CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

製品コストは開発初期段階で決めなければ駄目




■質問■

<前略>

貴社が提唱しておられるFS(フィジビリティースタディ)の解説を読み、問い合わせをさせて頂きました。

弊社では、開発段階におけるコスト予測の精度を上げようと、長年取り組んで参りました。しかし幾分良くなったかと思える時もたまにあるのですが、恐らくそれは、たまたまな結果であり、この十年を通して冷静に振り返ってみると、一向にその改善が見られない状況です。

そして今に至っても、量産図面着手時のVE、量産出図前のVE、量産立上げ後のVEと、フェーズが進む毎に利益を確保できる製造原価を目指して、四苦八苦を繰り返しております。

画期的な改善手段はないかと、様々な文献を漁ったり、コスト設計のプロと呼ばれる先生に指導を仰いだりと、様々な取組みを行って参りましたが、いつの間にか元に戻ってしまうような状況で、情けないやら忌々しいやらで、途方に暮れております。

これまでお世話になった先生方からは、「開発途上で仕様がコロコロ変わったのでは、幾ら初期段階で精度の高いコスト設計を行っても意味がない」と匙を投げられる始末です。

このような状況下で、先週末たまたま、貴社のホームページに行き当たり、貴社が提唱しておられるFS(フィジビリティースタディ)充実が、まさに私どもが求めている結論と感じました。

そこでお尋ねしたいのですが、FS(フィジビリティースタディ)は弊社のようなケースに役に立つ物なのでしょうか。

<後略>

■回答■

ハイ、大いに役立つはずです。正確には、貴社の状況を具に把握してからでないと断言は出来ませんが、少なく頂いた情報の範囲では役に立つと考えます。

私どもが提唱するFS(フィジビリティースタディ)の目的は、まずは売れて稼げる商品仕様を持った開発仕様を、的確且つ効率よく詰める目的があります。また開発途上での開発仕様変更を極力させない事により、開発期間を長引かせたり、製品品質を低下させることを防ぐ目的があります。

さらに、量産段階に入ってからのコスト割れや、もの作りに対する不都合を生じさせないこともその重要な目的の一つです。特に量産に入ってからコスト割れが判明したのでは、話になりません。

貴社の例にも診られるよう、多くの製造業では、量産に入ってから、その原価割れや採算不良が判明して、何とか採算ベースに見合う粗利を捻出するための、VE・VAを行っている例を良く見かけます。しかも専任のチームを作り、開発部門のミッションとして、定常的に行っている例さえ少なくありません。

私に言わせると、量産移行後のVE・VAはナンセンスです。量産に入ってから未だVE・VAが必要だと言うことは、開発部隊がいい加減な仕事をしていた、まともな開発が出来なかったと言うことに他ならないからです。

私がこれまで行った200件を超える現状診断でも、その半分以上の製造業で、この量産移行以後のVE・VAの効果を自慢げに語られました。しかし私に言わせれば、量産に入ってから未だVE・VAをやらなければならないと言うことは、開発部隊の能力が足りなくて、開発目標に到達できていないところを、見切り発車しただけの話として受け止めております。

私が何故ここまで言うかというと、開発段階でのコスト設計と、量産移行以後のVE・VAでは、その実効効果に雲泥の差があるからです。何故なら品質・機能確認前のコスト設計では、思い切ったアイデアをトライすることも出来ます。仮に開発期間に制約があっても、幾つかのトライ案と安全策案の部品を並行手配しておけば、期間の問題は乗り越えて最適なコスト設計が叶うはずです。

ところが品質・機能確認が済んでしまった製品に対するVE・VAでは、思い切ったコスト低減策を、一発で織り込むような、無謀なことは出来ません。精々枝葉末節な、重箱の隅を突くような手しか打てません。これでは手間ばかり掛かって、その効果が薄いというわけです。

要するに、開発段階でコストが詰められない問題は、開発担当者達の問題先送り行為です。本来は、設計完成度が上がる都度、しっかりした設計見積もりを行い直し、常に目標原価との差異を追い続け、目標に向けて頑張ることが、開発設計者の重要な仕事の一つであるはずです。

私が言う「フロントローディング設計」では、この様なコストの未達は、一切許さない取組を行って貰っております。そしてFS(フィジビリティースタディ)は、このような問題を、後になって生じさせないために必須な取組なのです。