッフ達の意識やコンカレント開発に対する理解が高い場合には、開発機種が立ち上がるごと、各部門担当者を明確にして、その開発の成否を、それぞれの人事考課に反映させる仕組み作りだけで、済んでいるケースもあります。
しかし組織の壁が高く、コンカレント開発に対する意識が低い場合には、次のパターンの場合も併せ、“クロスファンクションプロジェクト”態勢に移行することをお勧めしてきました。
3つ目のパターンは、DRそのものが実質的に存在せず、当然のこととしてコンカレント開発などの意識も全く無く、後工程のメンバーは図面が出図されてきて初めて自工程の検討・検証を始めるような体質の製造業です。
このようなパターンでは、まず自社が如何に劣っているかを、関係者一同にしっかり理解させる事から始めるしかありません。