CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

余りにも若手設計者の成長が遅すぎる、設計思考展開は使えるか?・・それ以前に貴社の採用組織や、採用形態に問題があるのでは


■質問■

<前略>

この20年来、新入社員で入社してくる設計者候補生達の成長がはかばかしくありません。ゆとり教育や、結論だけを暗記する安易な風潮の結果だと、半分諦めていたのですが、この3年ほどその悪さが急激に悪化しており、手を焼いております。

どう見ても遜色のない優秀大学や、大学院を卒業しているのにも拘わらず、設計者としての成長に難があり、日々歯ぎしりをしている有様です。

とは申しても彼らが全くの駄目人間かと言えば、さにあらずで、要領よく様々な調べ事をこなしたり、それらしくレポートを纏めるなど、子供の頃から、ずっと優等生を通して来たのだな、と窺える片鱗を各所で見せます。

しかし、設計の大原則である、目的に対して根気よく理詰めで設計案を詰めて行く作業が、はっきり言って全くお粗末で、あやふやの思い込みや決めつけで、設計を決めたがるし、そのお粗末な設計案に執拗に固執します。

先月など、余りにも決めつけが激しい者に、理詰めでその設計案の駄目さを、ぐうの音も出ないくらい指摘したところ、翌日から一週間以上所在不明(無断欠勤)になる始末で、自殺でもされたらと、厳しく躾ることも躊躇してしまう状況です。

そこでお教え願いたいのですが、先生が提唱されておられます設計思考展開手法は、このような若手設計者達に使わせると、否が応でも理詰めで物事を考えるようになり、彼らの欠点を解消する道具として用いることができるのではないかと思います。先生のご所見をお聞かせ頂けますと幸いです。

<後略>

■回答■

設計思考展開を、提唱し始めた理由の一つには、お問い合わせの、短絡的に設計を決めてしまう問題設計者達に、理詰めの設計を行わせる道具として、用いさせる目的がございましたので、御質問の件は、その通りです。

しかし、貴社には、それ以前の、重要な問題があるのではないかと危惧致します。

なぜなら、リーマンショック以来、新卒学生の就職難は、異常な状況です。裏を返せば採用する側にとっては、選り取り見取りで、優秀な学生を確保する、願っても無い絶好のチャンスです。現に私がお手伝いしている先では、それぞれの10年後、20年後を、担ってくれるであろう優秀な人材が、次々と確保できております。

特に貴社規模の製造業では、“寄らば大樹の陰”的な周囲の声に押されて、極めて優秀な人材が、大挙して押しかけている状況で、まさに選り取り見取りの状況です。恐らく貴社も同じ状況ではないのでしょうか。

にもかかわらず、**さんがため息をつくような設計者候補生が、**さんの所に、なぜ供給されてくるのでしょう。常識的に考えたときに、私には理解できません。

一点思い当たる節があります。私は常々支援先には「伸びきったパンツのゴムを掴むな、十分に余力を持った、磨けば光る人材を巧く選べ」「見るべきは論理的な思考能力と地頭の良さだ」などの忠告をし、極力論文形式の筆記試験と、可能な限りの人数に面接を行うよう要求をしております。

その要領良さや経歴、ブランドなどに隠された、拙さを見逃すことなく、幅広く優秀な人材を捜すためです。もしかして貴社では、この部分が巧くできていないのではないでしょうか。

また貴社の現状では、私どもが提唱する設計思考展開を活用させようとしても、いつの間にか無視され、後戻りする結果に陥るのでないかと危惧します。なぜなら、**さんが嘆いている、できの悪い設計者候補生達の意識や価値観が、設計思考展開の様な回りくどい、面倒くさい取組みを、容易に受け入れないのではないかと考えるからです。

貴社としては、採用してしまったできの悪い設計者候補生達を、安易に首にするわけにも行かないでしょうから、恐らくこのあたりから手を入れないと、何ともならないのではないかと思います。