CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

3次元CADが役に立っていない今後何をなすべきか?・・・設計に役立つ道具になり得ていないと言うことは、単に投資対効果の問題だけではない極めて重大な損失を、会社に与えていると言うことに、気付くべきである。



■質問■

<前略>

今更のお問い合わせ、相手にして頂けないかも知れませんが、恥を忍んで藁をも縋る思いで、お問い合わせさせて頂きました。

14年前、先生のご忠告や反対を無視して、Pro/ENGINEERの導入を行いました。それ以来すっかりご無沙汰させて頂いていたのですが、我々なりに3次元CADの活用に邁進して参りました。

しかし導入から10年目の5年前時点で、経営層や設計幹部の大方の評価は、「投資対効果が全くない」「主力の設計者達の道具になり得ていない」「結果として主力設計者達は2次元CADで構想設計を行っている」と言う、我々にとっては惨憺たるものでした。

そして、「14年前に先生から頂いたご忠告や予言が物の見事に的中しているのではないか!」との指摘をうけ、「一度先生にご来社頂き“設計業務全体からの診断”をしてもらえ」との指示が当時の技術トップからは下っておりました。

しかし、私を含め推進スタッフ一同、先生のご助言を無視して突っ走った経緯があり、正直なところサボタージュ的に、あれこれと理由を付け、先生にお声を掛けさせて頂くことを先延ばしにしておりました。そんなところにリーマンショックが襲いかかり、それどころでは無い状況に陥っておりました。

一方弊社においても、ワールドワイドビジネスで勝ち抜ける企業体質を目指し、経営層の大幅若返りを進めており、私より若い執行役員が次々と誕生しております。そして今月末の株主総会では、先生を信奉しております**が、執行役員開発本部長に就任することになっており、月初より矢継ぎ早に、新開発本部長方針が発せられ、“3次元CADを始めとする設計支援ツールの徹底仕分け”や“フロントローディング設計体制の早期実現”が、具体的に挙げられるに至り、観念して先生にお問い合わせさせて頂いた次第です。

いずれ**からも直接先生に何らかの接触があると思いますが、我々としても今後の準備態勢を整えておく必要があると思い、厚かましくもお問い合わせさせて頂きました。この14年来、我々が取り組んできた取組の資料(主に年次実行計画書と結果報告書ですが)を添付致しますので、ご高覧の上、今後進むべき方向性などご指導頂けますと幸いです。

<後略>

■回答■

ソースは申せませんが、この14年間における貴社においての皆さんの取組は、つぶさに把握しております。当然私どものビジネスとして、貴社にて予算措置頂いた費用の中で、貴社の方々にアドバイスを申し上げておりました。見当は付くと思いますが、皆さんが推進しようとしている方向に懐疑的な思いを持っていた方々や、ツール面からではない設計技術力の強化を模索していた方々です。

余談ですが、この14年の間に年平均2回以上は、皆さんがいらっしゃる事業所にも訪問し、来客棟の会議室で打合せをしておりました。

さて、そのようにして私が把握している貴社の状況と、@@さんがお送り頂いた資料には、余りにも齟齬があります。何処の企業でも同じですが、年次の実行計画書などには、きれい事しか書かない傾向が強くあり、@@さんがお送り頂いた資料は、まさにこの類の資料とお見受け致しました。

もし私が、貴社の内情を全く存じない状況下で、このような資料での問い合わせを受けた場合、眉に唾を付けながらも、一応は何らかのお答えを申し上げるでしょうが、貴社のケースでは、“時間の無駄”以外の何物でもありません。

と言うことで、添付頂いた資料は無視してコメントさせて頂くと、@@さん達が行ってきた取組の最大の問題点は、「取組の目的を誤った」「ツール導入成果の評価指標を誤った」の二点に尽きるでしょう。

要するに、3次元CADは、たかが設計を行って行くための道具に過ぎないことを忘れ、”とにかく道具を操作できる設計者の員数を増やすこと”、”道具の稼働率を上げる事”、”道具を使った成果物の件数が増えること”など、本末転倒の目標実現に専念し続けてきた事が、大きな誤りだったと言えるでしょう。

14年前にも申しましたが、必要なのは道具に関係なく、行った取組の成果として、設計の効率が上がることであり、設計の質が上がることです。

裏を返せば、設計の効率が道具を変えることに伴うロスを鑑みても、大きくその生産性を高めることができたり、その道具を設計者達が効果的に活用することにより、“手戻り”“後もどり”“モグラ叩き”や量産立上げ段階での品質問題、市場品質問題の一掃などが叶う設計品質の向上に結びつくことができて初めて、その道具が目的とした取組に、貢献できたと言えるでしょう。

そして、このような視点から5年前の「投資対効果が全くない」「主力の設計者達の道具になり得ていない」「結果として主力設計者達は2次元CADで構想設計を行っている」との批判が経営層や設計幹部から行われ、当時の技術トップからは、「一度先生にご来社頂き“設計業務全体からの診断”をしてもらえ」と指示されたのではないのですか。

全くのあたりまえの話ですが、このあたりをしっかり理解認識した上で、今後の取組を行って行かないと、@@さんやそのスタッフの方々の今後は、極めて厳しい未来となると思います。

5年前における貴社内からの厳しい指摘に対して、自己保身を優先しその対策を放置した事実。この期に及んでの私への問い合せに、素人ならだませるかも知れないが、過去160件を越える現状診断を様々な製造業に行ってきた私に、赤子だましのような資料を送り付けてきた事実から推察すると、@@さん自身、事の重大さを全く認識できていないのではないかと思いますので。

14年前に、貴社と同じスタートラインで設計改革に取り組んだ製造業は、沢山あります。少なくとも私のお手伝い申し上げた製造業のほとんどは、画期的な設計改革を成し遂げており、数倍の生産性向上・品質問題の発生を10%以下に低減、開発期間の半減、など目を見張る物があります。ところが貴社では如何ですか?まさに貴社にとっては、“失われた14年”ではありませんか?

このような視点で見たとき、@@さん達の犯した過ちは、貴社に極めて大きな“損害”を与えたと言うことを強く反省すべきです。そして、自社に皆さんが与えた損害を、早急に回復すべく、身を挺して動くべきだと考えます。