CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

改めて問う、設計に役立つ設計支援ツールとは(その4)・・・設計現場においてその効率や質の向上を妨げているのは何?(前編)


設計現場においてその効率や質の向上を妨げているのは何?(前編)


それは偏に“人”が原因である。本来なさなければならない設計検討や、検証を手抜きし、形ができれば設計ができたと勘違いしている、似非設計者達の存在が最大の原因である。

これを言うと、多くの製造業の設計現場から「うちではそんな事は無い」と強い反論を受ける。しかし私がこれまで行った“現状診断”で、過去行った設計内容の“狙い”や“意図”の説明を求められ、まともに答えられない設計者が極めて多い。

「3年も前に行った設計内容を突然聞かれても・・・」と言訳をするが、私が質問するポイントは、その開発途上で幾度も問題を起こしたり、出荷後クレーム問題を起こしている部分の設計内容だ。まともな設計者なら、このような部位の設計内容は、10年経っても答えられなければおかしい、「例えこじつけの自己弁護でも良いから」と私は考える。





図5 設計者の思考・作業のプロセス

本来設計という行為は、図5に示すよう、設計の目的に対してその具体化手段を考え、そのアイデアを具象化する。そしてその具象化した設計案に様々な検討を加え、設計目的にその設計案が合致していれば次のステップの設計案検討に進む。設計目的に叶っていなければ、図面を消して(2次元CAD以降はレイヤー分けなどの手段もあるが)新しい設計案を考える。そしてこの作業を、螺旋階段を上がるが如く繰り返し、設計ゴールに至る行為を指す。

ところが上記した似非設計者達には、“設計案に様々な検討を加え”の部分を大きく割愛し、見てくれだけが仕上がり、とにかく物が早くできる事を目指す傾向を見て取れる。「机上で難しいことを予測するより、とにかく物を作って、問題が出たら直せばよい、その方が早い、昔からそうしてきた」と悪びれることがない。

確かに、20年前の我が国製造業における設計スタイルの多くは、このような設計アプローチを許容してきた。「能書きだけでは巧く行かない、予測する技術も道具もない、とにかく物を作って問題を出してみないと設計が進まない!」「とにかく物を作って見せないと、上層部も、調達も、物づくりやサービスも、コンカレントに参加できない」などという論理が大手を振って通っていた。

しかし、このような文化の中でも“良い設計”ができていた設計者達がいる。私が各所で言う“スーパーエンジニア”達だ。彼らは、それぞれの設計作業の中で、“設計案に様々な検討を加え”の部分を彼らの持つ技術やスキル、若しくは洞察力やシミュレーション能力(CAEに限らない)を駆使して、予測される問題をこの段階で潰し込んで、“後戻・手戻の無い”“スムーズに量産立上げが叶う”クレーム発生が極めて低い“設計をものにしてきた。

表面的には、上記した似非設計者達が行う設計作業と全く同じ流れだ。しかし、図2に示した3つの“大きな無駄”の発生度合に、雲泥の差があった。そして、当時の設計マネージャ達は、この事実を充分に認識し、難しい案件、重要な案件は、これら“スーパーエンジニア”に委ねる、人的な采配で、3つの“大きな無駄”の発生を防ぐ努力を行っていた。





図6 出生数の変動

ところがこの文化も、バブル期における製品開発部署の急拡大(人的水増し)と、バブル崩壊に伴う“スーパーエンジニア”の淘汰、スーパーエンジニア候補生の供給大幅減(本誌2005年1月号63ページ、及び図6参照)でその多くが崩壊し、私が言う“似非設計者”の蔓延へと至ってしまったのである。

この人に起因する問題を解決する策は、過去私が記した様々な著作に記してあるので、本稿ではこれで留めるが、3つの“大きな無駄”を解消する為には、この部分が最も重要なポイントであることを、改めて述べておく。