私の講演に際して行ったアンケートで、用紙に記載された質問事項の転載を致します。
<質問事項>
御講演で例に出されたB社さんで行った技術の仕込みについて詳しくご説明頂けますでしょうか。
多くの製造業で、競合他社に先駆けた先行技術開発を物にしようと競っている。しかしなかなか利益を生み出す先行技術の仕込みが巧く出来ず苦しんでいます。
一方、強い競争力を持って企業競争に勝ち抜いて行くためには、他に先駆けた技術の優位性が必須だ。要するに、ポケットの中に役に立つ要素技術を山ほど詰めておき、競合他社の動向を睨みながら、その技術を小出しに用い、常に有利な戦いへと持ち込める態勢の確立が必須です。そして講演で紹介したように、B社は既にこの領域に入れていると言えます。
一方B社のような態勢になれていない部品メーカにとっても、倣うべきは、“ポケット一杯の隠し球(新規開発技術)”を持っていることです。部品を使用する客先から要求される前に、“技術を仕込み”がしてあればかなり有利なビジネス展開ができるわけで、客先から要求されたら小出しにする手もあるし、積極提案することでリーダーシップを取る手も生まれてきます。当然営業的には後者の方が圧倒的に効果が大きいですが。
しかし“技術の仕込み”を闇雲に行っていたのでは、絶えず“ポケット一杯の隠し球(新規開発技術)”を持っている状態を生み出せません。何故なら闇雲に行った“技術を仕込み”の結果は、役に立たない趣味や思いこみの技術蓄積がなされるだけ、という結果に終わることが少なくないからです。そしてこの問題を解消するためには、“外しのない技術の仕込み“が必然的に求められことになります。
研究者や経営層の思い込みだけで選ばれる技術の仕込みでは、往々にして“外れの技術の仕込み”を行ってしまいます。よほどビジネス感覚に優れた研究者でないと、“外しのない技術の仕込み“は難しいことは各所で見て参りました。
経営層の思いこみも同様です。歴史的に振り返ってみれば分かる話ですが、あの本田宗一郎でさえ、乗用車用強制空冷エンジンではその読みを大きく外しました。ましてや商品開発に、さしたる実績も持たないサラリーマン経営者の思いこみが、“外しのない技術の仕込み“を実現できるとは到底思えません。実際に私が過去行った現状診断では、各所で“役に立たない技術の仕込み“の山を見て参りました。
さて、技術をポケットに仕込むと一口に言っても、“外しのない技術の仕込み“を実現するためには、何を仕込めばよいか、どの様に探せば良いかの問題が出て来ます。そこで私が、技術を仕込もうとする際に目安としている、技術を仕込む目的・ポイントを図1に示します。
“10年後マーケットをリードするために必要な技術”、“5年後画期的な商品開発体制を確立するために必要な技術”、“直近の開発案件での着実な開発を実現するために必要な技術”を的確に把握し、優先順位を付けて順次仕込んでゆくことで、強力な開発力(無理・無茶が無い開発仕様への落とし込み力、一切の見逃しを犯さないFS(可能性チェック)力、問題の先送りがなされないトップクラスの開発力、物作りに起因する手戻りが起こらない開発力、一切の見逃しを犯さない開発力)を獲得しようという考え方です。そして私は、仕込むべき技術を的確に把握し、優先順位を付けて順次仕込んでゆく取組を、“技術の棚卸”と呼んでいます。
私が言う技術の棚卸とは、工場の倉庫にあるべき部品を、棚毎に確認してゆく棚卸し作業と同様な作業を、自分たちの保有技術に対して行うことです。要するに、自分たちが本来なら保有していなければならない技術の棚があり、その棚の中に本当にその技術が詰まっているのか否かを、逐一調べて行く取組。その上で、本来あるべき棚に不足している技術は、優先順位を付け、順次空いた棚を充当してゆく取組。さらにあるべき棚の内容を、常にアップデートしながら、所定の棚には所定の技術が、いつも完全に詰まっている状態を目指す一連の取組を指します。
言い換えると、技術の棚卸では、次の四つフェーズでの取組が必要になります。一つ目は、“自分たちが保有すべき技術の棚”の確定です。二つ目はそれぞれの確定された棚に、現時点で自分たちが保有している技術が、どの様な状態にあるかを把握することです。さらに三つ目は、確定していない技術に対して、その技術をどの段階でどの様に仕込んで行くのかの計画を立てることです。そして最後に、技術の仕込み状況の進捗管理も含め、常に技術の棚の状況が、どの様な状態になっているかのアップデートを、続けることです。