CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

中国における現地採用スタッフの教育に設計思考展開手法は有効か・・・有効ですが止めた方が!


■質問■

<前略>

一連の、先生の発信を拝読いたしますと、恐らく否定的なお答えが帰って来るであろう事は予想できますが、あえてお問い合わせさせて頂きます。

弊社もご多分に漏れず、やむを得ずですが、脱日本の動きは急激です。そして総合的な効率を考えたときには、開発拠点も海外に移転せざるを得ず、極めてタイトな期間で中国の開発拠点を立ち上げるミッションを要求されております。

現地での人材選別など数え切れない課題があることは承知しておりますが、しがないサラリーマンの立場としては、会社の方針に口を挟むわけにも行かず、苦悩している次第です。

このような前提でお尋ねしたいのですが、仮に我々の手で、それなりの忠誠心を期待できる、向上心を持った現地スタッフを確保できたとして、彼らを戦力へと短期間で育てる道具として、先生が提唱されておられます設計思考展開手法は、有効に活用できる物でしょうか。またその際先生のお手伝いは仰げる物でしょうか。

<後略>

■回答■

まずお手伝いですが、設計思考展開手法は、言葉を巧みに駆使しながら、その展開を進めて行く必要がある手法です。またその手法を会得頂く途上で、微妙な言い回しをした、私からの説明が、頻発します。ですから中国語を全く承知しないし、今後も会得するつもりがない私に取りましては、極めて優秀な通訳が付くことが条件でないと、ご希望にお応えできません。

さらに、教育サイトを、中国現地とした場合には、私の他の業務との兼ね合い上、私が現地に赴いてのご支援は、よほど費用を多目に見て頂かなければ、極めて難しいと思います。対象者を定期的に国内に呼び、行うと言うことであれば、通訳の条件さえ叶えば吝かではありません。

しかし、ロジカルに、漏れなく、思考を進める道具という意味だけで、設計思考展開手法を対象者達に会得させると言うことであれば、上記条件が叶えば、それなりの教育は行なえるのですが、貴社が考えている教育は、もっと深い内容の物ではないのでしょうか。

これまでの私の経験から推察するに、少なくとも貴社の現役設計者達が、持っている設計スキル同等とは言わなくても、7〜8割程度までのスキルを持たせたいと言う、目論見をお持ちなのではないでしょうか。そして現地で迅速且つ高品質な開発が行なえる態勢を、安いコストで実現しようとしているのではないでしょうか。

あわよくば、国内の高コスト開発要員を整理して、開発拠点を現地に移動させようなどと目論んで居られるのではないでしょうか。自社が持つ、継承技術や固有技術の重要性を、とかく軽んずる、欧米かぶれした、数字だけ追う経営層が、よく陥る罠です。

もしこれをやろうとするのであれば、貴社が持つ継承技術や固有技術を、前もって、洗いざらい、整理体系化された形式知に落とし込む必要があります。この道具としても設計思考展開手法は、極めて大きな威力を発揮しますが(どちらかと言えば、この目的で設計思考展開手法を育ててきた)、そこで構築できた形式知は、貴社の命の筈です。

仮にこの形式知が外部に漏洩した場合には、貴社にとっては極めて大きな致命傷に陥ることは言うまでもなく、恐らく貴社は存続できないことになるでしょう。

一方貴社が、仮に上記したような、開発拠点の中国現地移管を目論んでいるのであれば、7〜8割程度までの設計スキルを持たせたいと考えているのであれば、この形式知の殆どを現地スタッフに譲与しなければならないことになります。これが何を意味するかは、言わずとも、おわかり頂けると思います。

私はビジネスですから、ご依頼を頂ければ、現地採用スタッフの、設計思考展開手法取得教育も、貴社の持つ、継承技術や固有技術の整理体系化、形式知化へのご支援も、吝かではありません。恐らく私がお手伝い申し上げることで、極めて効率よくゴールに到達できるでしょう。

しかし、その後数年で貴社が消滅してしまったのでは、私の寝覚めは、極めて不快な物になります。できるなら、前もっていずれ起こる不幸な事態が、予見できるような仕事は、お受けしたくない物です。

恐らく、端から見る貴社の状況から考え、もっと良い将来への展開方法があると思います。このあたりを熟考して頂けますことを、お奨め致します。尚ご依頼頂けますれば、本件に関して、軌道修正のご意思を貴社がお持ちになるのであれば、ご相談に乗る事も吝かではありません。