CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所


問題先送りの設計体質(作って、壊して、考えよう)とは、その対策は




■質問■

<前略>

お恥ずかしい話なのですが、弊社の製品開発はとにかく形(試作)を作り、それを試験にかけて問題が出ると都度対応で対策を加えてゆく方法で、開発期間の遅延や、確認不十分による量産後の品質問題などを頻繁に引き起こしております。

この開発方法は私が入社した30年以上前から伝統的に行われているやり方で、大多数の人間はこれが異常な状況であることを全く認識しておりませんでした。

しかし開発期間の遅延や品質問題の頻発が最近とみに急増するにあたって、何か根本的な対策を講じなくては拙いという話になり、インターネットなどを通じて世の中の状況を調べていたところ貴社のホームページに行き当たりました。

弊社の状況は貴社のホームページで諸悪の根元のように語られている“問題先送りの設計体質(作って、壊して、考えよう)”そのものだと思います。

そこでお尋ねしたいのですが、弊社の様なケースではどのような対策を打ってゆけばよいのでしょうか。

<後略>

■回答■

フロントローディング設計(開発)態勢に変革してゆくことです。

問題先送りの設計体質、すなわち設計対象物を“作って”、“壊して”、“考えよう”の体質は、必ずしも貴社固有の問題ではありません。しかし少なくとも勝ち組企業の中では、大幅に少なくなって来た体質です。かつては、家電製品や情報機器若しくは自動車規模製品までの主な商品開発スタイルは、この貴社同様の“作って”、“壊して”、“考えよう”が主流でした。

粗々の設計構想を、とにかく試作品(試作部品)として作り、従来機種に取り付けて試して見る原理設計(原理検討)等は、その典型的なアプローチであったと思います。

試作コストがそれほど必要とされない(大型機械や重機など比べて)これらの業種では、“当たるか当たらないのか判らない解析的アプローチ”や、膨大な時間と手間が掛かる品質工学的アプローチで、設計の初期段階で無駄な時間を費やすなど、とても許され無かった為だと思います。

また迅速な試作部品を即座に作り出す、熟練した試作工や協力会社がこの様なアプローチを、底から支えておりました。

しかし時代は変わり、“当たるか当たらないのか判らない解析的アプローチ”は、コンピュータ技術の進化に連動するように“使える物”に急激に育って参りました。巧く使ってやると、実際に物を作る以前に、実用試験の代りがこれらのツールを用いて可能になりました。

また3次元CADに代表されるIT設計支援ツールは、実際に物を作らなくてもあたかも実際の物があるように、その製品形状や部品構成をコンピュータ上に描き出します。

このため形状的な検討や、組み立て性、整備性検討作業を、極めて容易に行えるようになりました。

一方、かつては“作って”、“壊して”、“考えよう”の文化を支えた、迅速な試作部品を作り出す熟練した試作工や協力会社が、バブル崩壊の以降に急激な減少してしまいました。またかつては板金や機械加工品が主流であった、これらの業種の製品を構成する部品は、その多くが樹脂の成形部品に取って代わられたため、その部品試作アプローチも板金や機械加工品時代とは大きく変えざるを得ないことになり、“作って”、“壊して”、“考えよう”のアプローチを、極めて行いづらい環境となっております。

一方最近着目をされてきた3Dプリンターは、CADで構想設計さえ出来れば、短期間且つ容易に試作が可能になり、シミュレーションなどでは難しい品質問題への高度なアプローチも、実物の類似品を持って確認できるようになってきました。このためフロントローディング設計アプローチの中に“作って”、“壊して”、“考えよう”ではないが、問題を先送りしない形での物をベースにした検証アプローチも考えられるようになっており、さらに確度の高いフロントローディング設計が可能となって参りました。

この様な時代の流れを受け多くの勝ち組製造業は、私共が“フロントローディング設計”と名付けた、前倒しで設計検討を十分行う商品開発体制、すなわちよく言われる“仮想試作”“仮想試験”を十分に設計の初期段階で行い、十分な問題探索とその対策を行った設計体制へと、2000年以降次々と切り替えて頂いております。

貴社でもこのような方向にシフトされることをお薦めいたします。

尚フロントローディング設計に関しては、本HP各所で詳しく解説してありますので、それらを参照下さい。