CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

フロントローディング設計態勢が確立できないとCAEの投資対効果は得られないのか(5月16日の続き)





■質問■

<前略>

早速の御回答ありがとうございました。先生のご経験では、フロントローディング設計態勢を確立できないと、十分なCAEの導入効果は、得られないと言うことでしょうか。

しかし我々の感覚では、CAEを導入したことにより、それなりの設計技術の向上が見られ、科学的な設計アプローチが行われるようになったと思います。そして我々の目論見としては、この部分を定量化できないかと考えておりました。

しかし、これだけでは、その投資に対して十分見合うだけの効果が得られないのが、一般的と言うことでのご回答と理解致しました。

とは言っても、弊社の現状ではとてもフロントローディング設計態勢には至れておらず、その状態での効果を何とか算出して、上司からの要求に何とか応えなければなりません。この辺りを勘案頂きさらなるアドバイスを賜れると幸いです。

<後略>

■回答■

ご理解の通りです。

私の20年以上に渡る、様々な製造業への支援の経験から、“フロントローディング設計態勢が確立できないと、目に見えるCAEの投資対効果は得られない”と、理解しております。

さらには、稼げる商品開発態勢が確立できないと、フロントローディング設計態勢確立だけでは、決定的な効果は得づらいと考えます。

さて、皆さんの本部長が発せられた、「君たちのあげてきた数字は、あくまでも希望的な観測値であり、CAEが我が社の設計力を向上させ、いくら会社として無駄を省け、またプラス効果をどれだけ発揮できたかが、全く読み取れない数字ではないか!」「設計者達の利用頻度が高いと言っても、本当に役に立つシミュレーションを設計者達は行っているのか?」「義務的に要求されているから、ただ漫然とCAEを使っているのではないか?」と言うお言葉は、皆さんの現状を、全てお見通しのお言葉ではないのでしょうか?

皆さんが、効果をアピールできる具体的な定量値を、はじき出せないことを分かっていて、皆さんに、これまでの取組の失敗を気付かせるために、発せられているお言葉ではないのでしょうか?

漠然とした「それなりの設計技術の向上が見られ、科学的な設計アプローチが行われるようになったと思います」の状況では、幾ら私でも、既に皆さんが行った、“強度、振動、熱などCAEで予測可能な挙動に起因する、設計不具合件数の推移を調べ、・・・”のアプローチしか、効果の算出手段を思いつきません。

しかも皆さんは、設計工数推移の正確な把握や、開発費の正確な明細把握を行えていないと診ました(前回ご質問の「残念ながら各々の不具合に費やした損失分が明確に拾い出せなかったため」)。これでは、効果を定量的に算出することなど、不可能だと思います。

恐らく皆さんは、投資対効果など念頭になく、世の中の動向や、販社営業マンの口車に流されて、“設計者向けCAE”の導入に走ったのではないのでしょうか?

だから、投資対効果をはじき出す観測値の把握や記録を、思いつかなかったのではないでしょうか?

だから、今になって正確な観測値を把握しようとしても、何も残っていない状況に陥っているのではないでしょうか?

そして私の推察ですが、恐らくこれらの状況を全てお見通しの上で、皆さんの本部長は、皆さんに、CAE導入の定量的効果を求めているのではないでしょうか?

もし私の推察が的を射ているのであれば、皆さんは、ありもしない数字を拾い出す徒労を行うのではなく、現状何が問題で、さらに10年を遡って、皆さんの行ってきた取組の何が悪くて、現状の問題点が生じているのかを、冷静に洗い出し、その対策案も示して、本部長に報告すべきだと思います。

恐らく、それが本部長の求めている答えだと思います。