<前略>
弊社では以前からデザインレビューを行っているのですが、その成果に疑問を持たれております。
特にここ数年の重大開発案件が、ことごとく思わしい成果を得られず、「技術の奴らはいったい何をしているのだ!」と我々技術部門は針のむしろに座らされている状況です。
その中でも、デザインレビューの信頼度に強く疑念をもたれ、一部の役員の間では、「技術系の奴らが自己満足と責任逃れのために行うセレモニーだろう」とにべもなく切り捨てられている始末です。
そこで技術トップより特命を受け、私のチームがデザインレビューの質及び信頼性の向上の方策を練っております。しかし長年ぬるま湯につかってのセレモニー化したデザインレビューを、根本的に立て直す難しさに、一同苦悩しております。
ここ数ヶ月メンバーで手分けをして、様々な文献や、ウエブ情報からデザインレビューに関する情報を拾い出し、弊社の進むべき道を検討して参りました。
そしてその結果、デザインレビューを単なるセレモニーで終わらせないために、テーマ発表の前に、そのテーマに対して、何らかのストレステスト的なスタディを行わせて、その結果も含めて報告させる方法が現実的ではないだろうかと言う結論に至りました。
そして先生が提唱されている設計思考展開を活用したフィジビリティースタディが使えないかお問い合わせさせて頂いた次第です。
まず我々の狙いは的外れではありませんか。またフィジビリティースタディを用いて、デザインレビューの質及び信頼性の向上に結びつけておられる製造業はありますでしょうか。ある場合には、よろしければその名前もお教え頂けますと幸いです。
<後略>
私が提唱している“FS(フィジビリティースタディ)” の目的は、“旬で、よく売れ、高収益を上げる事が出来る商品開発”を、実現するための取組です。
一般的な製造業において、その商品開発が求められる必須要件は、まずよく売れる商品を生み出すための、商品仕様の決定作業が徹底して行われることです。
すなわち、商品企画段階で、3年後5年後のマーケットニーズに外れのない商品性と品質を持ち、しっかり利益が出せる製造原価が実現でき、確実に所定の開発期間(なるべく短く)で開発が実現できる技術要件の範囲に、その開発仕様は追い込まれている必要があります。
幾ら顧客受けし、高性能な商品(製品)を開発しても、その工場出荷原価が利益を出せなければ、企業活動は成り立ちません。ましてや、幾ら商品仕様が素晴らしく(自分たちの手前みそでは、その様に思っても)、自分たちが持っている技術力や技術の蓄積では、その商品仕様が適正期間で、且つ利益の出せる原価で、開発が実現できなかったら、その開発仕様は単なる絵に描いた餅で終わってしまいます。
多くの製造業での商品開発における問題点は、「既存技術だけの手堅い商品仕様では、市場競争力がない」と言う錦の御旗の下、“仕込みがされていない技術”を無理矢理要求し、結局はその技術開発が巧く行かず、開発期間が大幅に遅延して、市場投入時期を逸してしまう例。
販路拡大と言う錦の御旗の下、製造原価を無視した低い販売価格と、高スペック仕様を要求し、商品化にはこぎ着けたものの、製品一台あたりに数枚の一万円札を貼り付けて(要するに赤字で)製品出荷を続ける嵌めに陥ってしまっている例 など巧くいっていないケースを各所で診て参りました。
そしてこの問題点を解消して、理想的な商品開発態勢を確立するために、私はフィジビリティースタディを提唱している次第です。
と言うことで、最初のご質問「まず我々の狙いは的外れではありませんか」は、的外れではありません。
なお、私の提唱するフィジビリティースタディでは、以下のスタディをそれぞれの製造業が持つ全ての英知を結集して、表1に列記する項目を商品開発のスタート時点で、徹底的に行うことを、その基本としております。
二番目のご質問、「またフィジビリティースタディを用いて、デザインレビューの質及び信頼性の向上に結びつけておられる製造業はありますでしょうか」は、沢山ございます。少なくとも私が開業以来手がけてきた多くの製造業で、質が高く効率の良い新商品開発態勢を実現できております。中には私の提案や指導内容を、思うように受け入れて頂けず、若しくは結果を焦りすぎて、思わしい成果の出せなかった製造業も僅かですがありましたが。
3番目のご質問「よろしければその名前もお教え頂けますと幸いです」は、申し訳ありませんが勘弁下さい。技術士法に抵触致しますので。
尚余談ですが、“ストレステスト”という言葉は、商品開発初期段階でのスタディには馴染まないと思います。開発が始まった後の試作品に対する品質評価という意味では、コンピュータシミュレーションや加速試験などの本当の意味でのストレステストは、当然必須ですが。