先日、某製造業にお邪魔して、サービスコンサルティングを行って来たので、その一部を紹介する。一部の内容を、本ホームページに紹介しても良いという前提でのサービスコンサルティングである。
訪問した製造業は、生産財を製造している、割合歴史の新しい中堅製造業である。
ほぼ1日がかりで設計部門のマネージャを中心に意見交換をしたのだが、その中で目立った問題点に“若手設計者の成長の遅さ”の問題があった。
マネージャ達は「今の若い者は・・」と言う感じで愚痴とも取れる様々な事象を紹介してくれたのだが、それぞれに対しての私からの問いかけに対しての、彼らからの答えから判断した私からの「その原因は殆ど皆さんにあるのでは?」と言う投げかけに対して、一同お互い顔を見合わす状態に陥った。具体的には、部下を育てようとする意識が極めて低く、自分達が若い頃先輩達にされたよう、指示を丸投げ状態で与え、細かい面倒を見切れていない状況が見て取れた。
特に部長クラスを筆頭に、ノウハウや勘所を部下の能力やスキルに合わせて伝えようとする意識が欠如していると診えた。
技は盗んで覚えろ、自分で学んで育ての姿勢では、効率よく若手が育つ訳が無く、ましてや、指示をよく説明もせず与え、放っておいて後は叱るだけでは育つ訳が無い。
しかもこの設計部署では、残業時間が100時間以上を常とするような状況にあるらしい。これでは自助努力しようとする意識も削がれる。この状態が異常であることは既におおかた気づいている様だが、手をこまねいて根本的な対策を打たなければ何時までも同じ状態が続く。
「部下が育っていない」と嘆くまえに、「自分たちで育てようとしていない若い人たちが育つわけがない」「嘆く前に自分で育てろ!」と私からは指摘をした。
若い設計者達を育てるポイントは、的確な技術継承に尽きる。ここが巧くいっていないため、全てが空回りして、悪魔のスパイラルに陥っている状況と診た。しかしこの技術継承の断絶状況の問題はは、必ずしもこの設計部署だけの問題ではない。実は多くの製造業で、技術継承が巧くいっていない事実がある。
一般的にその理由には色々な要素がある。古くはオイルショックの時代の採用減による、世代断絶。若者の理工系離れ製造業離れによる設計者予備軍の資質低下。バブル期急激な事業展開に伴う人材の散逸。業務の細分化によるチャンスの与えられない設計者など多くの原因がある。そしてその中で2次元CAD導入も、次のような良き文化を潰えさせた原因の一つになっている。
かつて製図板で設計が行われていた当時、若手設計者が製図板に向かっていると、同じ設計チームの先輩設計者はもとより、通りがかりの先輩設計者達が、その作業を後ろから覗いてアドバイスを行ったり、蘊蓄をかたむけたり、けなしたりして自然発生的にミニDR(ミニ設計検討会)が行われる文化が多くの製造業で見られた。この文化は技術継承という側面から見たとき極めて有意義な伝承行為であった。
ところが、2次元CADが導入され、それを使う若手設計者がガラス張りの金魚鉢のなかに置かれたCAD端末で設計を行うようになると、直属の上司以外の先輩達が、わざわざその金魚鉢に入って行き、その設計内容を覗いてのミニDR(ミニ設計検討会)を行わなくなってしまった。その後、端末はそれぞれの席の脇に置かれるようになったが、CAD用パソコンの画面など、よっぽど物好きで無い限り、直接関係する先輩設計者以外は若手設計者の設計を覗かなくなってしまったのである。
またこの設計部署の技術継承断絶には、他の製造業では余り無い特殊な原因もあるようであった。ディスカッションの中から聞き出した「ノウハウや継承技術を持った設計者がマネージャになり現役から退いてしまう(設計部門以外に)」「人事制度の制約で、サラリーマンとしてのポジションを上げるためには、課長、部長とラインのマネージャに就かなければならない」などの発言だ。
これでは昇進してゆく本人は良いかもしれないが、残された設計部署には代わりの人間を促成栽培で育てるしかなく、そこのところが巧く行っていない結果が、上記した状況を生み出す元凶とも言える。
同じような人事制度を取っている製造業は、要注意である。