CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

改めて問う、設計に役立つ設計支援ツールとは(その2)・・・何のために新しい設計支援ツールを導入するのか?


何のために新しい設計支援ツールを導入し活用を目論むのか?


言うまでもないが、設計支援ツールは、あくまでも設計効率を向上させたり、設計品質を向上させるための道具だ。だから自社の製品開発や設計作業に役に立たない道具は、当然無用の長物と言える。ましてやこの無用の長物を無理矢理導入し、設計者達の仕事の妨げになるなどの行為は、決してあってはならない行為である。

仮に2次元CADも持たず、製図板で設計作業を行っている設計現場があったとする。そして、その製品開発は、何ら滞りが起こることも無く、極めて短期且つ高品質で行われていたとする。このような設計現場で「3次元CADが必要か?」と問われたときに、私は即座に「無用」と答えるだろう。

 実際に私の支援先には、従業員数、数百名規模の製造業で、このような設計現場が存在する。10年以上前に「うちでも3次元CADを導入しなくてはいけないだろうか?」と言う問いかけを受けて以来のお付き合いである。

現実的には、若い設計者達は、廉価な2次元CADを駆使しているが、同社技術の中枢であるベテラン設計者(主に役員クラス)達は、専ら自室に30年も前に製造されたドラフターを置き、少なくとも月に一回以上、日々発生する設計課題をあっという間にこなしている。

当然計画に則って、定常的に処理できる設計作業の主力は、技術継承の意図もあり若手設計者達に委ねているのだが、扱う製品の特性上、設計作業が必要とされる案件が不規則に発生する事情がある。そしてその受け皿を、役員クラスのベテラン設計者達が引き受けているのである。設計外注や派遣設計者などを利用する手立ても、当然過去模索されたのだが、技術流失のリスクと、かえってベテラン勢の負荷が増える為に、上記のような態勢に落ち着いている。

扱う製品が専ら断面図で事足りるのと、その加工を自社内及び昔からの協力会社群で行っているメリットもあり、図面表記内容も必要最小限で済んでいるため、普通なら嫌がる部品図(どちらかと言えば加工指示書に近いが)までも、ベテランの役員クラスが、手分けし嬉々とこなしている。

またベテラン勢にとっては、設計外注や派遣設計者利用などに、その都度、設計の意図や勘所を詳しく伝えたり、出来上がった図面を検図して直させる手間を考えると、自分でやった方が圧倒的に早いという経験もあり、上記態勢が特に問題視されることもなく続けられている。

余談だが、当然主力の若手達が、設計外注や派遣設計者に指示命令できればよかったのだが、余すことなく、その全工数を計画に埋め込まれている状況では、ベテラン勢が受け皿を努めざるをえなかったと言う事情があったことを申し添えておく。

また10年前より、主力となれる若手設計者を増やし、ベテラン勢が受け皿を努める態勢をなくす方向で、取組は進めており、若手設計者への技術伝承の取組が、私の支援の下、鋭意進められてきたことは言うまでもない。

実は現時点では、既にベテラン勢の仕事を、若手管理下で外注設計に渡しても、何ら問題がないレベルに技術継承は進んでいる。しかし「俺たちの楽しみを奪うな!」とのベテランの声もあり、外注設計コストが浮くとばかり、残業手当不要なベテラン方の“道楽”に便乗しているのが、実情である。

さて話を戻し、この製造業で上記「うちでも3次元CADを導入しなくてはいけないだろうか?」の問い合わせを受けた際、私が行なった“現状診断”結果のサマリーを、以下に列記する。

現状診断結果サマリー

  1. 扱う製品形状の特徴から、設計・物づくりの目的からは、未来永劫3次元CADは不要。
  2. CAEなどを活用した予測型設計の導入は必要だが、このための3次元CADも不要。
  3. CAE活用は既保有のツールで充分、活用方法の取得を早急に開始するべきである。
  4. 過去ベテラン設計者が受け持った開発案件は、ほぼ完璧の結果であり、この面からは特に新しい手法やツールの導入は不要である。しかしこれに頼り切った若手設計者達への、技術継承が不十分な状態にある。これが若手設計者の担当する開発案件の不首尾に結びついている。早急に技術継承を的確に行う必要がある。
  5. 技術継承を行うに当たり、ベテラン設計者が持つノウハウや勘所が、属人の状態にある。これらを体系的且つ論理的に整理し、若手設計者を含めた技術の共有化に結びつける必要がある。このために「設計思考展開」手法の導入と、整理体系化の作業開始をお奨めする。
  6. など。

 尚、私が行う“現状診断”とは、該当設計部署が抱えている問題点を洗い出し、その問題点を解消する最適策を提唱するものである。そして該当製造業では、無用な長物の道具を導入すること無く、私の提案を採用頂き、若手設計者への技術継承の促進と、予測型設計技術の確立に取組んだ。