CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

結局3DCADもCAEも無駄遣いと徒労に終わった・・・根本的な取組姿勢に誤りがあったはずです、これを機会に原点に戻って総括を行い、最チャレンジをされるべきです



■質問■

<前略>

貴方はお忘れかも知れませんが、25年以上前にお目にかかっております、株式会社@@@の**と申します。

小職は、本月23日の60歳の誕生日を持って定年退職となります。再雇用の選択肢もありましたが、これまで私が行ってきた様々な取組のほとんどに、無駄な取組との烙印を押されており、無用の長物扱いで、なかなか引受先もなく、やむなく新天地で別な道を歩む覚悟をいたしました。

さて本日問い合せさせて頂いたのは、永年私が抱いてきた疑念を、退職を機に黒白を付けようとの思いからです。その疑念とは、貴方がこの30年、絶対に御利益があると、各所で推奨宣伝してきた3DCADやCAEは、実際の我が国製造業にとっては、費用ばかり掛かって、ほとんど役に立たない、CADベンダーやコンピュータ販社だけを稼がせる、まやかしの道具ではないかとの思いです。

貴方達は、CADライセンスなどが売れればそれで稼げるのですが、それを購入した我々は、膨大な費用を費やしたばかりに、自らのサラリーマン人生を掛けた長い苦しみが始まることになります。現に私は、その導入以来15年余り、その定着や活用の活性化のために心骨を注ぎ、ひたすらその役目に邁進してきたのですが、設計者達からの「3DCADは全く役立っていない、かえって設計の効率化を阻害している」「主力設計者達は、結局2次元で設計をしている」の一言で、あっさりと“ダメ”の烙印を押されてしまいました。

事の始まりは、25年前の貴方のプレゼンテーションです。貴方の話に感銘を受けた当時のトップが、貴方が言う方向での「環境整備と体制確立に直ぐ取りかかれ」との号令の元、私がその実行責任者として指名され、悪夢の日々が始まった次第です。

総論で申せば、私が浅はかだったのですが、その後、貴方の配下や後輩の方々が提案してくる、様々な美味しそうな話につい乗せられ、この20年余りで数十億というとてつもない費用を費やしてしまいました。「貴方の考え方に則った提案である」とのセールストークを、鵜呑みにした私が悪いのでしょうが、後で振り返ってみると、売り逃げとしか思えないような提案が山ほどなされ、そのほとんどに乗せられていた始末です。

また弊社を担当する当時の販社の担当営業やその上司達が、「貴方を連れて来て説明させろ」と言う当方の要求に、様々な理由を付け、貴方本人ではなく、別なコンサルを連れてきたりしてお茶を濁していた本当の理由を知ったのは、日経メカニカルなどに貴方が寄稿を始めた1996年頃で、そのころには、我が社は抜き差しならぬ所まで既に取組が進んでおり、それまでの方針通り取組を進めざるを得ませんでした。

それでも10年ほど前、うまくいっていない状況を打破すべく、「貴方に金を払っても良いから連れて来い」と何度か販社営業に要求したのですが、様々な理由を付け、結局は実現できませんでした。そしてこの時点で、あきらめの境地に正直入っておりました。

そして、退職前の暇つぶしに、貴方のコラムをなめるように読んでいると、弊社と同じような状況で助けを求めている方に、にべもなく貴方が答えているコラムを見て、弊社のようなケースではどのような答えになるのかと、興味を抱き問い合わせをさせて頂いた次第です。

ただ、他社のケースは、貴方が全く関知しないところで進んだ出来事の、顛末に対するコメントでしたが、弊社の場合には、少なくともその初期段階で貴方が関わっていたと言う違いがあります。この関わりに対する貴方の責任も含め、送ります資料に目を通して頂き、コメント頂けますと幸いです。コメント頂く義務が貴方にあると思います。

<後略>

■回答■

**さんご無沙汰しておりますと申したいのですが、誠に申し訳ないことに、全く私の記憶や記録に**さんの存在がございません。

カビの生えた昔のシステム手帳を引っ張り出し、過去の私のスケジュールをひっくり返してみますと、ちょうど25年前の7月、貴社にお邪魔させて頂き、ホールのような所で講演をさせて頂いた記録があります。

当時の記録によれば窓口は$$さんで、恐らく**さんが言われるトップは¥¥さんでは無いでしょうか。講演後、席を移し会食させて頂いた記録があります。

当時所属した販社での私の役割は、技術の専門課長で、大勢居る営業マン達の要求に応え、ホットプロスペクトに対するセールスサポートや貴社で行ったような「我々はこのように考える、3DCADやCAEは、設計にこのように生かして行かなければならない、云々」のプレゼンテーションを各所で行っておりました。

そのような中で、私の考え方を信奉してくれる営業マン達は、キックオフ的なプレゼンテーションから具体的な提案に向けた打合せ、提案書作成、提案プレゼンテーション、セールス受注までのセールスサポート、そして導入後の客先での立上げ支援総括まで、私を頼りにしてくれ、私の考え方やペースで取組を進めてくれました。

一方私の考え方を、本音では理解できていない営業マンなどは、極めて厳しい競合場面でのセールスサポートや、単発的なプレゼンテーションだけを場当たり的に依頼してくるケースも多く、このようなケースでは、私がアクションした後の顛末報告や相談が全く無いケースも数多くありました。

基本的には、自分の顧客が、導入してくれた道具を、巧く生かして使って貰い、製品開発や物づくりの場面で、メリットを享受して貰う事など全く念頭になく、自分の年度売上が、上がりさえば良いと言う、愚かな営業根性の連中です。

私が経営者なら、このような体質は絶対に許さない所ですが、当時は一介の課長クラスですから、上層部に対する問題提起は行ってはおりましたが、このような営業マンを相手に、ことさら問題化するアクションまでは取れておりません。そのような立場ではありませんでしたし、権限もありませんでした。

しかし上記したような事を続けていたのでは、これから始まる3次元化に対する顧客対応は絶対無理だと、売る側のあるべき姿の先鞭を付けるべく、私自ら営業部隊に移り、特定の営業チーム(限定された顧客)だけを、徹底的にフォローするような態勢に強引に変えて貰い、2年余りの活動を行っておりました。しかしこの取組も、理解できない営業マン達の横槍や嫌がらせで、思い通り続けることができなくなり、1992年の独立開業へと至った次第です。

そして貴社のケースは、全く不幸なことに、この後者の範疇に含まれます。貴社で講演を行った後、お問い合わせを頂だいた今日現在まで、全く貴社の動向を私としては、関知しておらなかった次第です。少なくとも私が該当販社に在社中、何らかの貴社に関する相談があれば、現状に至るような誤りを犯さない、それなりのアドバイスができたと思いますが、残念ながらそれもございませんでした。

強いて貴社担当の営業マンをかばうと、私が在社時は、未だI-DEAS Masterシリーズもリリースされておらず、3次元化の波は、私が退社した後に本格化いたしました。このため、貴社担当営業マンが仮に私に相談したくても、私には、“タダ”で相談できない関係になってしまっており、仮に該当営業マンが何らかのアクションを取ったとしても、その上司から許可が下りなかったはずです。

ちなみに私は開業以来この19年間、古巣の販社とは、邪魔をされることはあっても、一切の協業を行っておりません。ですから恐らく10年前の**さんからの要求も、そのような経緯でうやむやになったと思います。私には一言も問い合せもありませんでした。ましてや貴社に訪問してくれなどの打診どころかコンサル費用の問い合せもございませんでした。

ですから私の責任と言われても、私としては寝耳に水の話で、強いて言えば、上記したような問題体質を持った販社だったので、見切りを付けて独立をした。程度しかお答えしようがありません。

ちなみに貴社のようなケースで、単発的なコンサルは、一回50万(旅費等別で、概ね5時間程度のQ&Aになります)でお受けしております。これからでも仕切直しはできるかも知れません。**さんが退職なされる前に、私をお呼びいただいたら如何でしょう?後輩の方々に対する良い置きみやげになると思いますので。

さて貴社が行った取組の最大の失敗点は、お送り頂いた資料から判断すると、ご多分に漏れず、3次元CADやCAEを、導入して使わせることを目的にしてしまっているところです。その導入初期段階から、私に言わせると絵空事と思えるような文言が並び、自分たちの設計部署で何が問題なのかを、全く分析できていない状況が垣間見えます。

3次元CADやCAEは、設計の生産性を高めたり、質を高める道具です。 たかが道具にしか過ぎません。道具を取り入れて一応使えるようになったとしても、設計者達が自分の重宝な道具として駆使してくれなければ無用な長物です。

そしてこれらを取り入れる製造業は、それ以前に自分たちの設計業務の効率化や質の向上を妨げている、人的要素や旧弊、設計・開発プロセスなどの問題点を突き止め、これらを計画的に潰し込んで行く取組がなされなければダメなわけです。

3次元CADやCAEは、これらの取組に有用なら積極的に活用すべきだし、無用ならあえて取り組む必要もないと言うことになります。

貴社の取組の顛末には、残念ながらこのような段階を踏んだ取組が読み取れませんでした。恐らく貴社の取組には、根本的な取組姿勢に誤りがあったはずです。本HPや私の著書類には、この辺の話が盛りだくさん解説されておりますので、後任者の方々に是非お目通し頂くよう、ご指示下さい。これを機会に原点に戻って総括され、新展開を図るべきだと考えますので。

と言うことで、**さんが永年疑問に思われていた、3DCADやCAEは、実際の我が国製造業にとっては、費用ばかり掛かって、ほとんど役に立たない、CADベンダーやコンピュータ販社だけを稼がせる、まやかしの道具ではないかとの思いは、責任転嫁以外の何物でもなく、ご自身がその取組を誤った以外の何物でも無いとご理解頂けますでしょうか。

私がこれまで手がけて来たケースの中で、概ね私の考え方に従って頂けたところは、漏れなく成果を上げております。画期的な成果に至らなくても、その投資対効果は充分に確保頂けております。

また「貴方達は、CADライセンスなどが売れればそれで稼げるのですが」も大きな誤解があります。少なくとも独立開業以降の私は、CADやCAEのライセンス販売は行っておりませんし、販社からのマージンも何ら受け取っておりません。**さんの私に対する先入観と誤解を解いて頂けるようお願い致します。

さらに敢えて**さんに嫌われるのを承知で、御貴殿に対する苦言を言わせて頂きます。その苦言とは、ご自身の取組に対する自助努力が大いに不足している点です。御貴殿の失敗原因は、その多くがこの自助努力、特に情報収集部分にその原因があると思います。

これまで御貴殿が頼ってこられた(であろう)、販社からの(恐らく複数社でしょうが)一方的な情報では、売る側の論理しか手に入りません。また工学情報誌も多くは、広告を目当てにした販社達の手先です。このあたりに失敗の根っこがあると思いますし、最大の原因だったと思います。

ちなみに私は、1996年に私の最初の著書「3次元CADによる設計の改革術」を日刊工業新聞社より刊行しておりますが、それ以前から工業新聞や雑誌への寄稿、各種セミナーなどでの講演などを行っておりました。 **さんがもし高い意識さえあれば、もっと早い時期に私が某販社を辞めたことが判ったはずです。更に私の著作物類にお目通し頂き、私の考え方を採用頂いていれば、このような失敗には陥らなかったのではないかと思います。

もっと早く、私にこの疑問を投げかけて頂けていたら、**さんの取組も巧くいったかも知れませんし、ご自身の評価も今のような状況に陥らなかったかも知れません。

最後に今更振り返っても仕方がない話ですが、25年前に貴社で講演を行った際、**さんのお名刺を頂けていたら、私の退職開業の挨拶、時候毎の近況報告、セミナーや著作物に関する案内などお送りでき、**さんも私へのコンタクトを取りやすかったと思います。これも巡り合わせですかね。悪しからず。