<前略>
弊社ではこの10年、いや20年、ベテランから若手設計者への技術継承がうまく行かず、様々な問題が生じております。この問題を解消するのにはどのような対策を行えばよいのでしょうか。
<後略>
実は多くの製造業で、技術継承が巧くいっていない事実があります。
一般的にその理由には、色々な要素があるのですが、古くはオイルショックの時代の採用減による、世代断絶。若者の理工系離れ、製造業離れによる設計者予備軍の資質低下。バブル期の急激な事業展開に伴う人材の散逸。業務の細分化によるチャンスの与えられない設計者など多くの原因があります。そしてその様な状況下で推進された2次元CAD導入も、次のような良き文化を潰させた原因の一つになっております。
かつて製図板で設計が行われていた当時、若手設計者が製図板に向かっていると、同じ設計チームの先輩設計者はもとより、通りがかりの先輩設計者達が、その作業を後ろから覗いてアドバイスを行ったり、蘊蓄をかたむけたり、けなしたりして自然発生的にミニDR(ミニ設計検討会)が行われる文化が、多くの製造業で見られました。この文化は技術継承という側面から見たときに、極めて有意義な伝承行為でした。
ところが、2次元CADが導入され、それを使う若手設計者が、ガラス張りの金魚鉢のなかに置かれたCAD端末で設計を行うようになると、直属の上司以外の先輩達が、わざわざその金魚鉢に入って行き、その設計内容を覗いてのミニDR(ミニ設計検討会)を行わなくなってしまったのです。
その後CADは3次元に、端末はパソコンに変わり、それぞれの席の脇に置かれるようになったのですが、21インチ画面ではよっぽど物好きで無い限り、直接関係する先輩設計者以外は若手設計者の設計を覗かなくなってしまったのです。
このような状況に陥っている製造業では、自発的且つ自然に技術継承などできるわけが無く、自然に技術継承が行われる文化が途絶えてしまったわけです。
そうなると部長クラスを筆頭に、自己が持つノウハウや勘所を、部下の能力スキルに合わせ伝えようする意識を持つか否かが、的確な技術継承を可能とする極めて重要なポイントになってくるわけです。技は盗んで覚えろ、自分で学んで育ての姿勢では若手設計者達が育つ訳が無いし、育って来ない若手設計者達に的確な技術継承など、どだい無理な話と言えるでしょう。
今の若い人たちは、多くの製造業で見受けられる、毎日の帰宅時間が10時過ぎを常に要求され続けているような状況に陥っていたら、自助努力しようとする意識など起こる訳もありません。若い設計者達を育てるポイントは、的確な技術継承に尽きます。
そしてこの為には、ノウハウや勘所を部下の能力スキルに合わせ伝えようとする意識を、部長クラスを筆頭に、持つ事が重要になるわけです。
併せて、より質の高い設計無精を構築してゆくためには、設計部門を構成する全てのメンバーが持つ技術を形式知化して、全員で共有できることも重要になってきます。
そしてこれらの取組に私が提唱しております「設計思考展開」は、極めて重要な役割を果たします。