CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

CAEを駆使できないとフロントローディング設計は出来ないのか?


■質問■

<前略>

弊社ではここ数年、フロントローディング設計の実現に向けて取り組んで参りました。製品の開発途上で生ずる手戻りの撲滅がその最大の目的です。そのほかにも、量産立ち上げ時の垂直立ち上げ、量産開始後の市場クレーム撲滅などもその目的としております。

この取り組みは、最初からフロントローディング設計実現を狙った物ではなく、ますます厳しさを増してきた弊社の経営環境をブラッシュアップするためには、製品開発の立場として何が出来るのか、と言う視点でのスタートです。

そのため、一年余りの期間を費やして、弊社における製品開発のボトルネックは何か、利益逸失の主たる要員が何かなどを可能な限り洗いだし、それを重要度(経営の足を引っ張っている度合い)順に並べた結果から、上記した目的を定めました。

そしてこれらの問題点を確実に解消出来る取り組みとして、フロントローディング設計手法を会得して、定着を図ろうと考えました。

しかし、このフロントローディング設計手法を会得しようとする取り組みに対して、一部から「家ではフロントローディング設計は無理なのでは」と言う声が挙がっておりました。なぜなら、先生が当時機械設計誌に連載されていた一連のお話の中では、CAE技術を駆使した予測型設計が極めて重要であることを、連載の各所で述べておられたからです。

一方弊社におけるCAE技術への取り組みは早く、まだCAEと言う言葉が世に出る前から、私などは、IBMのCALLサービスなどを用いてNASTRANなどのFEM解析ソフトを使い始めておりました。しかし、その活用となるとなかなか定着できず、時々使い始めようとする人間は現れるのですが、始まってはいつの間にか萎んでしまう繰り返しでした。

何故このような繰り返しが続いたかと言えば、厳密に検証したわけではありませんが、弊社(我々の事業部)が扱っている製品が、極めて物理的に難しいメカニズムを持ち、また極めて複雑な挙動をすることが挙げられます。このために、昔より10分の1スケールモデルなどでの代用試験を繰り返し、狙いの品質へと追い込んで行くアプローチが、製品開発の主流を占めており、過去からの改革改善の中で、極めて短期間でスケールモデルを制作できるスタッフや設備が充実している事が次に挙げられます。

ですから、面倒くさいCAEのモデル化などは避け、数水準のスケールモデルを一気に作り試験に掛けるような強引な手法での製品開発が幅をきかせてきました。しかし中には山勘で行動する物達も多く、製品開発途上における基本機能や品質部分での手戻りロスが、馬鹿にならない規模で発生していたわけです。

ですからフロントローディング設計手法に取り組もうとしたときに、このような習慣に浸りきっていたメンバーから、上記の様な発言が発せられたわけです。

そして現在、CAEによる予測型設計が出来るようになるわけでもなく、一向に設計アプローチはフロントローディングに改まらない状況が続いております。

私としては、何とかして山勘とスケールモデルに頼るアプローチではなく、科学的に設計を追い込む態勢へと変革させたいのですが、これにはCAE技術を使わせると言うポイントが、極めて大きな障害となっており、なかなか強引な施策も打てません。

「今後スケールモデルは、一回、一種しか認めない!」などと言う、ごり押し命令でも出せればよいのですが、それでは製品開発が止まってしまいます。

そこで、先生にお教え頂きたいのですが、CAEを駆使できないとフロントローディング設計は実現出来ないのでしょうか。

<後略>

■回答■

私の提唱する“フロントローディング設計”は、設計の極めて初期段階から、その商品(製品)開発を通じて発生するであろう、あらゆる問題点を前もって予測して、的確に潰し込んで行こうという考え方です。そのための有効な道具として、CAE技術を用いた雛形モデルであり、予測型設計を強く提唱しているわけです。

しかしこのCAE技術の活用、特に雛形モデルの確立や、CAE解析モデル作成、その結果の妥当性検証に、極めて大きな手間が必要とされる場合には、必ずしも私は、「CAEを用いた予測型設計でなければ駄目だ」とは申しておりません。

何らかの手段で、科学的に開発途上で生ずる問題点を予測でき、それを潰し込むことが出来れば、“フロントローディング設計”は、成立できるからです。

具に貴社の状況を拝見したわけではありませんので、断定的には申せませんが、幸い貴社には、短期間且つ的確に、試作スケールモデルを加工する、優秀なメンバーが揃っております。また設備も充実しております。

これを、巧く活用することで、CAEによる予測設計を、代用できる可能性があります。恐らく、今山勘で設計案を考えている所を、設計思考展開手法などを用いて、科学的に論理的に設計に落とし込む文化に変えてやれば巧く行く可能性はあります。

ここは是非、弊社の“現状診断”を受診されることをお勧め致します。そうすれば、今後貴社がどのような方向性を持つべきか、いかなる取り組みを行えばよいのかが、明確になると思います。

尚、貴社の規模ですと、診断一切合切で1000万円以下で上がると思います。