<前略>
弊社では生産拠点の多極化と、現地ニーズに即応した商品開発の必要性から、「開発は生産拠点に密着すべき」の考え方に則り、多極化する生産拠点毎に設計要員を配置し、現地採用要員を含めての現地化を、この10数年、行って参りました。
当初は、ワールドワイド戦略に則り開発したマスターモデルや、国内向け旧型モデルなどをモディファイして現地化を行っていたために、現地化製品でも、特に品質的に問題を生ずることもありませんでした。しかし現地の開発力が中途半端に付いてきたために、5年ほど前より各所で、現地開発をした商品に、重大な品質問題を生じさせると共に、売れ行き不振の製品開発を多発してしまう悪現象を、生じさせる問題が生じて参りました。
企業統治的には、建前上独立採算のため、現地で販売する製品については、本社側から強いコントロールをきかすわけにも行かず、手をこまねいている間に、一部の現地法人が勝手な振る舞いを起こした結果です。韓国勢などの、現地ニーズに即応した商品に、押しまくられた結果による、売り上げ不振の解消を狙った、積極的な取組みであったことは理解するのですが、不良在庫の山や、クレーム費の急増などで、かえって自分の首を絞めてしまうような状況に陥っております。
弊社の海外生産拠点は、欧米に置く、専ら近隣消費地をターゲットにした生産拠点と、日本国内や先進国向け廉価商品の生産を、主な目的とした生産拠点に2分されます。主に後者はアジア圏にあるのですが、これらには、最近急激に拡大してきた現地市場にも、タイムリーに商品を供給する役割も併せ持たせてあります。そして上記の問題は、後者達がこの役割を積極的に果たそうとした結果生じた問題です。
一方、国内の開発拠点でも、開発拠点の現地化は、ベテラン及び中堅設計者達を、現地開発の責任者に送り出す結果となり、実力を持った設計者不足という状況を引き起こし、製品開発力の大幅な低下を招いてしまいました。具体的には、開発工数の大幅増加、開発期間の度重なる遅延、量産移行時のトラブル多発、製品コストの未達、出荷後のクレーム多発などです。
新年度にあたり新社長から、最近の円安基調も含め、我が社の開発拠点の早急なる見直しを行うよう指示が下され、「留意点は技術人材の最適活用と、売れる商品開発力だ」と釘を刺されました。
幸い現地採用の設計要員は、人材流動の激しい2生産拠点を除き、それなりに成長をしているために、日々の設計メンテナンス業務を彼らに任せ、日本人スタッフと現地採用の一部優秀スタッフを、@@にある開発センターに参集させて、開発要員の集約化を図れないかと考えております。
組織形態としては、開発センター内には、仕向地向け、機能分担的な部課を置かず、先生が提唱されておられます、クロスファンクションプロジェクト態勢を組み、臨機応変・適材適所に、スタッフそれぞれの能力を最大限に発揮して貰える形態を目論んでおります。
一方人材流動の激しい2生産拠点には、他の生産拠点より、現地採用の人材を赴任(当然雇用形態・給与などを日本人スタッフ並みにして)させることで、凌げると考えております。また、日本に呼ぶ現地採用スタッフの扱いも、当然日本人スタッフ並みにして、借り上げ社宅などを使い、希望すれば家族同伴も可能とするつもりです。
組織形態的には、このような手立てで、効率化が図れると思うのですが、問題は「売れる商品開発」を、最適に行えるか否かです。それぞれの仕向地向けのニーズにマッチした、売れる製品を、離れた日本国内で、うまく、効率よく開発できるか否かです。
自動車業界などでは、開発要員を次々と現地生産拠点に分散しているとも聞きます。このような流れから見ると、私の考えは世の流れに逆行しているのではないかという不安も抱きます。
恐らく、これらの取組みを行うに当たっては、経験豊富な先生にご助力を仰がなければならないと考えておりますが、その可否を含め、私の不安に対してアドバイスを頂けますと幸いです。
<後略>
**さんの目論見は、基本的には、これまで私が提唱して参りました考え方に沿っておりますし、この10年来各所で私が展開してきた、実績のある考え方ですので、基本方針として誤りは無いと考えます。またご依頼を頂ければ、喜んでお手伝いを申し上げます。
ただしご支援を申し上げるに際しましては、是非私どもの“現状診断”を受診下さい。具体的な実行計画、関係者への啓蒙などを行うに際しまして、貴社の現状を具に把握する必要性がありますので。併せてこの診断を受診頂くことで、**さんが目論んでおられます目論見が、貴社の現状に最適な物か否かも判断ができますし、仮にそぐわない場合には、修正案を提示できますので。
さて、**さんが危惧しておられます「それぞれの仕向地向けのニーズにマッチした、売れる製品を、離れた日本国内でうまく、効率よく開発できるか否か」ですが、これまでの私の経験では、このような問題を、フィジビリティースタディーを徹底することで、乗り越えて参りました。
今では当たり前になったNetMeetin(今では最新はMicrosoft Office Live Meetinngだが企業ユーザーは、XPユーザーが多いため未だ現役)などを用いた、ネットワークを通じた遠隔地会議による、フィジビリティースタディーにより、ターゲットマーケットニーズを徹底的に汲み取った、商品企画・開発の実践です。
現地マーケッティング要員、現地物作り要員、日本開発センターメンバー、日本マザー工場メンバー、開発に参与予定の他生産拠点メンバーなどが、それぞれの拠点に集まり、ネットワークを通じて、それぞれの情報や思いを徹底的に議論・調整をして、ターゲットとする商品企画案や開発仕様に織り込む取組みです。
コミュニケーションツールとしては、ビデオや写真は下より、3次元CAD図形情報やCAEシミュレーション結果、そして設計思考や参加者の意図を、階層的に記録するDPD(設計思考展開)シートなどを用います。
社内共通言語が統一されていない場合には、会話は同時通訳、文字は自動翻訳をフルに活躍させ、参加者全員が、なるべく同じ物差しでの見方ができる環境を、可能な限り整えることも重要です。
幸い**さんのお考えでは、ターゲットとするそれぞれの地域で、現地採用した優秀な人材を、開発センターに参集させるおつもりです。当然彼らは、言葉を超えた、現地ニーズの機微に渡る通訳を、現地マーケッティング要員や物作り要員と、開発センタースタッフとの間で果たしてくれると思います。
フィジビリティースタディーの御利益や進め方は、私のホームページを参照下さい。
追伸)
恐らく**さんは、ご承知置きの上で、ご質問頂いて居ると思いますので、釈迦に説法になってしまうかもしれませんが、開発コストについて若干コメントさせて頂きます。
昨今、開発コストの削減を狙って、開発機能を海外に転出させる企業を見かけます。開発要員に費やすコストの削減だそうです。また海外に出た方が、優秀な人材を豊富に確保できる?だそうです。
確かに国内で、まともな設計もできないメンバーに、高い給料を払って、ダラダラ仕事をされ、開発期限の遅延を繰り返し、量産立上げも巧く行かず、さらには出荷後のクレーム対策費用が膨大と来たら、国内での開発は止めようと言う話になるかもしれません。
しかしこのような体たらくな製造業が、海外に出て行ったからといって、まともな製品開発ができるわけがありません。そもそも国内で確保した開発要員を、まともな設計者として、育てることができなかった製造業が、どのような魔法を使って、現地で確保した開発要員を育てるというのでしょうか。
設計や商品開発とは何かを、理解できていない輩達は、「同業他社から人材を引き抜いてくればよい」と簡単に言いますが、それで本当に即効性がある、海外開発拠点構築を、可能にできると思っているのでしょうか。
このような安易な考え方で、開発機能の海外転出を行った暁には、国内で開発を続けるより、よほど大きな費用を、結果的には費やすことになります。しかもその結果、大きな品質問題を起こしたり、売れない製品開発を続けたら、企業存続の危機さえ招きかねません。
一方、駄目な設計者揃いの国内開発機能でも、思い切って設計改革を、徹底的に行ったら、その一人あたり、時間あたりの人件費に関係なく、大幅な開発費用の削減が可能です。例えば私が各所で展開しているフロントローディング設計など、様々な手法を取り入れ、開発組織そのものの質を高め、徹底的に効率化した開発を実現してやれば、それまで負担に考えていた開発コストを、一挙に軽減できます。そしてこれらは、各所で実証済みです。
腐っても鯛!
半分には満たないが我が国製造業の多くは、この失われた20年を経ても、驚異的な底力を持っております。先人達が積み重ねてきた継承技術や、固有技術です。これらの技術は、我が国製造業に、苦しい思いをさせている韓国製造業でさえ、未だまともに物にできておりません。
その証拠に、私の所にこれらの技術取得を、問い合わせてくる先は、我が国製造業を苦しめている、蒼々たる企業です。これまで我が国製造業の、バブル崩壊期リストラ組から盗み出していたこれら技術が、現在の時流に合わない物になってしまい、代替えの技術取得に走っているのだと思います。
しかしこれら技術は、私に言わせれば、自分たちが扱う機械の原理原則さえ、しっかり理解できていれば、それに付随する周辺技術が幾ら進化しても、容易に追従できる代物の筈です。と言うことは、私の下にこれら技術の取得を打診してくる先には、かつてのリストラ組から取得した技術が、一過性で潰えてしまい、技術革新に柔軟に対応できない状態にある証拠とも言えるでしょう。
一方、様々な製品開発の多くに用いられる最先端技術、その基幹を支える高性能高品質部品、高品質製品をばらつき無く生み出す高性能物作り機械、それを用いた高い製造技術などは、我が国製造業の独壇場です。韓国製造業はもとより、欧米の製造業といえども、その総合力という見方では、おいそれとは太刀打ちできないレベルで、最先端を走っております。
と言うことは、先人達が積み重ねてきた継承技術や、固有技術を、独壇場の先端技術と組み合わせて、柔軟に技術革新に追従させて行くことができる、設計態勢の確立さえ叶えば、他に追従できない開発力を備えることが可能になります。いや既に、密かにこの域に到達できている製造業が、少なからずあります。
今我が国製造業が、最優先で取り組まなければならないことは、員数合わせや要員コスト削減で初めて実現できる、開発費用削減などという後ろ向きの改善(その場しのぎ)で、企業力を殺ぐ取組みではないはずです。
他が追従できない企業力を備えた、即ち、稼げる強力な商品力を備えた商品を、次々と生み出すことができる強力な商品開発力を備えた、企業体質への変革です。そして少なくとも半分近くの我が国製造業は、それを叶えることができる潜在力を保有しているはずです。是非積極的な設計改革に、励まれることを祈念致します。