<前略>
先週の貴ホームページに掲載された「国内に開発・生産準備機能を集約させてグローバル化で生ずる人材不足解消を」に関連してご教示頂きたく問い合わせをさせて頂きました。
弊社では、先生が述べておられます理由や論点で、国内に開発拠点を集約すべきと言う意見と、マーケットや生産拠点に密着させるべきと言う両論が拮抗しており、現時点ではどっち付かずな中途半端な開発機能形態にあります。
このため、先生が問題点としてフォーカスされておられますように、中堅設計者の不足が常態化して、設計品質の低下を引き起こしております。
あるコンサルティング会社のレポートによると「開発機能のグローバル化に伴い、必要な開発拠点にタイムリーに開発パワーを投下するためには、開発過程で発生する様々な成果物(製品企画構想書、設計企画書、基本設計書など)をBOMに紐付けしてあらゆるサイトで共有できる仕組みを確立する必要があり、この膨大なメタデータの整理が急務である」と述べております(あくまでも開発拠点を海外に分散することを前提にし論点での提唱ですが)。
海外分散化を唱える方々が言う設計品質低下をさせない論拠は、「このコンサル会社が言うような仕組みが充実されていないためであり、PDMシステムを導入して10年近く経つのに、PDM推進チームは何をやっているのか?」とのことです。
しかしこのシステムを完璧に仕上げたとしても、海外開発拠点でこれら情報を使いこなして、本当に質の高い製品開発が叶うかと、絶対に流失して欲しくない様々な設計ノウハウが本当に漏れないかの疑問が生じます。
具体的な弊社の事情は後日ご来社頂き、具体的な資料を説明させて頂いたうえで、ご教示を賜りたいと思いますが、一般論として弊社が取り組むべき方向性は、開発拠点の海外分散化ですか、それとも国内一極集中化ですか。またいずれかの場合にどのような点に注意したらよろしいでしょうか。
<後略>
選択肢は、現地化を除いた全ての開発拠点は、国内の一カ所に集中させるべきと考えます。
貴社の商品特性から考えると、海外の様々な顧客が求める、それぞれの顧客対応をした製品を開発するために、少なくとも各現地に顧客と直接接する設計者を、常駐させる必要性は否定致しませんし、当然のことだと思います。
しかしそれらの設計者に現地で求められる設計行為は、貴社製品の本質的な機能を左右するような設計行為ではなく、取り付けブラケットやポートの位置を、顧客側の製品に合わせて編集設計を行う程度の極めてランクの低い設計行為だけの筈です。ある意味ルーチンワーク設計に近い設計行為です。
そうすると某コンサル会社が提唱しているような、BOMで全て紐付けされた設計情報を活用しなくても、編集設計に必要な範囲でのハウツー式の設計マニュアルを用意するだけで、充分設計品質を確保できるはずです。
私が関わる同様なケースでは、設計ノウハウの全てをブラックボックスにした、3次元CADを用いた完全自動設計システムで、現地対応を行っているケースもあります。
取り付けブラケットやポートの位置編集程度なら、各シリーズ毎の自動システムは、一週間もあれば構築できる状態にあります(当然その雛形を作るにあたっては、一年以上の期間を費やしましたが)。このような仕組みを作れば、設計ノウハウの流失など起こりえない事になります。
仮に某コンサル会社が言うような、BOMに全ての設計情報を紐付して、全ての海外開発拠点に公開をしたとしても、私の経験では、巧くいった例を診たことがありません。
何故なら闇雲に、思い思いの価値観やフォームで作られた設計資料では、対象製品に織り込まれた、設計思想や設計の意図を読み取ることが極めて困難なためです。成果物としての、計画図や部品図でも同じです。
この某コンサル会社が期待しているレベルにまで、固有技術や継承技術を形式知化するためには、私が提唱しております「設計思考展開」等の方法を用いないと無理だと考えます。
一方情報流出という意味では、極めて危険な状態に陥ります。設計意図や思想は判らなくても、図面さえあればコピー商品を作れてしまうからです。また優秀な流失先設計者なら、設計資料や図面などから設計ノウハウを読み取られる可能性もありますので、この仕組みでは極めて危険性が高いといえるでしょう。