CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

しっかりした設計品質を確保するためには、設計者自身が自分が担当する機械を熟知するところから始まる!




はじめに

先週、ある業種向けの専用機械をその主力商品とする製造業に、単発コンサルテーションを行ってきたので、その問題点の概要を紹介する。

3月末に紹介した製造業も大きな問題を沢山抱えていたが、本製造業にも設計品質を根幹から揺るがす問題点を把握したので、この部分に焦点を当て紹介する。

会員諸氏が所属する企業で、このような問題を抱えているところは、まさか無いと思うが、意外に、歴史の長く限られた業種だけを顧客としてきた製造業では、程度の差こそあれ、本例のような問題を抱えていることがあるので、改めて自社の状況を見直されることをお薦めする。

尚以前も述べたが、通常私が行ったコンサルテーション内容を、このように公表することは、絶対に無い。しかし本件は、本ホームページを始め雑誌や講演などを含めて、その内容を公表しても良いという条件で、廉価な料金で引き受けた話なので、心おきなく皆様に紹介させて頂く。当然何処の企業かは、絶対に判らない内容にすることが条件だが。


当日は、他にも問題が沢山あったのだろうが、時間的な制約もあり、事前の打ち合わせで、設計品質に的を絞っての問題点把握と、対処策提案に限ってのコンサルであった。

まずは、直近で開発された4機種の設計内容をトレースした。担当した設計者や責任者に対して、その開発着手時点での仕様決めから、構想設計、詳細設計、試作試験、量産立上げ、商品出荷後に至るまでの、顛末を実機や図面などを用いながら説明頂いた。私が各所で行う現状診断の一部と同じ要領だ。

まず最初に気付いたのは、設計者達の質の低さであった。まず機械の原理原則が念頭にないのである。要するに機械の原理原則を念頭に置いた設計が出来ていない。また私から発せられる様々な視点での質問に対して、4ケースとも、まともに論理立てて説明が出来なかったのである。

さらに、耐久性を考慮しての設計が全く行われておらず、使い始めて数ヶ月後、1年後、2年後に平気で機械が壊れている状況であった。元々疲労強度の考え方も良く理解していないし、溶接などの機械加工の仕組みをはっきり言って知らない設計者が、趣味の世界で設計を行っていたとしか見えないお粗末な状況であった。

さらにこのような状況だから当然と言えるが、加工ミス、組立ミスを起こさないようなもの作りを配慮した設計もなされていなかった。

それよりも大きな問題と感じたのは、全員ではないが、自分たちの商品が投入される、製品を利用している現場を、どうも設計者達はよく分かっていないようだ。本人達はその様なことはないと言うのだが、同席した営業マンや企画マンに言わせれば、一部の設計者は全くダメだそうであった。

さらにこの設計者達は、自分たちが設計している機械を、巧く操作できるかというと、全く駄目なようである。例えば、客先に出向きトラブル対応を行った後、客先のオペレータに代わって機械を操作させて貰えるかと言えば、絶対にやらせて貰えないレベルだそうである(営業マンや企画マン言)。

私の設計者としての経験や、これまで各所の設計現場を見てきた経験から、実際に自分の作っている機械を、きちんと使えるような設計者でないと、まともな設計が出来ないはずだと考えている。

なぜこのような状況に陥っているかを追っかけて診たところ、次々と製品を投入しているにもかかわらず、実用試験を行う時間がほとんど取れていない。要するに設計者自身が自分たちが設計した機械を、気兼ねなく思いっきり操作できる機会が殆ど与えられていないようであった。

結論的には、機械操作も含めたイロハからの設計者再教育と、私が各所で展開している、フィジビリティースタディーやフロントローディング設計を採用した、商品開発態勢の見直しを提案した。