<前略>
弊社では、この20年来進んだ生産拠点や開発拠点のグローバル化の結果、特に設計人材(頭数ではなく一定の仕事をこなせる)が大幅に不足する問題に直面しております。
原因は、生産拠点に密着させて開発拠点を置くと言う、弊社の伝統的なポリシーを余り深く考えずに続けた結果、海外開発拠点が増えるにつれて、設計人材の希薄化が進み、各所で開発遅延や品質問題多発などの不具合を生ずる用になってしまいました。
我々としてもこれまで手をこまねいていたわけではなく、当然この問題が生ずることを予測して、中途採用や現地採用などでの人員強化は図って来ました。
また社内専用回線を用いての遠隔地DR等で、国内開発センターと各出先開発部隊との技術共有化を行うと共に、出先が行った開発設計内容に対する開発センターメンバーによる検証などを行い、問題発生を極力抑えるような取組も行って参りました。
しかし技術格差や言語の問題などの影響で、意思伝達がどうしてもうまく行かず、結果、開発遅延や品質問題多発などを生じさせております。
様々な製造業を指導されておられる先生でしたら同様な問題を抱えた製造業の五指ドナされているのではないかと思い、何か良い方法はないかと問い合わせをさせて頂いた次第です。
<後略>
結論は、大がかりな手を打つ必要はありますが簡単に対処できます。生活環境や教育環境が良い(従業員及びその家族が快適に暮らせる)地方都市近郊(貴社では**工場などが最適地と思える)に、商品企画・製品開発・生産準備を担う機能を集約させて、99.7%での品質及び安定性で量産が可能なレベルにまで仕上げた後、生産設備ごと全世界の生産拠点向けて送り出す仕組みに変えることです。
即ち我が国を知恵・頭脳・技・情報の発信元とした、世界の隅々までをそのマーケットとするワールドワイド企業への変身です。
生産拠点は、扱う商品の特性により、マーケットに密着した現地生産型から、日本国内などでの一極集中型まで、臨機応変での対応すれば良いはずです。
そして全てを統括する本社機能と、開発の中枢、さらにはマザー工場や金型部門など、物づくりの中枢を国内に置き、人材の効率的な運用、ノウハウ・情報・技術の集中による効率化を図る形態です。
具体的には、現地にはマーケッティング要員と若手設計者(日本から派遣した現地化対応及び量産維持要員)及び現地採用設計者の多くを残して、開発の主力となる中堅設計者は全て国内に戻すと共に、有望で信頼度の高い現地採用者は家族ごと日本移住を勧めます。
そして全ての開発案件は、その量産立上げまでを全て国内で行い、安定量産が確信できたときに、始めて生産を現地に移管する流れを取ります。
この際課題となるマーケットインの問題は、現地にマーケッティング要員と若手設計者(日本から派遣した現地化対応及び量産維持要員)及び現地採用設計者を残す事で、遠隔地DRの仕組みを有効に使ってやれば、充分に維持できます。
特に私が提唱しているFS(フィジビリティースタディー)を、その開発着手時点で、現地スタッフも交えて、綿密に行ってやれば、マーケットインは維持できます。
また現地部品の採用などは、現地に残した若手設計者を窓口に、現地サプライヤーとやり合えばよいわけで、主力設計者達を国内に引き上げても余り支障はでないはずです。
一方、国内に集約された中堅設計者や現地採用の有望設計者達の設計品質は、これも私がかねがね提唱しているミニDRを頻繁に行うことで、ベテランや他の中堅勢の厳しいチェックを受けると共に、彼らが持つ様々な知見を設計内容に織り込むことで、現地で孤独に開発を行っていたときに比べ、格段に高い設計品質が確保できます。
当然、ベテラン勢が持つ固有技術、継承技術を、設計思考展開を用いて体系立てた形式知化する取組みを、絶え間なく行ってゆく事が前提です。
また国内に重要な開発機能を集約することで、常に懸念される、重大な機密漏洩の問題は、大幅に改善できる効果をもたらします。
尚貴社にはもしかするといるかもしれない、技術の本質を知らない経営者の中には、開発の現地化を、固定費の削減(国内設計要員の削減)と捉える人がいます。このような価値観で開発の現地化・技術の移転を行っていくと、それぞれの製造業が持つ固有技術や継承技術は、たちまち霧散・流出し、自社の存続さえ危うくする結果に陥ることになりますので、しっかりこれらの経営者達に釘を刺すべきです。