質問事項3
3次元電子図面を“正”にできないのか?
連載で紹介された製造業では、3次元データから生成された3面図を原図として、図面の”正”としており、先生はそれで問題ないと述べておられます。
しかし3次元CADに移行して、折角3次元で全てのデータをもてるようになっているわけですから、わざわざ2次元の3面図に落とすことなどせず、3次元電子データを図面原図として持てばよいのではないかと思います。
弊社では、このような考え方の元、数年前に2次元レスに踏み切りました。そして今現在特に問題が乗じているとは認識しておりません。特に厳格な3次元図面管理ルールなども向けてはおらず、現場からも特に問題点の指摘も、これまで上がって参りませんでした。
確かに協力会社との関係などで、一部トラブルが発生致しましたが、現在は問題は全て潰したと言う報告を受けております。
先生のご著書では、「将来的なあるべき姿は、2次元図面レスの、3次元電子データ図面化だ」とも述べておられますが、紹介頂いた製造業の場合には、何故2次元図面原図でOKと言う評価を下されたのでしょうか。
X社のような、割合大がかりな製品を製造している製造業の場合には、数多くの協力会社が存在します。そしてそれらには、機能部品などを供給する大手装置メーカーや部品メーカから始まり、オヤジ一人で切り盛りする町工場まで、区々の規模や形態の協力会社が混在しております。
一方設計部門から出図された図面は、全ての物作りの基礎になります。これらの協力企業は、注文を受けると、図面に指示された通りに部品加工を行って、期日までに注文先に納品する義務が生じます。注文側では、納品された部品を、受け入れ検査で、出図図面と寸分違わずできている事が確認して、初めて注文が完了したことになります。
当然図面通りに部品ができていなければ、NG品としてはじかれ、協力会社は、代わりの物を納品するか、返品前にX社において手直しをさせて貰うか、いずれにしろ図面通り物に仕上げて、注文先の納入期日に間に合わせる義務があります。
これに応えられない場合には、協力会社には違約金などのペナルティが課され、繰り返しNG品を頻発する場合には、取引停止に陥る場合さえ、覚悟しなければならなくなります。
一方、仮に注文先に納入された部品が、製品に組み付けられなかったり、正常な機能を発揮できなくても、図面通りできていれば、協力会社側には、一切の責任は生じません。パワハラ的に協力会社に、責任をなすりつける大手製造業の存在は承知しておりますが、それは公正取引に反する違法行為であり、協力会社に責任のある事態ではありません。そして、この分かれ道は、“図面通りか否か”で、全ての判断が分かれます。
要するに、出図された図面は、注文書と併せて、異なる企業間での“取引契約書”以外の何物でもありません。
そうした場合に、図面の読み方の判断が分かれるなどと言うことが起こる図面では、“取引契約書”としては役に立ちません。発注側と受注側で、正式に契約書などで取り交わされた図面表記ルールが存在しない限り、ISOやJISのような、標準として認知された図面表記ルールが必要になります。
3次元データを“取引契約書”としての出図図面として扱おうとしたとき、それぞれのCADが持つ図面表記機能で表記した内容だけでは、単なる参考図面表記にしか過ぎ無いことになります。
協力企業が極めて少なく、個々に図面表記のルールを合意契約できる製造業では、その保有している3次元CAD図面表記機能に従った表記方法で、お互い読み方が分かれ無いようにルール化すれば済みます。しかしX社のように余りにも協力会社が多いケースでは、物理的にこのような措置が取りづらく、やむを得ず、従来からの2次元図面を正式な物として用いることになります。
これがX社で私が、2次元図面原図でOKと言う評価を下したわけです。
ちなみに貴社では、既に2次元レスを実現されているそうですが、上記したような取り決めを、取引業者との間で取り交わしておりますか? これができていないと、いずれどこかで、訴状沙汰や公取委介入が起こる危険性がありますので、ご注意ください。
<参考>3次元図面表記のISO化作業は、着手はされているが、何時使える物になるのかは未だ読めない状況にある。