この半年の間に、各所の講演会などで、3次元CAD活用の成功事例や、デジタルモックアップ態勢実現の話を聴いた。そしてそれぞれでは、様々な関門を乗り越え各々の取組み成功へと至る、苦労話や創意工夫などが語られ、まさに絵に描いた餅のような、プロセス図やデータ連携図が紹介されていた。
しかし話を良く聞いていると、これらの取組みの御利益は、どうも製品開発の後工程にあり、物づくりの都合部分でのメリットが強調されている例が殆ど(全て)であった。
特に樹脂成型品や鋳造品、プレス品などへの適用効果と、物づくりを前提にしたデザインレビューなどへの効果が、彼らが言うデジタルモックアップの、最大のメリットであると感じられる内容であった。
そしてその多くでは、解消すべき問題点として“設計者の質の低下”“若手設計者の質の低下”を取り上げ、「自助努力で設計力を高めて欲しい」と結んでいる例が多くあった。
しかし、恐らく私がこれらの製造業において、商品(製品)開発の質や効率に主眼を置いた“現状診断”や、“製造業力診断”を行ったなら、恐らく「本末転倒のデジタルモックアップに取組み、単なる自己満足に陥っている」などと言う辛辣な評価を下すに違いない。
なぜなら、商品(製品)開発の質や、効率に最も大きく影響を与える、開発・設計初期段階での取組みが蔑ろにされているからだ。確かにCAEと言う文言が取り上げられ、仮想試作の話は、多くで取り上げられていた。しかしどのタイミングで、どのような用い方をすれば、最大効率を発揮するかへの言及もないし、私がかねがね提唱している本当の意味での、“フロントローディング設計”への言及も残念ながら無かった。
精々「設計者向けCAEを設計者達に提供し、部品単位での事前予測を推奨している」程度の触れ方で、設計初期段階での設計の質を上げる、効率を上げる取組みに及び腰になっている状況が透けて見える。
確かに設計初期段階での設計の質を上げる、効率を上げる取組みは、一筋縄で行く取組みではない。各所で長年この取組みの支援を行って来た私でさえ、未だ匠の世界には至れていない。ましてや、設計という行為の本質を良く理解できていない、システム上がりや、物づくり上がりの3次元CAD推進者達にとっては、触れてはいけない、触れたくはない領域なのだろう。
だが、だからといって、大枚の費用を費やし、大勢の関係者の労力を割いて、行ってきたデジタルモックアップの取組みである。後工程だけの成果だけではなく、開発上流段階をも含め、満遍なく成果を上げられなければ意味が無いのではないか。
ましてや設計初期段階での設計の質や効率は、製造業にとって、その命運を左右する最も重要なポイントのはずだ。当然の事として、弛まない改革・改善への取組みが行われていなければならない。
にも関わらず、この部分を(意図的に)避け、「自助努力で設計力を高めて欲しい」と開き直ったのでは、それぞれの企業に取っての極めて悪質な背信行為だと考える。
会員諸氏においては、このような的はずれの取組みは無いと思うが、会員外で本ページを閲覧された方で、思い当たる方がいたら、早急なる軌道修正に取組まれることをお奨めする。
尚、設計初期段階での設計の質を上げる、効率を上げるために、どのような取組みが必要なのかは、本ホームページに満載してあるので参考にして頂きたい。