CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

予測型のCAEシミュレーションを設計者自身で行えと言うが?




(2012年8月10日からの続き)

 3ヶ月以上に渡る大連載、興味深く拝読させて頂きました。私たちの部署では、私以外にも何名かの者が、連載を拝読させて頂いておりました。
 このような中で、いつの間にか自然発生的に、これらのメンバーが集まって、感想や見解を共有する機会が幾度か設けられ、様々な意見交換を
行ってまいりました。
 そして、「これまで私たちが行って来た設計部署に対する改善・改革の取組みが、本当に正しかったのかを、一度冷静になって振り返ろう」と言う
問題提起が複数のメンバーからなされ、盆休みあけを目処に取組みを開始する運びになりました。先生の連載を参考にさせて頂きながらのつもり
です。
 そこで、何点かの疑問があり、もしよろしければ、ご教示頂けますと幸いです。

■質問■

質問事項2

予測型のCAEシミュレーションを設計者自身で行えと言うが?

連載の中で、次のように述べておられますが、「くどいようだが、ある程度難しいCAEシミュレーションを、専門家集団に頼っているのも頂けない。設計者たる物、自分が担当する製品の、基本性能や基本機能を追い込むシミュレーションくらい、自分自身の手で、モデリングや結果評価(必ずしも自分自身でオペレーションしろと言うことではない)が、出来なくてどうする。だから重大な“手戻り”“後戻り”を根絶できないのだ。」意気込みとしては理解できますが、現実的には非常に難しいと思います。

日々シミュレーション技術を駆使しているわけではない担当設計者達に、事前予測型設計を全うしろと言っても、弊社ではとても現実的には思えません。

先生がご指導を行われておられます製造業では、具体的にどのようなやり方で、この理想の状態を叶えているのでしょうか。

■回答■

一連の設計業務の中で、誰がCAEなどのシミュレーションを行うのかの議論が、昔から各所で行われております。私は、原則的には設計者自身が行うべきと言う考え方です。

製品設計を行うに当たり、特に構想設計などの設計上流段階を担う設計者は、机上やパソコンなどを用いて、担当する製品が、その開発目的に沿い、商品として十分な価値を持ち得るように、数々のシミュレーションを行っているはずです。これは出たとこ勝負的な山勘設計では、的確な製品開発が行えないことを、工学史的に判っているからです。

ですから、機械工学などの学科では、設計計画などにどのようなステップを踏み、どのようなチェックポイントを経ながら設計を進めるのかの教育を行っているはずです。

そしてCAEツールの活用は、対象になる機械の動きが、強度が、振動が、熱が、そのほかが。十分な目標品質に達しているかを検討する手段であり、当然のこととして設計者自身が、これらのツールを活用したシミュレーションを行うべきと言う話になります。

特に、自社の製品開発にフロントローディング手法を取り入れようとしたときには、製品に生じるであろうあらゆる問題点を洗い出し、試作出図までに可能な限りその問題点を潰し込む必要があり、“科学的な予測型設計”と言う観点に立ったとき、振動・強度・熱・音・磁場・流れなどの予測を行うのには、ある程度高度な機能を持ったCAEツール群は、必須の道具として用いざるを得なくなるはずです。

確かに10年ほど前までは、そのCAEツールを使うことや、それ以前のモデル作りの作業に、膨大な手間と特殊技術が必要とされたために、多くの設計者が指をくわえて、CAEツールの活用を、眺めていたというところが実状かと思います。

しかし、10年ほど前に私が行った、様々なCAEツールの実用度調査で、これらのCAEツールは、設計用途でも十分に活用できる域に入っているとの結論を下し、更にこれらのソフトの使い易さも十分に向上しており、現場の設計者の方々でも、あるレベル以上の設計者として能力さえあれば、短期間で十分使いこなす事が可能所まで来ていると結論を下しております。

そしてこれらの設計者達に、CAEツールを駆使して貰うべく、私どものオリジナル教材を用いて、各所で教育を行ってきたのですが、それほど手間を掛けているわけではありません。

どちらかと言えば、機械の強度の問題を扱うには、材料力学や機械力学の知識や理解の方が重要で、CAEツールの仕組みや使い方は、その設計部門の中に1〜2名の専門家がおり、設計者から寄せられる疑問や相談に、即時対応できる態勢さえ講じておけば、問題ないからです。これは振動や熱、流れなどの問題についても同じです。

さらに、これらの専門家を置く余力がない場合や、コスト的に見合わない設計部署の絶対人数が少ない場合などには、その役割を私どものスタッフが、リモートで対応をさせて頂いております。

この案件に対する私のお薦めは、以上の二つのアプローチを並行して進められることをお薦め致します。