CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

戦略のない“人材仕分”をし、空洞化した製造業が生きながらえて何の意味がある!

 これからの我が国製造業が勝ち残る為には、自社と運命をともにしてくれる優秀な人材の、
徹底育成と有効活用以外無いのではないだろうか?


これまで私自身は、“人材仕分”等という言葉を前面に押し出して喋ったことはないのだが、この一年、“人材仕分”に関する問い合わせが頻繁にある。しかもリストラ(人員整理)を最終目的としたとおぼしき問い合わせがそのほとんどである。

創業以来私は、ワールドワイドビジネス環境を、先陣を切って勝ち抜ける、強靱な体力を持った製造業に、その支援先を体質改善する事に専ら注力してきた。そして、その一連の取組の中で、最も重要となる人材育成を、効果的に行う取組を各所で展開してきた。

私が行う人材育成の具体的な取組内容は、本コラムの各所で紹介しているため、その詳細の説明は割愛するが、この取組着手時点で、私が行う“人材力の評価”(確認)作業が、見ようによっては“人材仕分”と取れるような取組故、その一部を伝聞した方々からの、目的を違えた問い合わせだと理解している。

そもそも私が行う“人材力の評価”の目的は、次の二つである。一つ目は、即効性ある対処を行うための情報把握の目的だ。支援先企業の対象事業に関わるあらゆる人材(主にスタッフ・管理職)の能力を、冷静且つ定量的に漏れなく把握して、その能力が最大限引き出せ発揮できる、適材適所の人材配置へと結びつける目的である。

二つ目は、将来に向け策定する(した)、事業戦略を担う人材確保の目的だ。安易に外部人材の確保に走るのではなく、手持ちの人材の長所短所を的確に把握して、それぞれの人材を目的に叶う人材に育て上げる為の、個別育成カルテを作成する目的である。

確かに、我が国に比べ人口が10倍もある中国やインドから優秀な人材を確保して、彼らを活用する戦略もある。自社に対する忠誠心などは期待しない、徹底的に割り切った采配で、合理的な事業展開を図る選択肢だ。しかしこの選択は、我が国製造業で無くてもできる選択であり、既に欧米の大手製造業の多くは、この選択を行っている。また、勘違いした我が国大手製造業の一部も、この方向に流れている。

しかしこの選択は、我が国製造業がこれまで培ってきた、“日本製造業の良さ”を否定した選択以外の何物でもない。この選択が意味するところは、我が国製造業が、これまで培ってきたその良さを捨て、欧米大手製造業と同じ土俵(条件)で戦う事を意味しており、本当に勝算があるのかの、疑問がある。

さらにその上、中国をはじめとする新興工業国の台頭は著しく、政治的横槍を含め、言語の問題や自国民同士であるなどの圧倒的優位な立場にある、これら新興製造業と、人材を奪い合いながら、全面戦争を行う羽目にならざるを得ないはずである。どう考えてもこの選択肢には勝ち目がない。

しかも辛うじて確保して、自社の戦略に乗って役だってくれるであろうと期待していた、大枚を掛けてせっかく育てた人材の多くは、自分が会得(伝授して貰った)した技術を売りに、より高い報酬を求めて自己本位の判断で、雇用側の都合など一顧だにせず去ってゆく。ただ去るだけならまだましで、ごっそり技術を持ち去ってゆく。痛い目を見た我が国製造業は、少なくないはずだが、傷の浅い所は、早急に自社の戦略を見直すべきであろう。

一方我々は、創業以来20年余り、我々が提出した現状診断結果や、5〜10年後を目指した事業改革計画案などを基に、それぞれの製造業が培ってきた“日本製造業の良さ”を生かした、自社の将来像と改革計画を各所で策定して貰い(一緒になり策定して)、その実現を目指して、寝食を惜しんで取り組んできた。

そして私が提唱し、それぞれで改革の道具として活用頂いてきた、“我が国製造業流のコンカレント開発”の考え方も、“設計思考展開”などの手法や“フィジビリティースタディ”などのアプローチ方法も、全て、その根底には、我が国製造業がこれまで、培い蓄積してきた“良さ”を前提にしている。

話は戻るが、人員整理目的の“人材仕分”と誤解され、沢山の問い合わせが押し寄せる原因となった、我々が行う“人材力の評価”の目的は、くどいようだがあくまでも的確な人材配置と人材育成が目的である。具体的には、“手持ち人材力の徹底把握”を行い、短期スパンでは“手持ち人材の適材適所配置”を行い、その時点での最適化を図りつつ、長期レンジでは、“人材のそれぞれに合わせた個別育成”を行い、全世界の競合他社を席巻できる力を確保してゆく取組である。

20年前のバブル崩壊以来、人材面からの戦略を全く持たず、度重なる非人道的な人員粛正(リストラ)を行ってきた製造業には、今更無理な話だが、幸いにして少なくとも半分近くの我が国製造業は、我々が行っている方向と取組を倣って貰えば、これからも充分に生き残って行ける潜在力を持っていると見ている。

しかし現実的には、上記したような、人員整理を目的とした“人材仕分”の問い合わせが、絶え間なく続いている現状がある。このままでは、近い将来、我が国大手製造業の半分以上が、この世の中から消滅してしまうのではないかとの危惧すら抱いている。


本コラムをお読み頂いた皆さんは、是非自社の現状を、冷静に見つめ直して頂きたい。




尚、私が言う“日本製造業の良さ”とは、事業を構成する一人一人の目的意識の高さと、強い責任感や連帯感、更には企業(正確には運命共同体)に対する忠誠意識の高さなどを指し、これらが良い方向に纏まって機能している姿を指している。ちなみにこれらが悪い方向に働くと、“ダメさ”ともなるが。

さらに、私が定義する我が国製造業のあるべき姿は、以下の通りで、このような思想に基づいた製造業経営がなされていることが前提での、“日本製造業の良さ”だ。



<参考>


私が定義する、21世紀を勝ち抜くことができる我が国製造業のあるべき姿(2009年2月13日本コラムに掲載)。

21世紀を勝ち抜く製造業に課せられた使命は、そのものづくりを通じ、社会正義に反することなく、適正な利益を上げ、株主に適正な配当を行う事にあると考えます。利益の分配に際しては、その利益を上げるために身を粉にして働いた従業員に対しても、応分の還元(分け前)がなされることは当然です。さらに納税の義務は基より、企業活動を行って行く上で、協調関係にある社会への適正還元も忘れてはなりません。

そしてこれらの責務を各製造業が果たすためには、“旬でよく売れ稼げる商品”を、常に開発し続ける必要があります。要するに全世界の顧客ニーズにマッチした、安全で高品質且つ適正価格の製品を、より短期間且つ低コストに開発できる実力を持ち、常に安定した商品開発と製品供給が叶うことです。そしてその結果、我が国製造業が潤い、株主が潤い、従業員が潤い、関係者が潤い、国民全体が潤う構図を実現できる事が我が国製造業が目指すべき姿とも言えるでしょう。

さらに、ますます厳しさを増すグローバル競争の中で、我が国製造業が勝ち抜くためには、強靱な体力(開発力・生産力・販売力)を付ける事が必須で求められます。世界中の顧客に喜んで購入・使用いただける、高性能・高品質・低価格な製品を投入し続け、しっかり稼ぎ続けることができる体力です。

このためには、生み出した適正利益の中から、将来(5年〜15年先)を目指した的確な先行投資(先端技術の仕込み・優秀な人材の確保育成・工場用地や先端設備などの確保など)を行うとともに、ともすれば崩壊しようとしている自分たちの足下(商品・製品開発力の低下=設計力の低下)を、しっかり固めることが最優先で求められていると考えます。

尚従業員の雇用形態についての私の考え方は、終身雇用を是と致します。特に知的作業の集合体である商品設計・開発・さらには物作りの勘所は、それを担う人材如何でその体力に大きく差が生じます。

しかし、業績貢献と連動しない年功序列には賛同できません。少なくとも“働かない人間”“仕事を作り出す人間”“周囲の業務の足を引っ張る人間は”利益追求を目的とする民間企業としては不要な人間(人材ではない)です。このような人間にまで闇雲に応分以上の賃金を与え続けたり、在社年数だけでポジションを与えるような、愚かな習慣は容認致しません。