6月22日、設計・製造ソルーション展に行ってきた。例年だと雑誌の取材など、何かの目的やテーマを持って行くために、必ずしも私の趣味の赴くままの見学はままならない。しかし今年は、何のテーマも無しだったために、思う存分主観的な立場で会場を彷徨うことができた。
まず全体的に言えることは、この数年の傾向でもあるが、3次元CAD関係の出展が、極端に減少している。十数年前のように、先行しているCAD群は、次々と新しい機能を織り込み、またそれに追いつけ追い越せとばかりに、雨後の竹の子のように新しい製品が乱立した時代と比べると、その状況は一変していた。
私が常々述べている様に、3次元CADの導入は、導入社数という視点では、ほぼ一巡した。巧く使えているか否かはともかくとして、導入すべき必要性を持った製造業は、ほぼその導入を、完了したと見て誤りでは無い。
と言うことで、3次元CADに対する新規需要は、大幅に減少した様に見える。そしてこれは、3次元CAD販社の営業成績や、事業の離散集合状況に如実に表れている。また販社達は、リーマンショックによる製造業不況と併せ、既に飽和状態に達している事を、その売り上減少の言訳にし、ビジネスの主体を、CAD周辺のIT環境整備にシフトしてきた。
しかし本当に3次元CADは飽和状態に達したのだろうか。これに関して私は、別な見方をしている。3次元CADの本来の需要は、社数という意味では、既に飽和状態に達しているかも知れない。だが、導入ライセンス数と言う観点では、まだその序の口に入ったに過ぎない状況であると考えている。
それは、本当の意味での3次元CAD活用が、各所で実現できたなら、必要とされるCADのライセンス数は、国内に限定しただけでも、現在規模の数十倍に拡大する可能性を持っているからだ。
なぜなら、その有効活用が巧く行けば、各々の製品開発に用いる必須の道具として、設計部署での利用者が倍増するだけに留まらず、物づくりにかかわるあらゆる部署が、必須の道具として駆使するようになるからだ。
このような状況を迎えると、これまで導入を済ましてきた3次元CADのライセンス数では、全く道具が足りないという話になる。結果、少なくとも数十倍のライセンスが、必要になってくるはずである。
現に私が支援してきたケースでは、製品開発の中核になる道具として駆使され始めたため、設計者一人に一ライセンスなどという数では、とてもしのげ無い状況が生じた。商品企画などの前工程、生産技術以降の後工程、開発に参画してくれる様々なサプライヤーなど、各所で、直接同じ3次元データをいじりながらの、コンカレント開発作業があたりまえとなったためだ。
当初は、ビューアなどを用いて凌いでいたのだが、フィジビリティースタディやDRの内容が、より深い内容に入ってくると、ビューアだけの参加者が、まどろこしさを覚えるようになる。さらに各部署の担当者達が3次元CADを駆使できるようになってくると、直接3次元図面やシミュレーションツールをいじりながらのディスカッションを行い始める。こうなるとビューアだけでのフィジビリティースタディやDRでは物足りなくなり、「俺のところにも本物のCADをもっと沢山入れてくれ!」という要求になってきた。
しかしこのような要求に全て応えていたのでは、投資コストが馬鹿にならない。新たに生まれたニーズを含め、本来なら必要になるであろうライセンス数を満たそうとすると、その投資コストは半端な物ではない。結果、ここを如何に削減するかと言う問題が絶えずつきまとっくる。
そして現実的には、その契約形態でコストを大幅に圧縮する方法、古いバージョンをうまく生かして活用する方法、頻繁に用いる必要のない部署に対しては、互換性のある廉価な物を導入する方法など、それぞれに合せた工夫を行い、このコストの問題を凌いでいる。
一方、この手の展示会は、それぞれの販社が、ビジネスとして今現在注力している商品を中心に、来場者にアピールをする場面なのだから、3次元CAD関係への力の入れ方が殺がれてしまっているのは、彼らがその潜在需要に気付いていない限り、当然の成り行きとも言える。
だが、私の観点で言わせて貰うと、この販社達は、折角のビジネスチャンスを、棒に振っている大馬鹿者に見えて仕方ない。既存の3次元CADユーザ達に、上記した私の客先のような、御利益の出る形で、有効活用さえして貰えれば、まだまだ数十倍のマーケット規模を、潜在的に持っているからだ。
しかし、その多くが3次元CADの有効活用(本当の意味での)に頓挫してしまっている現状からは、彼らに取っても如何ともしがたい状況なのだろう。
その他、今年の展示会の特徴だが、CAEのゾーンで、粉体運動シミュレーションツールが幾つも展示されていた。3年ほど前から目にとまるようになったが、今年は昨年の倍に増えた感がある。
地球上の物質は、突き詰めれば、元素という粒子でできているのだから、物理学的には、その結合条件などが巧く把握表現できさえすれば、水や気体などの運動をシミュレートするには、極めて合理的なアプローチかも知れない。コンピュータが日々高速化している今現在、力づくでこれらの運動を解かせても良いと考える。
しかし、シミュレーション条件として与える、粒子間の結合や滑りの条件の把握は、一筋縄では行くまい。有限要素法の変形・応力解析で用いるヤング率やポアソン比のように、設備さえあれば容易に求めることができるような代物ではないだろ。実用化までには今暫く時間が必要と診るが、期待しながらその成長を見守りたい。
後は、新規性の乏しい展示会だったと思う。