CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

開発拠点の海外移転に伴う、効率の良い設計技術の移転方法は?



■質問■

<前略>

長引く国内需要の低迷と円高のため、弊社でも、今後積極的に開発拠点を海外に移すことを考えております。よりマーケットに近いところで消費者のニーズを的確に把握し、効率の良い製品開発に結びつける目的です。

弊社での海外生産の歴史は古く、20年以上前から、台湾資本と組んでの中国生産など、現在では20カ国を越える国々での海外生産を行っております。しかしこれらのほとんどは、生産だけを海外に移転しただけで、量産立上げ時に、設計者達が赴任する以外は、設計機能を持たない形態を取っております。

例外的には、利益率が高く、高度技術を持った人材が割合容易に確保でき、且つユーザーニーズが多用な、米国とEC拠点では、現地にも開発部門を置き、一部の現地特化した製品の開発を行うと共に、国内で開発した製品を元に、調達部品など用に変更を加える設計作業を行っております。

しかし経済成長の激しい中国など、安価な生産拠点としての意味合い以外にも、巨大市場という状況に変わってきており、米国やEU以外の生産拠点にも、製品開発機能を持たせる必要性を強く感じて来たための方針転換です。

ところが、これらの新興諸国で、米国やEUで行ったと同じ方法での開発組織構築は、特にその人材確保の面で極めて難しく、かといって国内から大半の設計者達を、海外所拠点に分散させるわけにも行かず、思案にくれております。米国やEUでは、弊社の競合現地メーカ経験者を中心に、確保さえすれば、日本流の物づくりを理解させる意外には、基本的な人材育成を必要としなかったからです。

そこでお教え願いたいのですが、先生が提唱されている設計思考展開は、このような場面で新興国のエンジニア達に、弊社の持つ技術を伝授し、現地独自で開発を行なえる組織に育て上げる道具として活用できる物でしょうか。

又その際、先生にご指導をお願いできる物でしょうか。費用は如何ほど見込んでおけばよろしいのでしょうか。

<後略>

■回答■

まず“設計思考展開”が道具として活用できるか?と言うご質問には、YESです。まさにうって付けの道具です。既にお読み頂いているのだと思いますが、詳しくは私の著書「設計思考展開入門」を参照下さい。

しかし、貴社が持つ製品固有技術や継承技術を、洗いざらい“設計思考展開”で展開をし、そのまま闇雲に現地展開すると言うことは、貴社にとっては自殺行為だと考えます。その理由は説明しなくても理解頂けると思いますが、特に中国などでは、貴社が3、40年掛けて会得してきたノウハウを、現地パクリメーカに無償で渡すことに他ならないからです。

余り公にはなってはおりませんが、生産設備一式をごっそり盗まれたり、図面を洗いざらい持ち出されるなど、大きな被害を受けた日本メーカは、少なくないはずです。現に、複数の私の支援先でも、少なからず同様なトラブルがこれまで生じており、その対策に苦慮しております。

さらに始末が悪いのは、貴社が一生懸命育て、ノウハウを伝授したエンジニアが、それを売りに現地競合メーカに、積極的に転職して行くことです。彼らは、自分を高く売る目的で、一時的に日本メーカに勤めるだけですから、貴社では何ともしがたい事になります。資料でも持ち出さない限りは、全く合法ですので、法的手段も打てないでしょう(元々中国では、日本企業対中国人の争いでは“官”の力は、全くあてにできませんが)。

ですから、何処までノウハウ部分を開示するかがポイントになります。信頼できる国民性か否か、その度合いを、明確に定量化して、それに従いノウハウ開示の匙加減を行うべきだと考えます。

20を超える生産拠点をお持ちの貴社でしたら、中国のように全く信頼できない国か、ある程度信頼の置ける国民性かなど、既に把握しておられると思いますので、その経験やデータを元に匙加減を考えればよいと思います。

さて、貴社にご支援を申し上げることが可能か否かですが、吝かではございません。しかし、20余りの開設を予定している全ての開発部署に対しての、“設計思考展開”活用指導やその展開方法指導を私どもがお受けすることは、その費用面から考えても余り現実的では無いと思います。

現実的には、以下の各作業の範囲にご支援を限定することをお奨め致します。


  1. 現地開発力移転及び現地人材育成計画の策定支援
  2. 現地展開をしたい製品の、製品としてのあるべき姿を99%洗い出した“設計思考展開表マスター”の作成作業支援
  3. “設計思考展開”展開作業をリードするリーダ(展開司会者)の育成
  4. “設計思考展開表マスター”から現地化を行う匙加減策定支援


費用的には、貴社がご希望される規模により、その金額が大きく変わりますが、ザッと見積もって以下の様になります

   
概算費用(具体的には貴社のご希望を拝聴の上再見積もりさせて頂きます)
支援年次 
費用 支援実日数
1年目 (集中的に準備) 5,000万円 50〜100日程度支援
2年目 (現地展開開始、不具合修訂) 3,000 万円 30〜60日程度支援 
3年目 (現地化フォロー) 1,000 万円  10〜20日程度支援
4年目 (現地化フォロー) 1,000 万円  10〜20日程度支援


なお、上記費用には、旅費・経費・税などは含まれておりません。また国内だけの支援を前提にしており、私自身が海外に赴く場合には、それに費やす日数も支援実日数として追加させて頂きます