CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

ルールの整いすぎと硬直化した組織は、考えない設計者を生む




考えない設計者には、次の二つの考えない問題がある。一つ目は設計思考展開手法の必要性で常々述べている、論理的思考で考えられない設計者のことである。もう一つは過去からの蓄積に安住してしまい“常に問題点を把握してカイゼンに結びつける努力”を忘れてしまった設計者のことである。

このような設計者達は、製品開発の効率を低下させるだけではなく、物作り段階でのコスト未達、商品出荷後の品質問題など、様々な不都合を生み出している。

さて、6時間という短いヒアリング時間ではあったが、貴社の製品開発部門では、山積された問題を抱えていると診た。

しかもこのように沢山の問題を抱えているにも関わらず、それを改善しようとした試を、少なくともヒアリングの中からは感じ取ることが出来なかった(製品開発部門の中長期計画などには、文言としての“現状打破”他の活動指針が示されていたが)。

その大きな原因は、ルールの整いすぎによる弊害として、考えない設計者達が生じていると診た。先輩達が残した設計標準と図面通り設計を進めていれば、可もなく不可も無く設計結果が得られ、それなりに評価されるからだろう。少なくとも数年前までは。

一方、技術の進化が激しい部分では、闇雲な“作って”“問題を出して”“考えよう”のアプローチをしている。しかもその異常さに、上から下まで気付いている方がいないようにも見えた。まともな製造業なら、製品開発段階で生ずる様々な“手戻り”“後戻り”“生産性の低さ”を、常に振り返り分析して、解消しようと取組む筈だ。

ところが貴社製品開発部門では、振り返ることや改革する事を知らない“お役所体質”が、民間企業にも拘わらず、根付いてしまっているのではないかと感ずる。優秀な方々の集団としては、考えられない気付きの無さである。いや気付いている方々は大勢いるのだが、それを問題視できる文化が無いほど、組織が硬直化しているのかもしれない。

我が国の製造業において、典型的な“お役所体質”の製造業として、かつての某自動車メーカが挙げられる(正確にはだったところ?)。技術の**を標榜し、極めて高いプライドを持った設計者たちが作り出す商品は、バブルがはじけた後その市場性を失い、結果的に外資の支援を仰ぐことになった。

 

そして貴社の現状だが、しっかりした業務遂行ルールや、近寄りがたい品質評価基準など、貴社と某自動車メーカは、極めて似通った特徴を持っていると感ずる。このためか、かつての某自動車メーカを彷彿させられるような遣り取りが、ヒアリングの各所であった事を参考までに触れておく。

一方、“カイゼン”の総本家、トヨタ自動車は、弛まない改革・カイゼンを続け、ワールドワイドマーケットに確固たる地位を築いた。見境のないバッシングを受けても、耐えに耐えその地位を堅実な物にしてきた。

私は両者とも様々な場面を通じて、これまでつきあいがあり、実際にその状況をつぶさに見ている。守秘義務もあり詳しくは語れないが、設計者一人一人の素養は、少なくとも入社時点では、前者の方が平均的に勝っていたと(バブル崩壊時に主力となっていた設計者達は)診ている。

しかし現在周知の企業差が歴然と現れている事実には、常に現状体制に満足せず“改革・カイゼン” を続ける後者と、過去の事例や栄光に基づき“お役所体質”的に仕事を進めていた前者との差が原因となっていることは明白である。

そのほかの、我が国における勝ち組企業も同様だ。少なくとも私どもが知る勝ち組企業で“改革・カイゼン”を行ってこなかった例を知らない。どのような組織といえども、20年30年の時間がたつと、善しかれ悪しかれ何らかの垢が溜まってくる。この悪い垢を“改革・カイゼン”を通じ、取り除くことにより、組織を再活性化させることが初めてできるわけだ。ベテラン設計者になればなるほど現状は住みやすいに違いない。また年功序列的にやっと現在のポジションに上り詰めた設計者にとっては“何で俺の時改革がいるのだ!“という思いの強いことだろう。

だが組織を活性化し、21世紀の勝ち組企業であり続けるためには、常に強靱な企業体質を、持ち続ける必要がある。ましてやその要である商品開発部署は、中途半端なお茶濁しでの改革などですむわけが無く、この際徹底した“改革・カイゼン”に取り組まれることをお奨めする。

貴社製品開発部門の現状維持指向は、“とにかく物を作って考えようの悪い意味での現物主義”“作って”“問題を出して”“考えよう”の解決手段として、ヒアリングのまとめとして提案した、フロントローディング設計態勢確立への足を引っ張ることになる。

統計的品質管理手法にしても、CAEに代表されるシミュレーション技術にしても、手法は学ぶが使わない姿勢では、またはチャレンジ精神が無い設計部署では根付かない。設計者自身が自分の設計の道具として、これらの道具を駆使しない限り、その本質的な効果が薄いからだ。

ところが貴社製品開発部門の現状は、どう見ても新しい技術を食わず嫌いしている。中には全く無知な不勉強な設計者もいると診た(特にシミュレーション技術への取り組みはひどい)。また学ぶけど使わないという最悪のチャレンジ精神の無さが明らかな状態であり、早急なる意識改革が必須である。