<前略>
先生のおかげで、弊社内では設計思考展開の活用がすっかり定着致し、質の高い設計実現に大きく寄与を始めております。この成果を受けて一昨年から、海外の現地法人スタッフに向け、我々の手で設計思考展開の教育を行って参りました。
しかし、国内の教育を結果的にすっかり先生におんぶしてしまったと同様に、我々の手ではなかなか彼らへの教育がままなりません。さらに始末が悪いのは、言語の壁が災いして、何故設計思考展開が必要なのかすら、うまく彼らに理解させることが出来ません。
しかし現地技術スタッフの質を短期間で向上させるには、設計思考展開活用は必須で、なんとしても現地に定着をさせたいと考えております。
そこで先生にお尋ねしたいのですが、これらの現地技術スタッフに対する教育を、先生に現地に出向いて頂きお願いすることは可能でしょうか。当然お支払いする費用の配慮や、現地での雑用を含めたお手伝いを前提にです。また先生の他の業務に支障が出ないよう(特に機密保持上の)にインターネット環境や通信手段は、弊社の環境をご利用頂けるように致します。
<後略>
結論から言うと、極めて難しいと思います。私としては、現地に赴いた日数分、売上が上がりますので、結果がどうなっても良いと言うことなら、お受けしたいところですが、それではビジネス上の信義が果たせませんし、私の信用を落とすことにもなります。
設計思考展開の重要性を理解させる場面や、実際の展開方法を指導する場面では、教育対象者達に、言葉の機微を読み取って貰う事が、極めて重要になります。同じような価値観で、同じ言語を持って育った日本人同士では、容易に理解できる表現でも、育った価値観環境や言語が異なると、なかなか理解して貰えない経験をこれまで幾度となくして参りました。
しかしこれら経験の多くは、日本人の中に、数名の外国人が混ざったような環境下での教育場面でしたので、私としては彼らを切り捨てる形で、私の言葉の機微を理解して貰える方々に、フォーカスした教育で凌ぐ事ができました。
当然、理解できない外国人達からは、繰り返しの質問を浴びせられるのですが、恐らく参加者中のどなたかが、休み時間などに、彼らに質問の制止をかけるらしく、質問は最初だけで収まります。最近では、教育の主催者側に、前もって私から、このような問題が生ずる旨伝えておき、当人達に質問を自制するよう手を打ってもらっております。
この他に、貴社と同じような目論見で依頼され、現地に赴いたこともあるのですが、最高クラスと言われる通訳を介しても、巧く現地の方々に、私の言葉の機微が巧く伝わらず、苦労した経験があります。私としては、様々な言い回しで工夫をしてみたのですが。
また、設計思考展開表は、誰もが理解できる正確な言葉で、緻密に記入される必要があります。此処でも言語の問題が生じます。私が指導を行う場合、通訳若しくは別な翻訳者が、現地語で書かれた展開表を、私のために日本語に直す必要があります。ここの質が低いと、私が指摘する様々な記入表現の悪さが、的外れと言うことに陥ってしまう危険性があります。
と言うことで、一筋縄では、ご希望にお応えすることは難しいと思いますが、代替え手段として、一つ提案があります。
貴社内で既に設計思考展開が定着している様なので、現地普及を担わせる候補の現地技術スタッフを、年単位で日本に呼び、実際の設計思考展開場面に、参加させたらいかがですか。身をもって彼らに、設計思考展開とは何かを、理解させる手です。このようにしてある程度理解できた者達に、改めて私から教育を行い、現地に戻すのです。