CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

改めて問う、設計に役立つ設計支援ツールとは(その3)・・・何を狙って取組を行うのか、そしてツールの活用は如何なる位置づけで?


何を狙って取組を行うのか、そしてツールの活用は如何なる位置づけで?


 一方私の元には、「結局3DCADもCAEも無駄遣いと徒労に終わった・・・」「3次元CADが役に立っていない今後何をなすべきか?・・・」「3次元CADを本格導入して5年経ったが一向にフロントローディングにならない」「ベテラン設計者が3次元CADを使ってくれないので計画図の流用設計ができない」「3次元CADを導入して10年になるがその効果が実感できない、何が悪いのか?」など、様々な問い合わせがある。特にこの2年その問い合わせは顕著だ。

そして資料添付があり原因推定ができたものや、その後のメールのやり取りで、ある程度原因推定まで至れたもののほとんどは、様々な能書きを掲げ、その取組にチャレンジはしているのだが、結果をみると、3次元CADを導入することだけが最大目的になっていたパターンである。

このため、3次元CADの選択にとんでもない誤りを行っていた例や、とにかく稼働率を上げさせようと、設計効率を大幅に低下させてまで、闇雲に取組んだ例など、いつの間にかツール導入だけを目的とした、まさに本末転倒の取組に陥っていた例がほとんどであった。

 しかしこれらの話は、原点に戻って冷静に考えてみれば、わざわざ私に問い合わすこともない話のはずだ。なぜなら、自分たちが、これらの道具を取り入れて、何を行うのかを、明確にしてあったなら、絶対陥らない失敗だからだ。

要するに、自分たちが行っている設計業務や製品開発業務の、どこが拙く、それをどのように直して行くのか、その際に、どのような道具が必要となり、その道具には、このような役割を果たさせる。云々と、緻密に追い込んであれば、このような結末には、絶対に陥る筈がない。

さらに驚くべきは、これらの大チョンボの当事者達(少なくとも私に問い合せてきたほとんどが)は、自分達のしでかした行為が、自社にとってどれほど大きなダメージを、与えてしまったかかを自覚していなかったことだ。

彼らは、「失敗と終わった取組(本当は認めたくなが)に、膨大な費用と時間を費やしてしまった。そして結果として、自社に見逃せないほどの、大きな損害を与えてしまった」とだけ単に考えている。中には、「それはそれで学習をしたわけで、自社に損害を与えたとは思っていない」と豪語する者すらいる。

しかし現実は、そんなに甘いものではなく、これら質問者の企業が、無駄に時間を費やしていた間に、一部の競合企業は、巧く取組を改革に結びつけている。そして、これら企業間での“力”の差が歴然と付いてしまった事に、全く気付かずにいるのだ。

要するに、質問者達の企業がモタモタしている間に、競合企業達は、その設計力や製品開発力で、決定的な差を付けたと言うことだ。少なくとも私が関わっているケースでは、その著作に示すよう、驚異的な体質強化を、成し遂げている。

この事実を踏まえたとき、これらの質問者達は、これまで行ってきた取組が、自己の判断ミスで失敗してしまったことを謙虚に認め、その責任の重大さを自覚し、自社に与えてしまった損害に対して、深く反省をすべきだと考える。

さて、これまで設計業務や製品開発業務の“無駄撲滅”に、本格的な取組を行ってこなかった製造業には、図2に示すような3つの“大きな無駄”が一般的に見られる。これらの無駄は、この20年来私が提唱してきた「フロントローディング設計」、即ちあらゆる場面で起こるであろう問題を予測し、先手を打って潰し込む予測型設計を駆使してやれば、一掃できる“無駄”なのだが、多くの製造業では、この無駄に悩まされ続けている。





図2 製品開発過程で生ずる三つの大きな無駄

具体的には、試作段階で生ずる極めて膨大な手戻・後戻りの問題。量産立上げ段階では、そのスムーズな立上げ(垂直立上げ)を妨げる様々なトラブルの問題。そして製品出荷を始めると、大挙して押し寄せてくるクレームの問題である。そして頭では、常に先手を打って、質の高い設計を行なってやれば、一掃できると容易に分る話なのだが、いざそれを解消しようとすると、極めて難しい取組となる。

一方弛まなく“改革・改善”を続ける、我が国の一般的な製造業においては、改革改善レベルで解消できる無駄の撲滅は、何処の設計部署でも昔から行われてきたはずだ。忙しさにかまけて、陳腐化した仕組や道具を使い続けるケースはあったとしても、それすら自分たちの業務のマイナスになっていると判れば、立ち所に改めるのが常である。

そしてこれらの取組に利用できる、設計支援ツール類は、その都度適切な物を選び、そつなく活用しているのも、一般的な我が国製造業の平均的な姿であり、このレベルの話は本稿の内容からは割愛する。

ところが、上記した3つの“大きな無駄”は、昔から我が国製造業が得意としてきた“改革・改善”レベルの取組では、容易に解決できる代物ではない。これまで私がつぶさにその内情を見てきた160件を超える“現状診断”先でも、これらの難題は、改善に積み残しされたり、何度チャレンジしても巧く行かず、無意識のうちに棚上げされてしまっていた例がほとんどであった。

そしてこれらの“無駄”は、「設計の質が低いからだ」と括ってしまえば、一言で言い切れるのだが、では具体的に何が原因でその無駄が生じているのかの究明が難しく、仮に原因がそれとなく分っても、直す手立てが分らないような代物である(素人には)。

このためこれまで私が診断を実施した各社でも、中・長期計画や、年度実行計画のテーマとしては、その問題解消への取組が毎年のように取り上げられていた。しかし実質的な成果を上げることができず、消極的な先送りがなされてしまっていたのである。

さらに始末が悪いのは、「道具さえ入れれば何とかなるだろう」との安易な判断を行った一部企業である。道具を入れ、それを使わせようと躍起になったのだが、結果は上記質問者達と同じような状況に陥ってしまっていた例である。私がこれまで行った“現状診断”と、単発的に行ってきた単発コンサルを併せると、、極めて多くの製造業がこのような状態に陥っていた。

ここで注意してこれらのアプローチや道具を診てみると、“改革・改善”レベルの取組の場合には、特に難しい手法をマスターしたり、使い方を時間を掛けて工夫しなければならないような道具はほとんど見かけない。

ところが、上記した3つの“大きな無駄”を解消するための取組には、設計アプローチ方法や、その考え方(商品開発全体を通して)を、根本的に変えて取り組まなければならない場合もある。またそれに活用する手法や道具も、安易に導入して苦もなく設計者達の良きツールとなるような代物では、役に立たない場合がある。

具体的に効果を生む手法は、私が提唱するフロントローディング設計、さらには設計思考展開やFS(フィジビリティースタディー)などの手法である。若しくは設計工学などの手法だ。また具体的な道具としては、詳しくは後で述べるが、主には3次元CADやCAEなどの設計意図具象化・シミュレーションツール群、製品開発業務をIT側からマネジメントするツールやDR促進のためのコミュニケーションツール群、更にはスムーズな物づくりへの準備ツール群だ。

実際に私がこれまで取り組んできた、上記した3つの“大きな無駄”を解消するための取組では、これらの決して易しくない手法や道具を、フルに有効活用することで、その取組を成功させてきた。後で振り返ってみて、これらの手法や道具がなかったら、成功に至れなかったケースもある。

見方を変えると、上記した3つの“大きな無駄”を解消するための取組には、「何が問題だ!」「その問題を解消するためには何をなすべきである!」「そのためにこのような設計手法や技術を会得する必要がある!」と言う論法で、取組への狙いが、まずは詰められるべきである。

さらに、実際の取組に際しては、役に立つと思われるツール群を、実際の設計作業に、どのような手順で取り込んで行くべきで、そのためには何をなさなければならないか、と言う風に追い込んで行く検討・計画が不可欠であり、これが無くして取組への成功はあり得ない。

実際に私が、この20年余り取り組んできた設計改革の取組では、常にこのようなアプローチを行っており、原則に忠実に遂行できたところほど、より高い成果が得られている。

逆に上記した失敗例に類する企業の多くは、過剰な期待をツールに持ったり、自分たちが本当は何をなすべきかをあえて置き去りにして、安易にツールの導入・展開を行ったところに、その失敗の大きな原因がある。かつて導入に成功した2次元CADなどと、ツールの難易度が大きく違うことを充分に理解せず、売る側のセールストークを鵜呑みにして、その活用への緻密な目論見を持つこともなく、安易に取り組んだ結果の失敗とも言える。

ちなみに余り難しくないと括った“改革・改善”に用いられてきたツールとしては、ドラフターや2次元CADなどの製図ツール、電卓、パソコンなどのIT機器、WordやExcelなどのパソコンソフト、PCプロジェクタなどに代表される各種コミュニケーションツールやソフトなどが挙げられる。

そしてこれらのツールを良く見て欲しいのだが、これらのツールは、産業革命以来続く、3面図及び投影法を基本とした“設計手法”を、全く変えることなく、設計部署に取り込むことができ、特に大きな工夫をしなくても、その操作さえ覚えれば、直ぐに設計者達に、役に立つ道具であることが、分るだろう。