<前略>
先生が発信されている一連の御持論を拝読して問い合わせさせて頂きます。
「対象機械の物理メカニズムが忠実に再現出来ていない解析モデルでは、的確な予測設計は出来ない!」おっしゃる通りですが、問題は、対象機械の物理メカニズムの忠実な再現です。
弊社では、CAEツールを導入してから既に20年を超えております。そして今に至るまで意識の高い設計者達を中心にその活用に取り組んで参りました。そしてその中では、御持論に反する様な解析モデルを使ってしまったため、重大な失敗をやらかした経験も数多くあります。
そのような経験を踏まえて、報告されてくるCAE解析結果の、解析モデルを構成している拘束・荷重などのメカニズムや特性値の妥当性を、徹底的に検証することで、上記の様な失敗を防止して参りました。
しかしこの事後チェック方式だと、先生が提唱されている「フロントローディング設計」にはならず、チェックの結果再設計と言うことになれば、まさに先生が忌み嫌う“てもどり”“あともどり”になってしまうわけです。それでも5年ほど前までは、やり直しとされる件数は少なく、効率は良くないとわかりながらも、このような検証方式を続けて参りました。
ところが最近、やり直しと判断される比率が急激に増え、検証にかけられる半分を超える悪状況に陥ってしまいました。
特に先例のないメカニズムにもかかわらず、極めて安易な思考で、これと言った検証も行わず、解析モデルへ落とし込んでいる例が頻発しております。さらに始末が悪いのは、過去にモデルの妥当性が検証されているメカニズムにも拘わらず、何故かその先例を踏まず、間違った解析結果を報告していくる例も頻発する有様です。
その原因は、解析モデルを考える中心が、若手設計者達に移ったことで、彼らを的確に育成できてこなかった我々に、一義的には、その責任はあると思われますが、彼らのメカニズムを読み解く洞察力にも大きな問題があると思われます。
様々な企業をご指導されておられる先生なら、我々のような問題を抱えるご指導先もお持ちだと思いますが、このような場合に先生は、どのような手法や手段を用いて問題を解決されておられるのでしょうか。
<後略>
貴社のような製造業に沢山遭遇しております。
そしてその経験や頂きました情報から察するに、貴社では開発対象となる機械のメカニズム、そのメカニズムを構成する原理原則、さらにその機械に働く様々な物理現象、さらにその結果生ずる物理的な挙動等を的確に把握し、継承・共有する文化が無いのではありませんか。
恐らく**さんの時代には、質の高い設計者の方々が各々で、対象機械のメカニズムや原理原則を的確に把握したうえで設計を進め、最後の確認という意味で、結果を検証し合う文化が定着したのだと思います。しかし、組織としてこれらを的確に把握し、継承・共有する文化は無かったと診ます。
一方設計者は(特に構想設計段階を担う設計者達は)、その設計作業を行うにあたり、自分が担当する機械のメカニズムを完全に熟知し、それが製品化される過程や、使われる段階で起こるであろう問題点を漏れることなく予測し、それを洗いざらい潰し込んだ上で、設計図面を作りあげるのがその役割のはずです。
と言うことは、“まともな設計者”なら、メカニズムの未把握や誤りなどは生ずるわけは無いことになります。しかし貴社に限らず、現状の設計現場における設計者の質の低下は、目を覆う物があります。ご質問もこの部分の解消、底上げを意図した物としてお答えを致します。
結論としては、私がかねがね提唱しております“設計思考展開”手法を導入頂くことです。そしてその具体的な適用例は、以下を参照下さい。
尚本例は、品質トラブル問題に設計思考展開手法を適用した例ですが、対象機械のメカニズム把握作業は、同じ要領になります。出来るだけ多くの設計者が集まり、その知恵や知見を出し合うと、より効率の良い、質の高い結果を残せるでしょう。