本題に戻り、本レポートのタイトルには、“運命を共にしてくれる優秀な人材の確保”というタイトルを用いた。できるなら昔のようなスーパーエンジニアがごろごろと生まれてくれれば、文句はない。しかし上で説明したように、現実的にはそれは期待できない。
ではどうすればよいのかという話になるのだが、上でも触れたが、無い物ねだりをせずに、平均レベル以上の人材を、将来の自社を担う中核エンジニア(個々はスーパーエンジニアに至らなくても、チームプレーで足りない部分を補えるような)に育成する手段を講ずるしかあるまい。さらに三人寄れば文殊の知恵的なアプローチで、関係者全体の知恵や経験を寄せ集め、大勢の経験豊かな目で、その設計内容や商品企画内容を吟味する取組も効果を生む。そしてこのための様々な取組方法は、本ホームページの各所や拙著で紹介しているので、是非参考にして頂きたい。
一方このような取り組を、混乱無く同じ目的意識を持って進めさせるためには、論理的な価値観を持った、冷静な企業忠誠心が必要だ。己の出世や地位を守るため、その発言の根っこに、自己保身や他を排除する意図を持った発言がなされたら、上記したような取組は正常に機能できない。事業に関わるメンバーが、何の不安もなく、自分たちの共通の目的達成のため、その知恵を絞り出せる環境を、まず真っ先に整備することが肝要である。
また、企業への忠誠心は、社員に対する企業側の接し方が変われば(かつてのような終身雇用を前提とした家族主義などで)、社員側の忠誠心も変わってくる。会社側は度重なる無節操な人員削減行為を行ってきたのにも拘わらず、企業への忠誠心を求める、勘違いした製造業をたまに見かけるが、このような経緯のある製造業では、口先だけではおいそれと社員に忠誠心を持たせることは簡単ではない。
しかし其処まで無節操な人員削減に踏み込んでこなかった製造業では、明確に社員達の不安を払拭させ、将来に向けての能書きではない、実現可能であろう目標を共有させることで、間違いなく私が提唱しているような取組に入ることができるはずだ。
尚参考までに断っておくが、終身雇用を前提とした家族主義的企業経営を是とする私だが、決して闇雲な年功序列的な役割分担を認めているわけではないし、組織に寄生する輩や、円滑な事業運営に棹さす輩を容認しているわけではない。私が各所で展開してきた設計改革や事業改革の場面では、このような輩には退場をお願いしてきたし、その能力に従った適材適所の役割配置を、お願いしてきた。
一方、自己の役割に邁進する余り、体をこわしたメンバーや、その役割遂行上不幸にも障害を負ったメンバーは、少なくとも定年までは面倒を見るべきだ。ましてや本人が死亡した場合など、残された家族の保護も当然である。配偶者に対する遺族給与や、扶養者が成人するまでの生活・教育、補助などだ。現行法制上は、このような擁護までを求めていないが、“家族主義的企業経営”を標榜するからには、手厚く面倒を見るべきだと考えているし、企業と社員の間での一層の信頼関係構築には、極めて効果があると考えるからだ。