先週その一段を紹介したが、サラリーマン時代に接触があった某製造業にお邪魔して、サービスコンサルティングを行って来たので、その一部を紹介する。一部の内容を、本ホームページに紹介しても良いという前提でのサービスコンサルティングである。
まず対象の製造業は、大型産業財(機械)を製造している、戦前からある大手企業である。
訪問した製造業の設計部隊での設計アプローチは、驚くことに「科学的に事象を把握して手当を行おうとする意識が欠乏」した“でたらめ設計アプローチ”がまかり通っていたようだ。
技術者としての自負があるなら、問題解決に際して、現象把握の作業を科学的に行うべきであるのだが、闇雲の問題解決アプローチの痕跡を、簡単なヒアリングにもかかわらず、各所で見受けた。具体的には、油圧脈動音への対策アプローチ、機械周囲の騒音対策アプローチ、熱による変形&加工精度不具合対策アプローチ、フレーム部部の疲労破壊対策アプローチなど、何れの場合にも科学的に状況を把握して、論理的な根拠を持った対策アプローチを行っているとは思えない説明内容であった。
例えば騒音の追い込みに際しては、かつて同社技術研究所に依頼をして行った、同種の問題解決アプローチのレポートを倣う形で、対策アプローチを行っているのだが、そのレポートの意味を充分に理解できているとはとても思えない説明が各所であった。
一例として、機械周囲の騒音対策アプローチでは、機械周囲(定点)で計測した騒音データの周波数分析結果から、その騒音発生源が、駆動系なのか油圧系からなのか等の振り分けを、技術研究所レポートに従う形で行っていた。しかしそのレポートの本質部分を理解できていないようで、対策すべき音源の優先度をどのようにつけ、具体的にどのような手段を講じて対策を行ってゆくかという段階の話になると、突然非科学的な闇雲の追い込みを行っていた。
実際の音を実機の様々な部位から測り、その音源を探索しようという発想が無い。音響工学の知識を持って、少し工夫して、世の中の情報を集めれば、それほど難しくないアプローチだと思うのだが、誰もこれまでやってこなかった様だ。そして闇雲に囲い込みを行っていたようだ。
これでは本人達は科学的な問題可決アプローチを行っていると思っていたようだが、単あるでたらめアプローチにしかすぎない。
同様な話は、熱の問題でもいえた。まず発熱源の特性の把握から、熱伝導、熱伝達、風の流れなどをしっかり追わずして、山勘と思えるアプローチを行っていた。各発熱機器類表面の温度分布を把握していない、機械各部の温度分布を明確に把握していない等、闇夜で鉄砲を打つような対策作業に終始していた。
40年前私が現役の設定者だった頃でさえ、100チャンネルを超える熱電対を機械各所に張り替えながら機械全体の温度分布を確認したものだ。今ではサーモグラフィーなど、便利な計測装置が山ほどあるのになぜ使わないかあきれた。しかも他部署ではサーモグラフィー保有しているらし。
このような状況故、当然のことだが、「部品図に落とす前(計画図・検討図段階で)機械の各部に働く物理現象を予測して、先手を打って対応しようとする姿勢の欠如」を見受けた。とにかく試作品を作って試作品で何が起こるか解らないが、問題が起きたら直せばよいの姿勢だ。これが対象事業部隊における商品開発の当たり前の文化になっているようだった。
さらに対象になる機械は、複雑な、目に見えない、解明できない機械挙動を起こす機械である。このような機械を開発しているのだから、その設計ツールとして駆使されていて当然の「統計手法に基づいたデータ整理・分析や実験アプローチ」が出来ていないことには、さらに大きな驚きを持った。
実験計画法や各種統計手法の名前さえ解らない設計者が少なからず存在し、ヒアリングを行った各種問題解決アプローチで、これら手法が用いられた形跡は皆無であった。これでは、場当たり的な闇雲な対策アプローチを行っているわけだと、妙な納得をさせられた。
説明では対象事業部隊では、昔から統計手法の活用がなされていないらしいが、はなはだ疑問だ。なぜなら、このような手法を用いず、闇雲な設計アプローチで、きわめて高度な技術を持った競合メーカが跋扈する、厳しい市場競争の中を、弾き出されることもなく、昔から互角の戦いができてきた理由が見つからない。それとも、かつては、感と経験と度胸に優れた、超スーパーエンジニアが大勢闊歩していたということか。